表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。 〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜  作者: 高瀬船
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/52

34話


「待って……何が起きているの……」

「何故、突然森の中に……? 俺たちの馬車は確かに道に……」


 舗装もされていない道ではあったが、確かにそこは人が使用している形跡のある道だった。

 こんな、森の中のような場所では無かったのにどうして急に馬車が森の中に、とウェンディもヴァンも混乱してしまう。


「ウェンディ、俺から離れないでくれ。この森、何だか変だ」


 ヴァンがウェンディを守るように傍に寄る。

 彼はいつでも襲撃されても対応出来るように周囲を警戒し、魔法を発動出来るように備える。


 不気味な森の中は、得体の知れない鳥の声や葉が擦れ合う音が静かな空間に響き、無意識の内にウェンディの体がぶるり、と震えた。


「──っ!?」


 だが、突然気配を感じたウェンディは、そちらの方向に勢い良く顔を向ける。


「ヴァン、何か……人が、来るわ……」

「人だって……? こんな所に……? まだここはアヌジュの森じゃないはずなんだが……」


 ウェンディとヴァンの会話に、フォスターとエルローディアは明らかに狼狽え始める。

 彼ら二人は、ウェンディとヴァンを盾にするように背後に隠れ、近づいて来る、と言う人の気配にごくりと喉を鳴らした。


 近付いてくるのは、明らかに人の気配だ。

 だけどウェンディにはその気配がとても強大で、とてつもない力を持っているように感じる。


 自然と足が後ずさり、隣にいるヴァンの肩にウェンディがぶつかってしまう。

 ヴァンも、額に薄っすらと汗をかきながら、ウェンディ同様じっと前方を見据えている。

 ヴァンも、ひしひしと感じていた。

 ウェンディ程、その気配をはっきりとは感じ取れてはいないが、近付いてくるものがとてつもない力を持っているように思えて。


「──ウェン、ディ……」

「ええ、何だか……怖いわ」


 二人の少し後ろに控えているナミアも、二人の尋常ではない様子に、じっとりと背筋に汗をかいた。


 何も分からず狼狽えているのはフォスターとエルローディア二人のみ。


 ウェンディが見据える先から、薄暗い木々の間からぬっと痩身の男性が姿を現した。


「こんな所に客人とは。随分と珍しい事があるものだ──」


 笑みを浮かべてはいるが、友好的な雰囲気ではない。

 ずっしりとプレッシャーのような、圧を感じていたウェンディは、やってきた人物の姿を見て驚きに目を見開いた。


 長く尖った耳に、人外の美しさを放つ容姿。

 こんな暗闇の中でも輝いて見える、キラキラと波打つ金髪。

 瞳はサファイアのように青く、まるで宝石のように輝きを放っていた。


 人とは思えぬ程の美しさに、ウェンディもヴァンも息を呑む。

 恐らく、やってきた人は男性──。

 男性なのだが、これほど「美しい」と言う言葉が似合う人を、ウェンディは今まで見た事が無い。


 まるで、童話や御伽噺の中に出てくるエルフのような容姿の男性。

 その男性は、ウェンディとヴァンを興味深そうに見やったあと、嫌悪感を隠しもせずにフォスターとエルローディアを見た。


「……いらぬ塵が混ざってしまったな。まあ、良い。私に用事があってここまで来たのだろう。着いて来い」

「──えっ」


 その男性は、ウェンディの戸惑う声には何も返さず、そのまま森の中に戻ってしまう。


 その男性の後ろ姿を唖然と見つめていたウェンディだったが、はっと意識を切り替えると、未だ呆然としているヴァンの手を取った。


「ヴァン! あの人が行ってしまうわ、追いましょう! きっと、あの人がアヌジュの森に住んでいると言う、契約魔法に詳しい人だわ!」


 スタスタと歩いて行ってしまう男性を追おうと、ウェンディとヴァン、ナミアが足を踏み出したところで。


「まっ、待ってお義姉様! あんな、見るからに怪しい男に着いて行くのですか!?」

「エルローディア様の言う通りです、ウェンディ様! 戻ってください! ヴァン・ハーツラビュル! お前如きがウェンディ様を守れるはずがない! お止めしろ!」

「……私とヴァンが会いに来たのはあの人かもしれないの。それに、着いて来いと行ったのだから私たちに危害を加える気はないと思うわ。危害を加えるなら、とっくにしてるもの」

「俺も、ウェンディと同じ意見だ。ここに残りたければ二人だけで残ればいい」


 すげなくウェンディとヴァンに訴えは却下され、しかもそのまま先程の男性を追うように足を進めるウェンディとヴァン。それに、ナミアまでも彼らに着いて行ってしまい、エルローディアとフォスターは顔を見合わせた。


