第1話 神様になっても特典がないなら、なんで真面目に働かなきゃいけないんだ
神代遊塵。
それが彼の名前だ。東京の片隅で働くおっさん、もっと直球で言えば「社畜」である。
連日の残業、理不尽なクレーム、そしてサービス出勤。
彼の魂は、摩耗しきっていた。
深夜の二十三時。
彼は一日分の労働を終えて、死人のような顔で帰宅した。
ネクタイを緩める気力もなく、PCの電源を入れる。
唯一の楽しみである『ステラリス』を起動し、銀河の覇者になる夢を見ようとしたその時だった。
メールボックスに、見慣れない一通のメールが届いた。
『創造神になって、この世界を創ってください』
件名はなく、本文はそれだけ。
添付ファイルには、謎のZIPファイルが一つ。
遊塵はそれを見て、乾いた笑声を漏らした。
「ハッ……なんだこれ。ネット詐欺か? それとも新手のウイルスか?」
普通なら無視する。
あるいは、迷惑メールフォルダに放り込んで終わりだ。
だが、今の彼は正常な判断力を失っていたのかもしれない。
「どうせクリックしたら、俺のPCのセーブデータを全部消すランサムウェアだろ」
遊塵は少し考え込んだ。
いや、もしかしたら本物かもしれない。
ネット小説ではよくある展開だ。怪しいメール一通で異世界転移、チート能力を手に入れて、ハーレムを築いて人生の勝者へ。
そんな妄想が、疲れた脳裏をよぎる。
「……よし、決めた! 三十路のおっさんだって夢を見たい!」
遊塵は震える指でマウスをクリックした。
ダウンロード、解凍、そしてインストール。
ポップアップと共に、画面に一つの惑星が現れた。
それは誕生したばかりの惑星の3Dモデルだった。
青くもなく、緑でもない。荒涼とした岩肌と、濁った海が広がる原始の星。
その横にはシンプルな入力フォームがあり、こう書かれている。
『変数を追加してください』
「なんだこれ、インディーズゲームのβテストか? やっぱり偽物かよ」
遊塵は舌打ちをした。
期待した自分が馬鹿だった。
三十歳童貞のおっさんの純情を弄びやがって。
明日はLinuxも知らない上司に、一から設計書の説明をしなきゃいけないってのに。
「まあいい、適当になんか入れてみるか。意外と面白いシミュレーションゲームかもしれないし……」
それが神代遊塵の、現世における最後の祈りだった。
彼はキーボードを叩き、『魔素』という二文字を入力した。
Enterキーを、ッターン! と強く叩く。
だが、画面の中の惑星には何の変化も起きない。
派手なエフェクトもなければ、ファンファーレも鳴らない。
「……なんだよ。クソッ! 完全に騙された! ふざけんな! もう寝る!」
遊塵はPCの電源も切らず、シャワーを浴びてベッドに倒れ込んだ。
泥のような眠りが、彼を包み込んでいく。
――しかし。
彼が不貞寝をしているその時。
画面の向こうの異世界では、天地開闢レベルの大激変が起きていたのである。
◇ ◇ ◇
その惑星には、静かな時間が流れていた。
名前はまだない。
だが、そこには確かに生命の息吹があった。
原始の海。
熱水噴出孔の周りで生まれた単細胞生物たちは、三十億年という気の遠くなるような時間をかけて、ゆっくりと、しかし着実に進化を続けていた。
太陽の光を浴び、酸素を作り出し、少しずつ大気を変えていく。
彼らは彼らなりに、この星の主人公だったのだ。
明日も、明後日も、その営みは続くはずだった。
――あの男が、『Enterキー』を押すまでは。
『変数追加:魔素』
神代遊塵にとっては、寝る前の暇つぶし。
「ゲームがつまらなかったらアンインストールすればいい」程度の軽い気持ち。
だが、この星にとっては、それは物理法則の崩壊を意味していた。
「魔素」とは、ただのエネルギーではない。
物理法則を無視し、事象を改変する、劇薬そのものだ。
それが、何の予兆もなく、惑星全土に満たされた。
ズズズズズ……ッ!!
大気が震えた。海が沸騰した。
本来ありえない濃度のエネルギーが地殻に浸透し、眠っていた火山を一斉に叩き起こす。
空は赤く染まり、雷鳴が轟く。
だがそれは、ただの雷ではない。魔力を帯びた紫色の閃光だ。
海の中で暮らしていた微生物たちにとって、それは地獄の釜が開いた瞬間だった。
彼らの細胞は、魔素という未知のエネルギーに耐えられるようには作られていない。
触れた瞬間、細胞膜が弾け飛び、遺伝子情報(DNA)が焼き切れる。
逃げ場はない。
海そのものが、猛毒に変わったのだから。
悲鳴を上げる声帯すら持たず。
何が起きたのか理解する知能すら持たず。
ただ、熱いスープの中で溶けていくように。
……そして、静寂が訪れた。
神代遊塵があくびをして、布団に入ったその数分の間に。
この星が三十億年かけて育んできた生命は、完全に死滅した。
はじめまして、作者です。
実は私は中国人で、今回初めて日本のサイトで小説を投稿することにしました。
日本語はまだ勉強中なので、文法の間違いや不自然な表現があるかもしれません。
読みづらい点があったら本当にごめんなさい!
この執筆を通じて、日本語をもっと上達させたいと思っています。
もし作品を気に入っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】から評価や応援コメントをいただけると、とても嬉しいです!
これからよろしくお願いします!




