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桃太郎  作者: 蒼月想
2/2

鬼刈は、だいたい残業でできている

コンビニの裏口を出た瞬間、夜の空気が肺に刺さった。


「……寒」


 俺――桃太郎は、肩に担いだ刀を持ち直す。

 隣では、犬が当然のような顔で歩いている。


「シバ、お前さ」


 犬は無言。

 というか、犬なので返事はしない。


「ガラス割る必要あった?」

「正面ドア、開いてたよな?」


 シバは一度だけこちらを見て、

 フンという顔をした。


「……お前、絶対わざとだろ」


 遠くでサイレンが鳴る。

 たぶん、さっきのコンビニだ。


「報告書、長くなるなぁ……」


 ぼやきながら歩いていると、

 ポケットのスマホが震えた。

 嫌な予感しかしない。


「はい、鬼刈です」


『あー、桃太郎?』

『今どこ?』


 通話口から聞こえてきたのは、

 間違いなく上司の声だった。


「えーと、帰り道です」

『コンビニ案件、処理した?』

「しました」

『被害は?』


 一瞬、間を置く。


「……ガラス一枚」

『またか!!』


 即ツッコミ。


『何回言えば分かるの!』

『鬼よりガラスの方が強敵なの!?』

「いや、今回は犬が……」


 シバを見る。

 知らん顔で歩いている。


『犬に責任転嫁するな!』

『修理費、天引きだからね!』


 通話が切れた。


「……ブラックだなぁ」


 鬼を斬るより、

 経費処理の方が怖い組織。

 それが、鬼刈だった。



 河川敷に出る。


 街灯が途切れ、

 夜が少しだけ静かになる場所。


 シバが足を止めた。

 低く、唸る。 


「……だよな」


 俺も感じていた。

 空気が、重い。


「まだ、完全じゃないな」

「でも――近い」


 人の気配。

 それよりも、嫌な“匂い”。


 鬼になる前の、

 ぎりぎりの境界。


「……シバ」


 犬は、こちらを見る。


「来るかもしれない」

「来なくても、近くで何か起きる」


 シバは、尻尾を一度だけ振った。



 俺は、懐に手を入れる。

 小さな包み。

 中には、丸い団子がいくつか。


「……きびだんこ」


 これを作れる人間は、

 今じゃ、ほとんどいない。


 鬼と戦える“素質”を、

 無理やり人に流し込む代物。


 成功すれば、力を得る。

 失敗すれば――


「……死ぬか、壊れる」


 だから、子供には使わない。

 それが、鬼刈のルールだった。


 本来は。


 シバが、じっと俺を見る。


「分かってる」

「まだ、使わない」


 団子をしまう。


「でもな……」


 川の向こう、

 住宅街の方角を見る。


「嫌な予感が、する」


 シバが、再び唸った。



 その時だった。


 遠くで、

 ガタンと、何かが落ちる音。


 続いて――


 かすかな、悲鳴。

 子供の声。


「……あー」


 俺は、頭を掻いた。


「最悪だ」

「完全に、フラグ立った」


 シバが、すでに走り出している。


「おい、待て」

「残業手当、出ないんだからな!」


 もちろん、待つはずもなく。

 俺は、ため息をついて刀を握った。


「……行くか」


 こうして。


 俺はまだ知らなかった。


 この夜に出会う“猿の子”が、

 これから先、

 どれだけ面倒で、厄介で――


 そして、

 大事な仲間になるのかを。


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