「──〜っもう! 知りませんわよ!」

「な、何が起きてもウェンディ様は俺が守らねば……!」


 二人は、このままこの場に残されたくはない、とばかりにウェンディ達の後を慌てて追った。



 歩いて行く男性に着いて行ったウェンディ達が辿り着いた場所。

 そこは、森の中に突然現れたかのような大きな邸だった。


「入れ」


 大きな邸に、目の前で唖然と口を開けていたウェンディやヴァンは、男性に素っ気なく声をかけられ、はっとする。


「よ、良いのですか?」

「良いも何も無い。私を訪ねて来たんだろう? 客人はかなり久しぶりだ」


 男性は、それだけを言うとウェンディ達を気にせずに邸の中に入ってしまった。


 ウェンディとヴァンはお互い顔を見合わせて頷き合う。


「お邪魔させていただきましょう、ヴァン。……ナミアも良い?」

「ああ、そうしようウェンディ」

「分かりました、お嬢様……!」


 二人が頷いてくれた事を確認したウェンディは、男性に続いて邸へ入った。




 玄関の扉を開けて中に入ったウェンディの目に飛び込んで来たのは、広々とした玄関ホール。

 そこには、見た事も無い魔道具のランプが置かれていて、周囲を温かな光で包んでくれていた。


 しかも、邸内部は外の寒さを微塵も感じさせず、程よく温かい。

 よくよく見てみれば、不思議な魔道具が至る所に設置してあり、その複数の魔道具が室内を快適に保っているのだろう、とウェンディは思った。


 ウェンディの隣を歩いていたヴァンは、ぽつりと呟く。


「馬車に戻ったら、そこが森の中だったり……突然森の中にこんな大きな邸が現れたり……不思議な事ばかりだ。この邸って、隠されていたかのように急に現れたな」


 ヴァンの言葉に、ウェンディもこくりと頷く。


「ええ、そうね……。とても不思議な感覚を感じるもの……」


 ウェンディとヴァンが話しつつ歩いていると、辿り着いた先は玄関ホールを進んだ所にある大きなサロンだった。

 開放的なサロンで、玄関ホールの大階段の下を進むとこのサロンに到着した。


 サロンに先に到着していた先程の男性は、ランプに火を灯しながらウェンディ達を待っていた。

 そしてちらり、とウェンディに視線を向けると楽しげに笑った。


「感覚が鋭いな。この邸を覆う軽微な魔力を感じ取ったのか」

「──っ! ならば、あのっ、ここはやっぱり……っ!」


 ウェンディがぐっと身を乗り出すと、男性はサロンにあるソファに腰掛け、ゆったりとした動作で頷いた。


「ああ。意図的にこの邸を隠している。……人間と関わりたくないからな」

「──っ」


 ならば、何故自分達を招いてくれたのか。


 それを聞きたくなってしまったヴァンだが、男性が視線を向けているのはウェンディ。

 ここで自分が口を挟むと、あの男性の機嫌が悪くなる──。何故だかそう感じてしまって。ヴァンはぐっと言葉を飲み込んだ。


 だが、ウェンディとヴァンの後から着いて来ていた予定外の二人は、空気を読めなかったのだろう。

 その男性に向かって、不遜な態度で問いかけた。


「ならば、お前がこの邸を隠したと言うのか? はっ、そんな事は無理だろう! これほど大きな邸を魔法で隠すなんて……! そもそも、そんな魔法などない事だしな!」

「ええ、そうね……。きっとそうだわ! 偉そうにしちゃって。きっと希少な魔道具があるんだわ」


 フォスターとエルローディアの無礼な態度に、ウェンディもヴァンも言葉を失ってしまう。

 ナミアなんて、最後方で顔を真っ青にしてしまっていた。


 男性が強大な力を持っているだろう事はひしひしと伝わってくるのに。

 男性の「魔力」が、自分達を圧倒していると言うのにこんな口を開くなんて──。


 失礼な事を言うのをやめさせようとウェンディが動いたが、それよりも早く男性が動く方が早かった。


「うるさい二人だな」


 ぽつりと呟いた男性が、ひょい、と指先を軽く動かす。

 すると、フォスターとエルローディアの口元に植物の蔦がしゅるしゅるとまとわりつく。


「ふごっ!ふごーっ!!」

「ふごっ!」


 男性は、更にもう一度ひょいっと手を動かすと、フォスターとエルローディアの体が音もなく突然浮遊し、サロンにあるソファにそのままぽいっと投げられた。


「──っ!?」

「詠唱もなく、魔法を……!?」


 ウェンディも、ヴァンも、ぎょっと目を見開く。


 魔法の発動には、詠唱が必要なのだ。

 自分の想像した魔法を、言葉を通じて具現化させる。

 そうしなければ、魔法は具現化しないのに。


 目の前の男性は、事も無げにそんな大層な事をあっさりと成し遂げたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