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短編シリーズ

プラモ戦士プリズ マギア

作者: 怪人工房
掲載日:2026/02/26

空が、割れた。

青く澄んだ朝の空に、突然ひびが入るように暗い亀裂が走り——そこから巨大な影が降ってきた。

「ギ、ギアロイド……!」

街の人々が逃げ惑う。ビルほどの大きさの機械生命体が、商店街に降り立ち、建物を踏み潰そうと足を上げた。

そのとき。

空から、光が落ちてきた。

赤と金に輝く、小さな何か。

それは——プラモデルだった。

「システム、スタンダップ!」

凛とした声とともに、そのプラモデルが眩い光を放ち、等身大のロボットへと変化する。腰に手を当て、ポーズを決めるその姿はどこかかっこよくて、どこか愛嬌があって——

「キャリバーナイト・アルファ、参上!」

怪獣とロボットが激しくぶつかり合い、衝撃波が街を包む。

その様子を、商店街の二階から目を丸くして見ていた少女がいた。


 神木かみきそらは、プラモデルが嫌いだった。

正確に言うと——プラモデルを作れない自分が、嫌いだった。

「そらちゃん、また失敗したの?」

放課後の教室。隣の席の藤野ふじのめいが、そらのデスクを覗き込んでため息をついた。そこには、無残にも左腕がもげてしまったプラモデルの残骸がある。

「…………」

そらは黙って、もげた腕を拾い上げた。ショートカットの少し茶色がかった黒髪に、くりくりとした大きな目。本来なら元気いっぱいの印象を与えるその顔が、今日は珍しくしょんぼりとしている。

「お父さんの形見なんでしょ? 無理して作らなくていいんじゃないかな……」

「ちがう」

そらはきっぱりと首を振った。

「お父さんがプラモ好きだったから、じゃなくて——わたしが、プラモで戦う人になりたいんだよ」

めいは困ったように笑う。

「そんな人、いないよ?」

「いるもん! 昨日もニュースで見たじゃん、あのロボット! プラモが変身して戦ってたやつ! 絶対あれ、誰かが動かしてるんだって!」

「それは……まあ、そうかもしれないけど」

めいは言葉を選ぶ。「でもそらちゃん、まだ基本的なキットもちゃんと完成させたことないじゃん」

ぐっ、とそらは言葉に詰まった。

それは、事実だった。

そらの父、神木たくみは、腕利きのモデラーだった。

一ミリにも満たないパーツを精密に組み上げ、完成したモデルに息を吹き込むように塗装する——そんな父の背中を、そらはいつも眺めていた。

父がいなくなったのは、三年前。そらが11歳のとき。

病気でもなく、事故でもなく——あの「最初の事件」のときだった。突然現れた機械生命体、ギアロイドとの戦いに巻き込まれて、父は帰らなかった。

それ以来そらは、父の部屋に残されたプラモデルキットを一つずつ、作ろうとしている。

「作れたら、お父さんと話せる気がするから…」

それがそらの、誰にも言えない理由だった。

放課後、そらはいつものように父の部屋——今は自分の工作部屋にしている六畳間——に籠もった。

机の上には、父が残した工具セット。ニッパー、ヤスリ、ピンセット、各種接着剤。そして今日挑戦するキット——「HG キャリバーナイト・アルファ 1/144スケール」。

昨日ニュースで見たあのロボットと、同じ型番のやつ。

「よし……今日こそ……!」

ランナー(パーツがつながったフレーム)を手に取り、ニッパーを構える。

ここを切って……ここのゲートをきれいに処理して……

慎重に、慎重に——

パッチン!!


 パーツが机の下に飛んでいった。しかも濃い灰色のパーツ!


「どこ……どこいった……!」


机の下に頭を突っ込んで探すそら。ほこりまみれになりながら、ようやく一センチほどの小さなパーツを発見する。

「あった……って、あれ?」

パーツと一緒に、床に落ちている何かに気がついた。

小さな、赤い宝石のようなもの。

こんなの、あったっけ?

