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幕間 客人

 ゆったりとした時間が流れている……筈もない。

 年明けと同時に俺は国内の防衛施設の改修・増設を行い始めた。

「南都周辺の森林地帯に砦を二つ。南都防衛線の際は、そこで時間を稼がせる。去年と同じ轍を踏まぬよう……に」

「気合が入っているな。リシュアン」

 ギィという木戸の音。

「アレ……王」

 そこに現れたのは王、アレン・リシュホード。

 本来は軍議の間になど現れない、珍しい客人だ。

 他の目があるため、跪く。

「もう十時近いぞ。アリシアがいないからとは言え、いつまでも残業していい訳ではない。現に自分よりも二歳年下の人間に過酷な残業を強いている」

 ヴィクトルが頷いた。

 お前はどっちの味方なんだよ。

 本来は上官の俺に……いや、上には上がいる。この場合はアレンの味方に成る方が当たり障りがないのか? 分からないな。

「アリシアが今年の初めから葉桜に出向いているから、注意する人が居ないということは分かる。だが、無理な仕事は失敗を増やすぞ」

 最初に咳ばらいをつけ足していた。

 気付いていないフリをする。

「……承知」

 事実、アリシアがいないから俺が夜遅くまで王宮に残っていたことは本当だ。

 注意されなければいい。永遠に考えられる。

 それはひいては、アレンの夢の実現へと……。

「だがな、こんな夜遅くまで仕事に当たってくれていた事には感謝する。体を大切にしろ……よ」

「了解」

 呟いてその部屋を出た。

 暗い廊下にコツコツという俺のブーツの音が鳴る。

「右宰相の言っていた通り……か。持って五年。持たずに三年」


「リディア、治癒だけじゃなく、医療にも見識がある筈だ。俺の見方はどうだ?」

「間違って……いないです。持って五年ないし六年。病名は……五痰病。失われた医学では治療できたかもしれませんが……現代医学では……やはり不可能です」

 松明に照らされ、回廊に二つの影が浮かびあがる。

 一つは俺。

 もう一つはリディア・エスパーダ。葬獄の特殊医療兵長。戦時ではない今は、王宮医務官の席に在る。

「……分かった。急ぐ必要があるな……」

 計画が破綻した。

 俺の構想する大陸統一策には二十年を要する。

 だがそれも去年の様に国としての体力を限界まで削り、多大な犠牲を払い、莫大な金銭を扱う。

 その極限状態を維持して二十年。じゃなきゃ四十年は使うだろう。

 それを五年。

 面白いな。

 軍略家として興奮せずにはいられない。

 受けて立とうか。

 その理不尽な世界に、最大限抗い、歯向かい、理想を追い求めて。

 いつの日にか、アレンに理想の世界を見せてやる。

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