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「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。 〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜  作者: 高瀬船


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7話



「何を考えているんだ、ウェンディ!!」


 あれから、数時間後。

 魔法演術の催しで、結局ウェンディは何の魔法も発動する事ができず、父侯爵から引き摺られるようにホプリエル侯爵家に帰宅した。


 つい先日まで、攻撃魔法のような強い魔法を発動する事は出来なかったが、光を灯す、炎を灯す、といった魔力消費量の少ない魔法ならば発動できていたのに。

 今のウェンディは、それすらも発動出来なくなっていた。


「簡単な魔法を発動してその場をごまかす事だって出来ただろう!? それなのに、どうしてあの場で何の魔法も発動せず、立っていた!? お前は我がホプリエル侯爵家の栄誉を地に落とすつもりか!?」

「もっ、申し訳ございませんお父様……っ、ま、魔法が……魔法が全く発動せず……っ」

「言い訳は無用だ! フォスターがどうにかあの場を納めてくれたから良いものの、フォスター程の男がいなければ、我が侯爵家は国中の笑いものだ!」

「申し訳ございません、申し訳ございませんお父様……!」


 ウェンディの瞳から、はらはらと涙が零れ落ちる。

 だがウェンディの、娘の涙を見ても。

 侯爵は顔色を変える事は無い。

 侯爵の背後にいるウェンディの母も、自分の口元を扇子で覆い、冷たい目でウェンディを見下ろしていた。


 エルローディアも、フォスターも。

 誰もウェンディを擁護する者はいない。


「暫く自室で謹慎していろ、ウェンディ! 私がいいというまで、祭典には姿を見せるな!」


 おい、誰かウェンディを部屋に連れていけ! と、侯爵の怒声が響く。

 使用人達はウェンディを促し、部屋を退出しようとした。


 ウェンディが部屋を出る寸前──。


 フォスターが侯爵に向かって歩み寄り、声をかけるのが見えた。


「侯爵、お話があります」

「……何だ、フォスター。改まって」


 部屋を出る寸前、二人のそんな会話が聞こえた。

 だが、ウェンディがその会話を最後まで聞く事は無かった。



「お嬢様、旦那様からの許可が出るまでお部屋を出ないようお願いいたします。ご用がございましたらベルを」


 侯爵家の使用人は、淡々とそれだけを口にすると、ウェンディを部屋に押し込みさっさと出て行ってしまった。


 一人室内に残されたウェンディは、呆然としつつ窓の方向へ顔を向ける。

 そう言えば、祭典の最中ヴァンの姿を一度も見なかった。


「前回は、演術が終わったら声をかけに来てくれたのに……」


 ウェンディの魔法、凄かった。と、本当に楽しそうに笑うのだ。

 前回の祭典の時、既にウェンディの魔力も、魔法の腕もかなり落ちていたと言うのに、それでもヴァンは本当に凄かった、とウェンディの魔法を褒めてくれたのだ。


 魔力が落ち、発動できる魔法の種類もかなり減っていたウェンディにとって、ヴァンのその言葉は何よりも嬉しかったし、救いになっていた。


 それなのに、今回は一度だってヴァンの姿を見ていない──。


「どうしよう……ナミアに聞いてみようかしら」


 さっき、ウェンディの部屋まで送った使用人はナミアではない。

 今は他の場所で仕事をしているのだろう。


 ウェンディはベルを手に取ったが、少し迷ってしまう。

 だが、それでも。ウェンディはヴァンの事が聞きたくて、小さくベルを鳴らした。


 ベルを鳴らして、少し。

 ウェンディの自室に近づいてくる足音が聞こえ、聞き慣れたナミアの声が廊下から聞こえた。


「お嬢様、お呼びですか?」

「ナミア。ええ、入って!」


 ウェンディは、良かったナミアが来てくれた、とほっとする。

 ウェンディの返事を聞き、扉を開けて入って来たナミアは、呼ばれた理由が分からず、不思議そうに首を傾げていた。


 ウェンディは早速、気になっていたヴァンの事をナミアに聞いてみる事にした。


「ナミア、祭典までの間と……祭典の時に、ヴァンを見なかったんだけど、ヴァンは今元気にしてるかしら? ナミア、何か知ってる?」


 何の気なしに口にした言葉。

 もしかしたら手紙の一通でも来ていたらいいな、と思う程度の気軽さでウェンディは聞いた。


 だが、ウェンディからヴァンの事を聞いたナミアは、気まずそうに顔を伏せ、言おうか言わまいか、と迷っているような顔をしている。


「──ナミア?」


 どうしたの、だろうか。

 ウェンディがナミアに向かって言葉を続けようとした時。


 廊下からウェンディを呼ぶメイドの声が聞こえた。


「お嬢様、旦那様がお呼びです。すぐに書斎にお越しください」

