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「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。 〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜  作者: 高瀬船


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28話


「なんっで、こんな奴が……! ふざけんな、ふざけんな! 俺はまだ死にたくねえ!」

「暴れるな……! 拘束具はまだか! 早く魔封じの枷を……!」


 暴れる犯人に素早く近付き、地面に引き倒して拘束したヴァンは、隊員に向かって声を荒らげる。


 犯人の取り押さえにかかっていた隊員達はみな、怪我に呻きすぐには動けそうにない。


 その様子を見たヴァンは、舌打ちをする。

 未だに暴れる犯人を押さえるのは簡単だが、拘束に時間がかかってしまえば元も子もない。

 気絶させてしまおうか──。

 ヴァンがそう考えた時、背後からウェンディの声が聞こえた。


「ヴァン! これが魔封じの拘束具みたい!」

「──なっ、ウェンディ! こっちに来るな!」


 ウェンディが魔封じの拘束具を手に、こちらに駆け寄る姿が見え、ヴァンはぎょっと目を見開いた。

 もし、彼女にこの犯人が傷一つでも付けたら──。

 確実にヴァンは犯人を手に掛ける自信しかない。


 隊員に止めさせようとしたが、そうするよりも早くウェンディがヴァンと犯人のすぐ近くにやって来てしまった。


「ウェンディ、早くこの場から離れろ……っ!」


 ヴァンが叫ぶのと。


「──あれ、痛みが……引いた……?」


 犯人が呟くのは、同時だった。



「どうしてウェンディが近付くと痛みが引いて……離れると痛みが増すんだ」


 訳が分からない、と言った様子で、ヴァンは頭を抱える。

 先程まで暴れていた犯人の男は、痛みが落ち着いたからか大人しく拘束に従い、今はウェンディの前で借りてきた猫のように大人しく、従順だ。


「凄い……さっきまで感じていた痛みが、嘘のように無くなりました。あなたが傍に居てくれるから……、これから先もずっと俺の傍にいてください、美しい人……」

「え、ええ……それはちょっと無理だわ……」


 犯人は先程の荒々しさなど嘘のように、ウェンディを口説くような口振りでずっと話しかけている。


 ヴァンは犯人に近付くと、思い切りその男の頭を踏みつけた。


「ふざけるな。ウェンディを視界に入れるな。彼女は俺の主だ」

「──主」


 ヴァンの言葉に、男がぴくりと反応する。

 そして、失敗したとばかりに顔を顰めた。


「……お前、急にどうした」

「ハーツラビュル卿! その男の正体、わかりました!」


 男の素性を調べさせていた隊員が大慌てで戻ってくるなり、犯人の男を指さして告げる。


「その男、沢山の被害者が出ております! 貴族令嬢ばかりを狙った、専属護衛騎士契約の詐欺師です!」

「──何だと!?」

「そいつ、自分が騎士だと嘯いて、貴族令嬢に取り入り、契約を結ぶ代わりに金品や……その……」


 隊員は気まずそうにウェンディにちらり、と目を向ける。

 女性がいる前で、この先の罪名を口にするのが憚られて、隊員は口ごもった。


 何となく何を言いたいのかを察したヴァンは、隊員を手を上げて止めると、犯人の男を冷たい目で見下ろした。


「専属護衛契約をちらつかせ、詐欺を働いていたとはな……。専属護衛騎士と、契約を結ぶ事はこの国の貴族の憧れだ。それを逆手に取って、このような悪事を働くとは……」

「ちっ、違う……! そんなつもりじゃ……! 俺はただ、夢見る令嬢達を喜ばせたくて……!」

「騎士を騙る事も嘆かわしい! 原因不明の激痛も、これまで騙されたご令嬢方の恨みだろう。大人しくその痛みと向き合うんだな」

「まっ、待ってくれ……! 本当に死にそうなくらい痛いんだ! その美しい女性を傍に……!」

「誰が俺の大切な主をお前のような男の傍に! お前に似合いなのは王城の冷たい牢屋だ!」


 ヴァンはウェンディの腕を取り、犯人の男から離れさすと、隊員に指示をする。


「その男を、王城の近衛騎士に渡してくれ。専属護衛騎士の契約を騙って詐欺を働いた罪人だ。管轄はうちじゃあない」

「承知しました、ハーツラビュル卿。ただちに移送します」


 待って、待ってくれ! と叫ぶ男を憐れむように見つめていたウェンディの視界を塞ぐように、ヴァンはそっとウェンディの目を手のひらで塞いだ。


「──ウェンディ。あの男が捕まるのは、自業自得だ。君が胸を痛める必要は無い」

「ヴァン……」


 自分の目を塞いだヴァンの手を、ウェンディはそっと握る。

 そして、ふと抱いた疑問を口にした。


「でも……どうしてあの人はそれ程の激痛に襲われたのかしら……? それに、私が傍に行ったら痛みが和らいだ、って……」

「ウェンディの気を引いたいがための嘘じゃないのか? あいつは詐欺師だし……そうやって数多くの女性を騙していたのかもしれない」

「ううん……。あの人、本当に痛みが引いたみたいで……表情も凄く穏やかになっていたの」


 どうしてなのかしら、と首を傾げるウェンディに、ヴァンも首を捻る。


 専属護衛騎士契約を騙ったため、神罰でも下ったのだろう、と思ったのだが、それはどうにも現実的ではない。

 それに、ウェンディが近付くと痛みが和らぐなんて。


「……契約には、不明な部分が多くあるからな。今回のこれも、その内の一つなのかもしれない」

「──そう! そうなのよ! この専属護衛騎士契約って、そもそもどう言う契約なのかしら。誰がこの魔法を作ったの? どうやったら、こんなに凄い魔法を作る事が出来るの!?」