拾い上げると、ほんのりと温かかった。手のひらに乗せると、まるで呼吸しているように、かすかに光が揺れる。

「なにこれ……」

『やっと、見つけてもらえた』

「ッ!!」

そらは宝石を放り投げそうになった。声がした。宝石から、声が。

小さな宝石は床に落ちる前に空中で静止し、ふわりと浮かんだ。そして赤い光が広がったかと思うと——

「うわあああっ!」

手のひらサイズの、小さなロボットが現れた。キャリバーナイト・アルファのミニチュアそのもの——だが、明らかに生きている。目に当たる部分が青白く輝き、そらを見上げている。

「え、え、え、え——!?」

『落ち着け。敵ではない!』

ロボットは片手を上げた。声は、どこか機械的なのに、どこか子供のような。

「喋った……プラモが……!?」

『プラモではない。ギアスピリットだ。ギア次元から来た』

「ギア……次元?」

そらの頭が、ぐるぐると高速回転する。ニュースで見たロボット。昨日の朝の戦い。ギアロイド。そして——

「もしかして、あなたが……昨日戦ってた…?」

小さなロボット——ギアスピリットは、こくりと頷いた。

『正確には、俺はキャリバーの「魂」だ。モデラーがいなければ、戦えない。俺にはもう……バディが……いなくなって』

その言葉に、そらは何かを感じた。

バディが、いなくなった。

「わたしの……お父さんみたいに?」

しん、と静寂が落ちた。

ギアスピリットの目が、かすかに揺れた気がした。

『神木たくみのこと……知ってるのか?』

「!……知ってるよ!!??わたしの…お父さんだもん!!」

今度こそ、ギアスピリットは長い沈黙を挟んだ。

そして、ゆっくりと言った…。

『……そうか。そういうことか…たくみ…だから俺は、ここに引き寄せられたのかもな……』

「え?」

『たくみが最後に言ってた。「俺の魂は、娘のところに行く!」と!!』

そらの目が、一気に潤んだ。

「お父さんが……」

『ギアスピリットはモデラーと共鳴する。組み立てる意志、プラモへの愛情——それが俺たちの力の源だ。だが神木そら、お前はプラモを完成させたことがないんだろう?』

「う……」

正論だった。

ギアスピリットの目が、今度はどこか茶目っ気を帯びた色に変わる。

『作れるようになれば、俺と共に戦えるさ!!そのための「ファーストキット」を作れ』

「ファーストキット?」

ギアスピリットはそらの机の上——まさに今日挑戦しようとしていたキットのパッケージを、ちょこんと指差した。

『それだ!!』

そらは、キャリバーナイト・アルファのキットを見た。

そして、もげた腕のプラモデルを見た。

そして、父の工具セットを見た。

「……できるかな……?」

『わからん…!』

正直な答えだった。

「慰めてよ!」

『俺はモデラーに嘘をつかない。できるかどうかは、やってみなければわからない。だが……!』

小さなロボットは、そらの目の前に浮かんで、まっすぐに目を合わせた。

『たくみも、最初は下手くそだったと言っていた』

「え、ほんとに?」

『ゲート処理を失敗したり、股関節を割ったり。塗装で筆跡が残ったり。でもそのたびに「次こそ」って言いながら作り続けたら、最終的に俺を完成させた。それがすべての始まりだ……』

そらは、ぐっと唇を結んだ。

目の奥が、熱かった。

「……教えて……」

『ん?』

「プラモの作り方!!お父さんは……もういないから、教えてくれる人がいないんだよ。でもあなたなら……あなたはお父さんと一緒にいたんでしょ? だったら、知ってるはずじゃん?」

