20話
翌朝。
朝早く目覚めたナミアは、ウェンディの眠る部屋へと向かう。
まだ、早朝とも言える時間帯。
窓の外はまだ薄暗く、太陽は殆ど姿を隠している時間帯だ。
だが、ナミアはウェンディが心配で。
熱は下がっただろうか。
苦しんではいないだろうか、と廊下を歩いていたナミアは、部屋の外──。
ウェンディの部屋の扉の横に椅子を持ってきて、座って眠っているヴァンの姿に苦笑いを浮かべた。
(ヴァン様も、お嬢様が心配で……もしかしたら、一晩中廊下に控えていたのかしら)
ナミアは、持って来ていたひざ掛けを広げ、眠るヴァンに掛けてやると、音を立てぬよう慎重にウェンディの部屋に入室した。
「喉が乾いていらっしゃらないかしら……? お水の補充をしなくては……」
呟きつつ、ウェンディが眠るベッドに近づいたナミアは。
ウェンディの姿を見て、驚愕に目を見開いた。
「──っ、お嬢様!!」
「……ん、んん?」
ナミアの声に反応したのだろう。
ウェンディの眉がぴくりと動き、顔が顰められる。
「お、お嬢様お目覚めですか!?」
「その声、は……ナミア?」
ウェンディは小さく声を零し、ゆっくりと瞼を開く。
見慣れない天井。
ウェンディは何が起きているのか分からず、ぱちくりと目を瞬かせた後、ゆっくりと体を起こそうとした。
すぐにナミアが慌てたように駆け寄り、ウェンディの背中を支える。
その時、廊下からガタン! と、大きな物音が鳴った。
眠っていたヴァンが目覚めたのだろう。
「ありがとう、ナミア。──ぇ?」
けれどウェンディは、その物音に反応するよりも視界に入り込んだ自分の腕に目を見開いた。
子供らしく、ふにっとしていた肉が無くなっているように見える。
それに、何だか腕の長さが以前より明らかに違う──。
起き上がった拍子に、ウェンディの体を覆っていた布団がずれた。
自分の上半身が露になり、寝間きに隠されていた足も、丈が足りずにふくらはぎ辺りまで見えてしまっていた。
「──え? え……?」
「お嬢様、お嬢様……っ! ようございました……っ! ようやくっ!!」
「ナ、ナミア? 一体何が──」
狼狽えたウェンディが、ナミアに顔を向けた瞬間──。
「ウェンディ! 無事か──」
バタン! と大きな音を立ててウェンディの部屋の扉が開かれた。
焦ったような顔でそこに立っていたのは、もちろんヴァンで──。
ウェンディは驚いたようにヴァンを見て、そして彼の名前を口にした。
「ヴァン?」
「──……っ、失礼したっ!」
不思議そうにヴァンの名前を呼んだウェンディ。
部屋に入ったはいいものの、入口で硬直していたヴァンは、ウェンディに名前を呼ばれた瞬間、突然顔を真っ赤に染め上げ、それだけを言うと入ってきた時の勢いよりも激しく外に出て行ってしまった。
扉が閉まるけたたましい音が響き、ウェンディは頭の中に疑問符が幾つも浮かんでいる。
ヴァンの様子がおかしい。
どうかしたのだろうか──。
ウェンディは、ヴァンを追おうとベッドから足を下ろし、そこですらりと伸びた自分の足に目を見開いた。
そして、先程感じた体の違和感──。
ウェンディはそっと自分の体を見下ろす。
胸元には、今まで無かったのにふっくらとした膨らみが出現していて。
自分の手足も何だか長くなっているような気がする。
ウェンディは自分の胸元にぺたり、と手を置いて驚いたようにナミアに顔を向けた。
「ナ、ナミア……! お胸があるわ……!」
◇
鏡台の前に座り、鏡に映る自分の顔を唖然と見つめるウェンディ。
背後では、ナミアがウェンディの髪の毛を綺麗に纏めてくれている。
「これ……、本当に私なの、ナミア」
鏡に映っているのは、ウェンディの面影が確かにある。
だが、子供っぽさは全く消え失せ、ふっくらとした頬はすっきりと卵形に。
大きな蒼い瞳は子供の頃のままだが、どこか大人びたように感じる。
「ええ、ええ、ウェンディお嬢様。夢ではございませんよ?」
「信じられない、何があったの……」
突然、大人びた容姿に。
伸びた身長に、声まで子供特有の高さがなくなっている。
今、鏡に映るウェンディの姿は間違いなく十八という年齢に見合った女性だ。
「妖精姫」と呼ばれていた可憐な顔立ちはそのまま美しく年相応に成長し、誰もが見惚れ、振り返るような美女へと成長している。
ウェンディが困惑している間に、ナミアはウェンディの髪の毛を綺麗に纏め終え、着替えも済ませていたので未だに廊下に居るであろうヴァンを呼びに行った。
「お嬢様、ヴァン様を呼びますね。何があったのか……お話するのは、お嬢様の専属護衛騎士であるヴァン様からお話していただくのが良いと思います」
にっこり、と笑みを浮かべたナミアは、戸惑いつつ頷くウェンディをその場に残し、部屋の扉に向かう。
「ヴァン様、お嬢様様のお着替えも終わりましたよ。もう入って頂いてかまいません」
部屋の扉を開け、ナミアが廊下にひょこりと顔を出す。
すると、廊下で顔を両手で覆い、蹲っていたヴァンがそろそろと顔を上げた。
あれから時間が経っているのに、ヴァンの顔の赤みはまだ引いてはいない。
それも、そうだろう。とナミアは若干ヴァンに同情した。
ずっと大切に、長年想っていた相手が、可愛らしい姿から突然あんなに目も眩む程の美女に成長していたのだ。
しかも、あの時のウェンディは掛か布団が捲れ、寝間きが露になっていた。
しなやかな足がふくらはぎまで見えてしまっていたのだ。
そんな姿を見て、混乱したヴァンにナミアは憐れむような目を向けた。
「ほ、本当か……? 足はもうしっかり隠れてる……?」
「ええ、ええ。大丈夫ですよ、さあさ、お入りくださいませヴァン様」
「わ、分かった……」
髪の毛から覗くヴァンの耳はまだ赤く染ったままだが、ヴァンは表情を引き締め、ウェンディが待っている部屋の扉を開けた。




