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「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。 〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜  作者: 高瀬船


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18話


 大ホール内は、かつてないほど煌びやかに装飾されていて、食事や飲み物の種類も豊富。そこかしこで、招待された貴族達が談笑していた。


 そこへ、ホプリエル侯爵と夫人。

 そしてフォスターのエスコートのもと、エルローディアが姿を現すと、ホール内には溢れんばかりの歓声が上がった。


 皆から羨望、嫉妬・妬みの目が向けられ、エルローディアは自分の背にぞくぞくと震えが走る。

 恍惚の表情を浮かべ、集まった貴族達を心の中で嘲笑う。


(ああ、本当に気持ちいい……! 皆が、私を羨ましがり、憧れの目を! 妬みを! 嫉妬を向けてくる! この下々の人間達の前で、今日私がこの国随一の護衛騎士と契約を結ぶのね。ああ、これ程の気持ちよさはないわ!)


 エルローディアは、そう心の中で叫ぶと、ちらりと隣を歩くフォスターを見やる。

 エルローディアの視線に気付いたのだろう。

 フォスターがとろり、と蕩けるような瞳を向けてきて、エルローディアは胸中でほくそ笑む。


(ウェンディから、この男も奪ってやった……! あんな子供みたいな出来損ないには、この男は勿体ないわ。私のように美しく、妖艶な女の隣にこの男は相応しいの)


 エルローディアは、心の中の醜さなど微塵も浮かべず、フォスターに笑みを返してやる。


 嬉しそうに頬を染め、破顔するフォスターに、エルローディアはもっと自分の体を寄せた。

 ぎゅう、と甘えるようにフォスターの体に身を押し付け、唇が弧を描く。


 集まった貴族達は、仲睦まじい二人の様子に、この専属契約も無事成立するだろうと誰もが思った。


 ホールの中心部に到着し、侯爵が高らかに声を上げる。


「今日は、我が侯爵家の娘であるエルローディアと、護衛騎士フォスター・シュバルハーツの専属護衛騎士契約を見届けに来て下さり、感謝している! ぜひ、二人の記念すべき一日の証人となってくれ!」


 自信に満ち溢れた侯爵の声に、再び歓声が上がる。


 侯爵は、使用人が恭しく持って来た契約書類を受け取ると、エルローディアとフォスター。

 両名の名前を呼んだ。


「二人とも、こちらへ。これから、契約に入る」

「はい、お義父様」

「はい、侯爵」


 皆が固唾を飲んで見守る中、侯爵は慣れた様子で契約準備に取り掛かる。


 ウェンディとフォスターの契約を破棄した時と同様、今度は契約を成立させるための言葉を発し、両名に視線で促した。


 後は、エルローディアとフォスターが小刀で指先を切り、契約書類に血を垂らすだけ。

 こんなに簡単な手順で、専属契約が結ばれるのだ。


(とうとう、この時が来たわね。……もっと仰々しく、華々しく契約の手続きをしたいけど……お義父様にこれ以上は我儘を言えないし。これで我慢するわ)


 ふん、と鼻で笑うような素振りを見せつつ、エルローディアはフォスターから小刀を受け取り、自分の指先を浅く切った。


 微かな痛みと共に、血が滲む。

 エルローディアはそのまま契約書類に血を垂らした。


「──エルローディア・ホプリエル。フォスター・シュバルハーツ。この契約に異論は無いな?」

「勿論ですわ」

「この命が尽きるその時まで、エルローディア様を守ると誓います」


 エルローディアとフォスター。

 二人が答えた瞬間、契約書類から淡い光が発せられる。


 観客からは「おお」とか「凄い」などと、感嘆の声が上がる。


 エルローディアはにんまり、と口角を上げたまま、その時を待った──。


 光がエルローディアとフォスターの体を包み込み、そして──。


 ──バチン!!


 と、耳障りな大きな音を立てて、光が弾け、その衝撃にエルローディアとフォスターの体が激しく弾かれた。


「きゃああああっ!!」

「──ぐっ」


 光が弾けた衝撃が、エルローディアとフォスターの体を襲う。

 それは、物凄い痛みとなって二人の体を駆け巡った。


 そして、弾かれた二人はそのまま無様に大ホールの床に派手に転倒してしまった。


「ぅぐ……っ」

「がっ」


 あまりの痛さに、二人は床にのたうち回り、呻く事しか出来ない。

 そんな二人の様子に、侯爵も。侯爵夫人も持っていた扇子を取り落とし、口をあんぐりと開けてしまう。

 そして、それは契約の記念パーティーに参加していた貴族達も同じ。

 暫し、沈黙が場を支配した。

 だが──。


「──ぷっ」

「ふ、ふふっ、ああこらっ、笑ってはいけない……っ」

「何と無様な……」


 そこかしこから、笑い声や二人を嘲笑う声が聞こえてきて。


 エルローディアは痛みに呻きながら、それでもしっかりとその声は耳に届いていた。

 羞恥や悔しさに顔を真っ赤に染める。


(酷い、酷い酷いっ! 何これっ、これって契約に失敗したって言う事なの!? 何で!? きっとフォスターのせいだわ!)