「それは──」


 ウェンディの言葉に答えようとしたヴァンだったが、表から聞こえた叫び声にかき消されてしまった。


 叫び声や悲鳴に、ウェンディとヴァンはお互い顔を見合せたが、慌てて外へと駆け出した。

 魔封じの枷もしたため、もう大丈夫だろうと隊員に移送を頼んだのだが、それでも暴れているのだろうか、と大慌てで外に向かったウェンディとヴァンは、目の前の光景に驚きに目を見開いた。


 この騒ぎで、民や貴族達が集まっているのはまだ分かる。


 だが、どうしてここにフォスターが居るのか──。


「ヴァン・ハーツラビュル! お前か、勝手な行動を!!」

「フォスター隊長? どうしてここに……っ」

「私の許可も得ず、勝手に捕縛などするな! 私への報告はどうした!? お前には何の権限も無いだろう!」


 フォスターはわざとらしく大勢の前でヴァンを叱責する。


「この男の罪状は本当なのか!? 誤認で捕縛していたのなら、重大な過失だぞ!」

「何を訳の分からない事を……っ」


 犯人が暴れ回り、隊舎を損壊しているのは明確だ。

 それだけでも十分捕縛対象である。

 それなのに、フォスターはヴァンが捕縛した事が気に入らないのか、ただただ難癖をつけているように見えて、ウェンディは冷たい視線をフォスターに送った。


「ちっちゃい人……。こんな人だったなんて……」

「ウェンディ様……!? なんて酷い事を仰るのか……! そんな男の傍にいるから、ウェンディ様が暴力的になられてしまった。嘆かわしい事だ」


 やはり、私の元に戻って頂かねば! そう叫ぶフォスターに、周囲に集まった民や貴族達は面白そうに見物している。


 人々は好き勝手に噂話をして、ウェンディがヴァンとフォスター、どちらを選ぶのか、などと楽しげに話してすらいる。


 だが、フォスターに邪魔をされ、移送が途中で止まってしまった犯人の男は、再び胸を襲う激痛に苛立ちが最高潮に上ったのだろう。

 怒声を上げ、フォスターに突進した。


「ごちゃごちゃうるせえ! 早く移送してくれよ!」

「──愚かな」


 丸腰で自分に突進してくるとは思わなかったのだろう。

 フォスターは余裕そうに鼻で笑い、自らの長剣から手を離す。

 騎士として、丸腰の相手に武器を使う事はしない。

 フォスターは、体術にも自信があった。

 そのため、突進してくる犯人をいなし、地面に転がしてやろうと思ったのだが──。


「──ぐっ!?」

「あああああ!」


 突進する犯人の勢いを殺す事が出来ず、フォスターの体はそのまま無様に後方に吹き飛んでしまう。

 地面を転がり、砂埃を上げながらようやく止まったフォスターを、周囲に集まった民や貴族達は信じられないものを見るようにあんぐりと口を開けて見下ろした。


「なっ、何故っ、力が出ない……っ」


 魔法のみならず、どうして身体能力まで著しく低下しているのか──。

 フォスターが唖然としている内に、痛みに気が狂った犯人の男は、集まった周囲の群衆に向けて突進する。


 きゃああ! と悲鳴が上がる中、即座に反応したのはウェンディだ。


「──止まりなさい! 氷よ! 檻となって閉じ込めろ!」


 ウェンディが澄んだ声で叫ぶ。

 すると、犯人の男の体を覆うように目にも止まらぬ速さで氷が出現し、まるでそれが檻のように男を閉じ込める。


「ウェンディ、すまないありがとう」

「気にしないで、ヴァン。私でも協力出来るって言ったでしょう?」


 ふふん、と誇らしげに胸を張るウェンディに、ヴァンは苦笑いを浮かべつつ、ウェンディの頭を優しく撫でる。

 そしてウェンディを隊員に頼むと、自らは犯人の男に向かって駆け出した。



 その光景を地面に転がりながら見ていたフォスターは、唖然とした。


 魔法の発動までの速さ。

 そして、完成した魔法の美しさ。

 魔法を放つウェンディの美しさ。


 どれもが奇跡のように美しく、幻を見ているかのような心地に陥ったフォスターは、ただただウェンディに見蕩れた。


 自身が嘲笑われている事にも気づかず、フォスターの視線はウェンディに集中している。


 そんなフォスターと、ウェンディを憎しみを込めて見つめるエルローディアは、ふいっと身を翻し、その場を去っていった。

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