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「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。 〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜  作者: 高瀬船


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24話


 鍛錬場の中央には、一組の男女がいる。

 男の方は、フォスターが探していたヴァンだ。


 そして、ヴァンに抱き上げられているもう一人の女性に引き寄せられるようにフォスターは視線を向ける。


 キラキラ、と輝く柔らかそうな黄金の髪の毛がふわりと舞い、細くしなやかな両手がヴァンの肩に置かれているのが見えた。


 細身だが、女性らしい曲線美が簡素なドレスの上からでも確認出来る。

 寧ろ、ドレスは華美でもなく質素な部類なのにそれがまた女性の清らかな美しさを引き出している。

 フォスターの視線は、吸い込まれるようにその女性にひたり、と定まった。


 視線を感じたのだろう。

 ヴァンばかりを向いていた女性の顔が、ようやくフォスターの方を向いた。

 その瞬間、フォスターは息を呑んだ。


「──っ!?」


 蒼い目がフォスターを見て、不快感を顕に歪む。

 その瞳も、顔立ちも、髪の毛の色だって。

 全てウェンディと一緒で。

 顔立ちだって、ウェンディとそっくりだった。

 ウェンディが成長したら。十八と言う年齢に見合った外見だったら、まさしくこのように成長しているだろう。


 そして、その一瞬でフォスターは理解した。


「──まさ、か、ウェンディ、様……?」


 フォスターの声がヴァンの耳にも届いたのだろう。

 甘く蕩けたような瞳でウェンディを見つめていたヴァンの瞳が、凍てつくほど冷たい光を宿し、眉が顰められた。


「……フォスター隊長? どうしてここに……」

「ヴァン……」

「大丈夫。君はここに居てくれ。話を聞いてくる」


 ヴァンがそう告げ、ウェンディを床に下ろす。

 すると、すぐにナミアがウェンディに駆け寄り、彼女を守るように自分の背に隠した。


 ずっとウェンディに仕えていたナミアが、その女性を守るように動いたのを見たフォスターは、益々確信を得た。


(嘘だろう……!? あんな美女が、ウェンディ様だと……!?)


 フォスターの胸は、歓喜で震える。

 エルローディアなんぞ、目ではない。


(いや、むしろエルローディア様など、ウェンディ様の足元にも及ばない。あんないやらしく、下劣な女など、俺の主に相応しくない! そうだ、やっぱり俺にはウェンディ様しかいないんだ! これだけの美女なら、結婚して、抱いてやってもいい!)


 フォスターはにやついた顔を隠す事もせず、ウェンディに向かって足を進める。


「フォスター卿。これ以上伯爵家の鍛錬場に足を踏み入れてはならん。お引き取りを」


 フォスターを静止するように、伯爵が立ち塞がる。

 だが、フォスターは煩わしげに顔を歪め、伯爵の肩を押しやった。


「──怪我をしたくなければ、退いてください。ウェンディ様! 迎えに参りました、私と一緒に行きましょう!」

「フォスター卿!!」


 伯爵の静止も虚しく、フォスターは鍛錬場に足を踏み入れると、ウェンディの名前を叫び、手を差し出した。


 ウェンディは、ナミアの背後に隠れて姿が見えない。

 その変わりに、物凄い形相でフォスターに向かって歩いて来るヴァンの姿が視界に入った。


「……ヴァン・ハーツラビュル。よくも私のウェンディ様を連れ去ったな? 彼女を返してもらおう」

「──はっ、ウェンディがフォスター隊長のものですって? ウェンディは誰のものでもないですよ、隊長。それに、ウェンディ本人はフォスター隊長の所になんて帰りたくない、と」

「でたらめを言うな! 私の部下なら、私の命令に従え! ウェンディ様は私が連れて帰る!」


 フォスターは、立ち塞がるヴァンの肩に手をやり、伯爵同様押し退けようとした。

 だが、力を込めてヴァンを押しても、ぴくりとも動かない。まるで岩か何かを押しているような感覚に、フォスターは驚き、目を見開いた。


「ウェンディは、俺の主です。彼女の専属護衛として、彼女に害を成す者は俺が排除します」


 ヴァンが腰に下げていた長剣の柄に手を伸ばす。


 ──ウェンディの専属護衛。


 その言葉を聞いた瞬間、フォスターは血走った目をヴァンに向けた。


「嘘を吐くな! お前がウェンディ様と専属護衛騎士契約を結べるはずがないだろう!? 私とエルローディア様は何度試みても失敗したと言うのに……っ、どうしてお前がっ!」

「嘘だと言うのなら、ご自分で確認してみれば良い」


 そう告げたヴァンは、ちらりと伯爵に視線を向ける。

 ヴァンの意図に気づいたのだろう。

 伯爵は自分達を守るように防御魔法を発動し、イアンはウェンディとナミアを呼び戻し、鍛錬場から外に出した。


 フォスターを一切見る事なく、ヴァンに心配そうな視線を向けるウェンディに、フォスターは苛立ちを覚えた。


(また、俺を見ない……! どうしてウェンディ様は俺を見ないんだ!)