ギアスピリットは一瞬、固まった。

それから——小さなロボットが出せる最大限の、嬉しそうな声で言った。

『……俺の名は…アルファだ!よろしく、そら!』

「うん! よろしく、アルファ!」

その夜。

そらとアルファの、長い長い作業が始まった。

「このパーツ、向きがわからない」

『説明書の番号を見ろ。パーツのランナーにも番号が振ってある』

「ゲートがうまく切れない……」

『ニッパーの刃の、平らな面をパーツ側に向けるんだ。そうすれば白化しにくい』

「やすりがけって必要なの?」

『ゲートの跡が残ると接続が甘くなる。後で後悔するぞ』

「……はーい」

何度もつまずき、何度もアルファの声に助けられながら——

そらの手が、少しずつパーツを組み上げていく。

脚部。腰部。胸部。腕部——

そして、深夜。

「……できた…………!!」

机の上に、キャリバーナイト・アルファが立っていた。

塗装はまだ。モールドの彫り直しもまだ。モデラーから見れば、あちこち粗い。

でも、確かに——完成した。

そらの目から、ぽろりと涙が落ちた。

「わたし……作れた」

アルファは何も言わなかった。

ただ、ふわりとそらの手のひらに降り立ち——

完成したキャリバーナイト・アルファに、そっと触れた。

その瞬間、キットが光り輝いた。

赤い光が室内を満たし、めくるめく熱量がそらの胸に流れ込んでくる。

アルファの声が、いつもより少し、大きくなった。

『モデラー認証——神木そら。共鳴率、上昇中』

「アルファ……?」

『俺の本当の力を見せてやる。今夜はまだ練習できないが——』

どこか遠くで、警報音が鳴った。

スマホのニュース速報が、けたたましく光る。

アルファがそらに告げる。


「そら!大型ギアロイド、市街地に出現!!」


そらとアルファは、同時に顔を上げた。

 そらは、涙をぐいっと拭って、立ち上がった。

「行こう」

『ああ』

「でもどうやって……?」

『お前が作ったキットを、持て。俺と一緒に——』

そらが完成したキットを手に取った瞬間。

それは光に包まれ——そらの体にも、同じ赤い光が広がり——

気がつくと、そらはプラモデルではなく、生身の体で夜空に浮いていた。

胸元に輝く、赤い宝石のペンダント。

その奥で、アルファの声がする。

『俺たちは一つになれる。それがビルダーとギアスピリットの絆だ!』

「わたしが……変身、してる?」

見下ろせば、眼下に光溢れる街。そして暗い影のような巨大な機械生命体。

そらは、怖かった。

間違いなく、怖かった。

でも——胸の奥が、熱かった。

「アルファ! 行き方は!?」

『直感に従え。俺がサポートする。お前の意志が、俺の動力源だ!!』

「わかった!」

そらは手を前に突き出し、踏み出した!

夜空を、赤い流星が走る。

翌朝、ニュースは騒然としていた。

〈速報〉謎の巨大ロボット出現?——ギアロイドを撃退!プラモデルが武器に!?〉

学校の教室で、めいはスマホの画面を凝視していた。

「……これって」

夜空を飛ぶ赤い影…。

 めいの隣の席——そらの席は、空っぽだった。

「寝坊? そらちゃん、遅刻?」

その時、教室のドアが勢いよく開いた。

「ごめ〜ん!! 超寝坊した〜!!」

息を切らして飛び込んできたそらは、なぜかとても、清々しい顔をしていた。

目の下にくまがある。間違いなく徹夜だ。でもその目が、キラキラと輝いている。

めいは、そらをじっと見た。

そらはめいの視線に気づいて、少しだけ笑った。

ポケットに手を入れ、小さな赤い宝石をちらりと見せる。

「……ねえ、めい。放課後、プラモの作り方教えてくれる人、紹介してほしいんだけど。わたし、もっとうまくなりたくて」

「え? 急にどうしたの?」

「なんか……やりたいこと、見つかった気がして」

めいは首を傾けた。

そして——まあいっか、とでもいうように笑った。

「じゃあ、ホビーショップの桐島おじさんとこ行こう。あそこのご主人、プラモマニアだから」

「ほんと!? やった!!」

そらの声に、胸ポケットからかすかな声が聞こえた。

(俺も行く…)

そらは笑いを噛み殺しながら、ポケットをぽんと叩いた。


◆ エンディング前・次回予告 ◆


「プリズマギア! ビルド・オン!!」

街を救ったのは、一人の女の子と、一体のギアスピリット。

けれど戦いは、まだ始まったばかり。

ギアロイドはなぜ現れるのか。父は何と戦っていたのか。

そしてキャリバーナイト・アルファの本当の力とは——

次回「ホビーショップの謎!スナップフィットの罠!?」

「だからゲート処理が甘いって!!」

「うるさ〜い!!」

プラモ戦士プリズマギア——ビルド・オン!!

つづく(続きませんw)




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