30話
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「お義父様、お義母様……!」
慌ただしく侯爵邸に戻ってきたエルローディアは、そのままバタバタと足音を立てながら二人が居るであろう書斎に向かった。
「お義父様、お義母様! 私です、エルローディアですわ!」
ノックの後、入室の許可が出る前に扉に手をかけたエルローディアは、そのまま扉を開け放ち、入室した。
「──何だ、想像しい。淑女ならば、もっと淑やかに行動しなさいエルローディア」
「お義父様の許可も得ずに入室するなんて……。嘆かわしいわ」
はあ、と溜息を零す義母に、鋭い目で睨み付ける義父。
今までとは全く違い、冷たい態度の両親にエルローディアは戸惑った。
フォスターとの契約が上手くいかなかった時でさえ、悪いのはフォスターであって、エルローディアは悪くない、と慰めてくれたのに。
優しい声をかけてくれたのに。
(どうして、急に冷たく──。この姿、ウェンディお義姉様に見せていた態度とそっくりじゃない!!)
何故、自分があんな出来損ないと同じような態度を取られるのか。
エルローディアは悔しさに奥歯を噛みつつ、それでも普段と変わらぬ態度で二人に接した。
「聞いてください! フォスターったら、酷いんです! 私と契約をするって言ったのに、それなのにあの男……! あんな不誠実な男、我が家の騎士に相応しくありません! クビにしてください!」
わっと両手で顔を覆い、泣く振りをするエルローディア。
そうすれば、二人も自分を心配して抱きしめてくれる。
自分を悲しませるフォスターを排除してくれるはず。
そう考えたエルローディアだったが、いつまで経っても二人がエルローディアの傍にやってくる事は無かった。
それどころか、冷たい口調と声で、きっぱりと言うのだ。
「騎士の一人とも契約を結べず、情けない……。我が家の恥だぞ。それに比べ……やはりウェンディは我が家の正当な娘だな」
「ええ、ええあなた。やはりホプリエル侯爵家の正当な血筋はウェンディの方だわ。あの後すぐにハーツラビュル家の騎士と契約を成立させ、魔法の力も戻ったと! それに、とても美しい淑女に成長した、と王都で評判ですわ!」
「ああ、そうだな。お前の言う通りだ」
「──は?」
侯爵と侯爵夫人は、エルローディアが目に入っていないかのように機嫌良く会話を続けている。
二人は、外出用の服装に着替えており、エルローディアは焦って二人に駆け寄った。
「ま、待ってくださいお義父様、お義母様! どちらにお出かけに!? わ、私もご一緒しますわ!」
エルローディアの手を煩わしそうに振り払い、侯爵は冷たい目で見下ろしながら吐き捨てるように告げる。
「エルローディア、お前には本当にがっかりした。ウェンディが結んだフォスターとの契約すら成功しないなんて。お前には相応しいお方と結婚してもらう。メイドに嫁入りの準備をさせている。家で大人しく待っていろ」
「──いっ、嫌ですお義父様! わっ、私はまだ結婚なんて……っ!」
「うるさい娘だ。大切な親友の娘とは言え、今まで育ててやった恩を返しなさい。いいか、お前を娶るのはタスティカ子爵だ。お前を気に入ってくれた。光栄に思いなさい」
「そうよエルローディア。あなたのような出来損ないでも、子爵は構わないそうよ。有難いお話だわ」
「おっ、お義父様!! お義母様!!」
エルローディアは嫌! 嫌よ! と叫び、侯爵に縋り付く。
だが、侯爵は縋るエルローディアを突き飛ばし、服装を直す。
「おい! 誰か、エルローディアを地下室に閉じ込めておけ! 逃げられないようにな!」
「か、かしこまりました旦那様!」
侯爵はそれだけを言うと、蹲るエルローディアには目をくれず、そのまま邸を出て行ってしまった。
「いやぁっ、嫌よ、お義父様……っ、お義母様ぁっ、タスティカ子爵なんてっ、あの男は女遊びが酷いのに……っ! あんな男に嫁いだら、私の人生めちゃくちゃだわ!」
「お、お嬢様……。旦那様のご命令です、地下室に……」
エルローディアは自分の傍にやって来たメイドに鋭い視線を向けると、口を開いた。
「お義父様とお義母様はどこに行ったの!?」
「く、詳しくは……」
「知っているはずよ! 教えなさい! 殺されたいの!? 炎よ!」
「──ひぃっ」
エルローディアは、自分の手のひらに炎魔法で作り出した炎を灯す。
その光景に、メイドは悲鳴を上げて後ずさった。
「は、伯爵邸に……! ハーツラビュル伯爵邸に迎えに行かれました……っ」
「ハーツラビュル……? ヴァンの家よね……。まさか、お義姉様を迎えに行ったとでも言うの!? ふざけないで欲しいわ!」
「お、お嬢様──きゃあああ!」
エルローディアは、メイドに向かって炎魔法を放つと、その場に立ち上がり駆け出した。
後方では、メイドを助けようと水魔法を発動したりする使用人達の声が聞こえる。
エルローディアは、自分を追いかけてくる使用人に向かって攻撃魔法を発動すると、家を飛び出した。
自分の義両親を追うために。