 祭典の最終日、模擬戦でもウェンディは自分ではなく、相手騎士にばかり視線を向けていた事を思い出し、フォスターは苛立った。


 ヴァンと同じように自分の腰の長剣の柄を掴み、抜き放つ。


「そのような大口を叩けるのも、今だけだ。上官として、部下を躾けねばな」


 フォスターは得意気に笑みを浮かべ、長剣に魔法を付加した。

 長剣に雷魔法を付加したフォスターは、ヴァンが構える前に不意を突き、駆け出した。


「──ヴァン!」


 ウェンディの叫び声が聞こえる。

 フォスターの名前ではなく、ヴァンの名前を呼ぶ声が耳に届いたフォスターは、悔しそうに奥歯を噛み締めた。


(俺ではなく、この男なんぞの名前を呼ぶなんて……! ウェンディ様にも分からせてやらねばならないな!)


 フォスターがヴァンに向かって斬りかかる。

 付加した雷魔法がパリパリと刀身を包んでいて、ヴァンの体に当たる直前、その雷魔法が弾けた。


「──っ?」


 フォスターが自分の発動した魔法に違和感を覚えたが、それも一瞬。

 ヴァンに直撃すると思った魔法と、剣先は素早く動いたヴァンに呆気なく躱され、不発に終わる。


 どうしてこんなに身のこなしが早い──!?


 フォスターが目を見開いている内に、ヴァンが魔法を繰り出す。


「──縛れ」

「──っ、何だ!?」


 ヴァンが呟いた瞬間、フォスターの両足が突然出現した氷に固められ、身動きできない。


「貴様っ!」

「舌を噛みますよ、隊長」


 フォスターは慌てて足を拘束している氷をどうにかしようと炎魔法を発動しようとした。

 だがフォスターが拘束を解くよりも早く、平坦な声で呟いたヴァンは、腰の長剣を剣帯からそのまま外し、鞘から抜かずにフォスターの体を斬り上げた。


「──ぐっ」


 フォスターの腹にヴァンの長剣がめり込んだ瞬間、ヴァンは「溶けろ」と呟いた。

 瞬間、フォスターの足元の氷が一瞬で溶け、拘束が解ける。

 そして、次にフォスターを襲ったのは浮遊感だ。

 体を斬り上げられたため、フォスターの体がぶわり、と上方に飛ぶ。

 すかさず、そこにヴァンの回し蹴りが命中した。


「──っ!!」


 フォスターは声を出す事も出来ず、鍛錬場の壁まで吹き飛ぶと、そのままの勢いで体を強かに打ち付けた。

 ひゅっと息が詰まり、激しく咳き込む。


 どうして──。

 なぜ、ヴァンがこれ程の力を──。


 痛みに呻き、滲む視界で顔を上げたフォスターの目に映ったのは、ヴァンに駆け寄るウェンディの姿。

 怪我はないか、とヴァンの心配をしている姿が眩しくて。

 フォスターは、どうしてウェンディが自分に駆け寄らないのか──。悔しくて苦しくて意識を失った。



「──ヴァン! 大丈夫!? 怪我はしていないの!?」

「ウェンディ。駄目だろう、入ってきたら! フォスター隊長が君に何かしたら大変だ!」

「自分の魔法で防ぐわ! それよりどこも怪我していない?」


 心配そうに自分の体を見るウェンディに、ヴァンは破顔する。


「大丈夫だよ、ウェンディ。傷一つ無い」

「……本当? それなら良かった」


 ほっと安堵の息をついたウェンディは、ヴァンの手を握り、フォスターに顔を向ける。


「……フォスターは」

「大丈夫。骨のいくつかは砕けてしまったと思うけど、命に別状はないよ」

「それなら良かった。ヴァンが責められたら嫌だもの」


 ウェンディは本当にフォスターの事など、もうどうでも良いと思っているような態度であっさりと頷いている。


 本当は、ヴァンはほんの少しだけ不安だった。


 フォスターに負けるとは、微塵も思ってはいない。

 確実に勝てる。ヴァンは確かな自信があったのだが、もし倒れたフォスターを見たウェンディが、悲しんだら──。

 フォスターに帰ろう、と言われたウェンディは、少しも悩まないだろうか──。


 そんな風にヴァンは考えてしまったのだが、ウェンディは一切フォスターの方を見る気配がないし、自分の心配ばかりをしてくれている。

 そんなウェンディの姿に、ヴァンは嬉しさが込み上げた。


「勝手に入ってきたフォスター隊長に非があるし、うちの家も大丈夫だ。……ただ、フォスター隊長を雇ってるホプリエル侯爵家が、何か言ってくるかもしれないけど……」


 ヴァンの言葉に、ウェンディの眉がぴくりと反応する。

 だが、その言葉に答えたのは背後から歩いて来た伯爵だった。


「──それについても、問題無い。家同士の話になったら、私に任せておきなさい。ヴァン、ウェンディ嬢を部屋に送ってあげたらどうだ? 二人の魔法の確認は出来たし、私とイアンはあの男の対処をしなくては」

「分かりました、父上。それじゃあウェンディを部屋に送ってきます。後はよろしくお願いします」

「ハーツラビュル伯爵、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「なになに、気にしなくて良いよ。もし体調が大丈夫なら、気晴らしに買い物にでも行ってきても良いし。ウェンディ嬢も、色々と入用だろう?」

「──っ、お心遣いありがとうございます伯爵」


 去って行くウェンディとヴァン、そしてナミアを笑顔で見送った伯爵とイアンは、三人の姿が見えなくなるとすっと笑顔を消し、鍛錬場の端で気絶したままのフォスターに、冷たい視線を向けたのだった。

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