「えっ、お父様が?」

「はい。私はお伝えしましたので、これで失礼します」


 扉を開け、廊下に立っていたメイドに話しかけたウェンディは、メイドからそれ以上の事は説明されず、伝えに来たメイドは去って行ってしまった。


 暫く謹慎をしていろ、と確かに侯爵は言っていた──。

 それなのに、すぐに書斎に呼び出すなんて何事だろう。

 そう考えたウェンディだったが、待たせてしまってはまた侯爵に怒られてしまう。

 ウェンディは申し訳なさそうにナミアに振り向いた。


「ごめんなさい、ナミア。お父様に呼ばれてしまったから書斎に行ってくるわね。さっきの話は、また後で聞かせてちょうだい!」

「かしこまりました、お嬢様」


 廊下で頭を下げ、ウェンディを見送るナミア。

 ウェンディは急ぎ足で侯爵の待つ書斎へと向かった。




 書斎。

 書斎前に着いたウェンディは、緊張しながら扉をノックした。


「お父様、ウェンディです……」

「ああ、入れ」

「失礼、します」


 扉を開けて中に入る。

 すると、書斎の中には侯爵しかおらず、ウェンディは首を傾げた。

 ウェンディの専属護衛騎士であるフォスターは今日、この場にいない。

 それがウェンディには不思議でならなかった。


「ウェンディ。お前には祭典の最終日まで邸の地下で反省していてもらう。その間、外部との連絡は一切許さん」

「──えっ?」

「今回の祭典での愚行は、とても擁護できん。我がホプリエル侯爵家の名声を栄養を傷付けたのだ。鞭打つ事をせぬだけ有難く思え」

「おっ、お父様……っ」

「──フォスター、フォスター入れ!」


 ウェンディの父、ホプリエル侯爵は淀みなくあっさりと言葉を紡ぐと、ウェンディの言葉などには一切耳を貸さず、フォスターの名前を叫んだ。

 侯爵の声に反応し、すぐに書斎の扉が開き、フォスターが姿を現す。


「フォスター……っ!」


 ウェンディが僅かな希望を込めてフォスターを見つめるが、フォスターも一切ウェンディに視線など向けず、侯爵に向かって軽く頭を下げた。


「ウェンディを地下室に連れて行け。そこで最終日まで反省してもらう」

「かしこまりました、侯爵」


 フォスターはウェンディを全く無視し、侯爵と話をすると、小さな体で不安そうに震えるウェンディに視線を向けた。


(──昔は、確かに愛らしさを感じていたが……。今となってはこの女が目の前にいると苛立ちを覚えるだけ……。どうして俺はこんな女の専属護衛契約を結んだのか……過去の自分の行動が本当に悔やまれるな)


 フォスターはさっとウェンディから視線を外すと、温度の籠っていない声音で告げる。


「私に着いて来てくださいウェンディ様。地下室に案内します」

「お、お父様……」


 ウェンディが侯爵を振り返ろうとも、既に侯爵は書斎の机に向かい、仕事の書類に目を通してウェンディに興味を示さない。

 ウェンディは、自分を冷たい目で見下ろすフォスターに向き直り、彼が苛立っている事に気付いて何も言えず、そのままフォスターに着いて行った。


 フォスターは後ろをとぼとぼと着いてくるウェンディを見て、こっそりと機嫌良さげに口角を上げた。


(まあ……この出来損ないとの契約も、あと三日。最終日には全てが終わる。……それに、あの子うるさいウェンディの蝿も暫くは歩けないはず……ああ、こ?なに時間を無駄にはせず、早くこうしていれば良かったな)


 フォスターは鼻歌さえ歌ってしまえそうなほど上機嫌で地下室までの階段を降りた。




 冷たい石造りの階段を降りた先。

 そこには鍛錬場と、失態を犯した使用人や騎士を罰する地下室がある。

 昔貯蔵庫代わりに使用していたのだろう、独房などとは違い、部屋の体は保っている。


 だが、侯爵令嬢として育って来たウェンディに取ってはこの部屋で過ごすなど、最早拷問に等しい所業だ。


 ウェンディが背後で震えているのに気付いているはずのフォスターは、躊躇いもなく地下室の部屋の扉を開けた。


「さあ、入ってくださいウェンディ様」

「──ほ、本当に私をここに置いて行くの、フォスター……?」

「侯爵様の命令には逆らえませんから。さあ、早く!」


 フォスターは、部屋に入ろうとしないウェンディに苛立ち、背中をどんっと押して無理やり部屋に入れる。


「……っフォスター!」


 慌ててウェンディが振り向くが、フォスターは素早く扉を施錠した。


「もう、幼く、出来損ないの妖精姫のお守りはうんざりだ。俺は、過去の愚かな自分の行動を呪っている。お前のような女を好きになった事が、俺の人生最大の汚点だよ、ウェンディ様」


 扉の奥から、フォスターの低く、凍てつくような言葉が聞こえた。


 ずっと、そう思っていたなんて──。


 ウェンディは、フォスターの去って行く足音を聞かながら、俯き扉に額を擦り付けた。

 ウェンディの足元には、次々と涙が零れ落ち、地面に黒い染みを作っていた。


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