 恥ずかしさと痛みで滲む視界の中、エルローディアはフォスターの姿を探し、ギッと睨み付ける。

 フォスターはまだ痛みに呻き、床に蹲っている姿が見えた。


 契約が、何らかの理由で失敗した。

 その事を悟った侯爵は、ようやく意識を切り替え、慌ててエルローディアに駆け寄った。


「大丈夫か、エルローディア!」

「お、お義父様ぁ……体が、全身が痛いですっ」

「掴まりなさい。一旦、別室に移動しよう」


 侯爵は青い顔のまま、大ホール内にいる貴族達に顔を向け、一旦この場を離れる事を宣言し、そそくさと別室に移動した。

 蹲るフォスターを残して、ホプリエル侯爵家の面々はそそくさとその場を後にしてしまった。


 一人残されてしまったフォスターは、体の痛みに何とか耐えつつ、周囲を確認する。

 この記念パーティーに集まった貴族達は、無様に蹲るフォスターを嘲笑したり、侯爵家の面々に置いていかれたフォスターを哀れむように見つめたり。

 様々な感情の視線がフォスターに注がれている。


 このような「悪目立ち」をした事が無かったフォスターは、悔しさにぎりっと奥歯を噛み締め、よろよろと立ち上がると、侯爵達を追うように別室に向かう。


 フォスターが去る際、追うように背に声が投げられる。


「契約は失敗と言う事か──」

「何と無様な」

「これが、この国随一と謳われている騎士か……残念だな」


(どいつもこいつも、好き勝手言いやがって……! 俺は、ウェンディ嬢とは無事契約を結べたのだから、問題があるとしたらエルローディア様だ……! 俺には何の失敗もない……っ!)


 羞恥心でフォスターは顔を真っ赤にしながら、何とか足を動かし、大ホールから別室へ移った。


 記念パーティーの主役がいなくなってしまった大ホールでは、貴族達は「興醒めだな」と零しながらちらほらと帰宅する者も出始めた。

 侯爵邸には、この契約の結末を愉しんでいる者、嘲笑う者だけが残っていた──。



「ホプリエル侯爵……! エルローディア嬢……!」


 体の痛みが落ち着いたフォスターは、別室に飛び込む。

 すると、そこには悲しそうに泣くエルローディァと、そんな彼女を慰める侯爵、侯爵夫人がいた。

 二人はフォスターが部屋に入ってくるなり、責めるような視線をフォスターに向ける。


「フォスター、お前……エルローディアを拒んだのか!?」

「──は、何を……私はそのような気持ちはございません!」

「だが、エルローディアはお前に拒まれたような感覚がした、と泣いている! まさか……お前はまだウェンディなんぞに心を残しているのではないのか!?」


 部屋に入るなり突然責められ、フォスターは慌ててそれを否定した。

 あの時、契約の瞬間。

 ウェンディの事など、フォスターは微塵も思い出していなかったのだ。

 名前も、顔すらも過ぎることなどなかった。

 それなのに、こんな風に責められるのは心外だ、とばかりにフォスターは両手を振って答える。


「そのような事は誓ってございません! あの時、私はエルローディア様の事しか……っ」


 フォスターの言葉に、エルローディアが咽び泣く。


「じゃあっ、じゃあきっとフォスターは無意識の内に私を拒んだのだわ! きっと、フォスターの心の中にはお義姉様がいるのよ、だから私を拒んだのよ……っ」

「エ、エルローディア様! そのような事はございません! 俺はあなただけしか見ていません!」


 侯爵は、二人の言い合いに青筋を立てつつ、使用人に向かって怒声を上げた。


「──ウェンディは何をしている!? 大事な義妹の晴れの舞台だと言うのに……っ、引き摺ってでも連れて来いと言っただろう!!」

「だ、旦那様、それが──」


 侯爵に怒鳴られた使用人は、恐怖に震えながら駆け寄り、侯爵にそっと耳打ちした。

 使用人の言葉を聞くなり、侯爵は驚き目を見開く。

 そして、忌々しいと言うように吐き捨てた。


「また体調を崩したのか……! どこまでも使えぬ娘だ……っ! このように体調を崩してばかりでは、嫁いだ先で満足に子も産めぬ!」

「──嫁、ぐ? ウェンディ様は、どなたかに……嫁ぐのです、か……?」


 侯爵の言葉に、フォスターが反応する。

 ウェンディが誰かに嫁ぐなど、初耳だった。

 動揺を顕にするフォスターの姿を見た瞬間、エルローディアは悔しさに唇を震わせ、涙声を上げた。


「お義父様っ、お義父様……っ、もしかしたら、お義姉様が私を呪っているのかもしれませんっ! だから、こんな風にフォスターと契約が出来ないのですっ、きっとお義姉様は私を呪っているのだわ……! いやっ、嫌よ! お義父様、どうにかお義姉様を追い出してくださいっ」

「エルローディア……可哀想に」


 侯爵夫人が咽び泣くエルローディアを抱きしめる。


 怒りで顔を真っ赤にした侯爵は、エルローディアの言葉にも一理ある、と頷いた。


「そうだな……このままでは満足に嫁としての勤めも果たせぬ。あの出来損ないは、我が侯爵家の恥だ。……エルローディアが嫌だと言うなら、ウェンディを我が侯爵家から除籍しよう」

「うっ、うぅっ、お義父様ぁ……」


 侯爵は咽び泣くエルローディアを抱きしめ、慰める。

 抱きしめられたエルローディアは、腕の中で愉悦に顔を歪めた。


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