七拾話 生
「あの時と同じ構えで同じ戦い方。何度やっても学ばないのだな」
違う。
右肩口から二刀合わせて一撃。
いなされる。問題ない。
後方に大きく飛びのいて、東都王は一息ついた。
俺も深追いせず、呼吸を整える。
「だが、このままでは埒が明かん。ゴルヴァン、決めてしまえ」
東都王が合図した瞬間、俺は後方からものすごい殺気を感じた。
戦斧。両刃斧。ツーハンドアックスと呼ばれるバトルアックスの類。
ギリギリで再度ステップ。避けはしたが、靡いた髪が切られた。
片膝ついた状態から仰ぎ見れば、覆面の戦士が佇んでいた。
だがその静寂も瞬き程の瞬間だった。
だが、直ぐに狂戦士の如く動き出した。その戦斧を叩きつけ、地面に衝撃波を生んだ。
相性が悪いな。
東都王対策に双剣で来たが、この力には流石に剣が折れる。
数歩距離を取り、剣を投げ捨て、ハルバードを握りしめる。
だが相手は待ってくれない。
俺がハルバードを取ったその時、戦斧が俺に向け振り下ろされた。
咄嗟に受ける。
重い。重撃だ。
「ゴルヴァン。ここは任せる。儂はジオアと共に他所にて指揮を執る」
「御意」
疾風。短く答えた狂戦士の隣。自分でも驚くほどの速度で、手綱に手をかけた東都王に迫った。
気付いていない。
「殺った」
確信した。東都王は神槍ロンギヌスを利き腕に持っていない。
「チッ」
舌打ちした東都王。
そんな余裕、あるのかよ! お前はもう死に際の崖っぷちだ!
しかし次の瞬間に飛んだのは東都王の頸ではなく、俺の体だった。
間に入った戦斧に吹き飛ばされた。
確かに、あの東都王がそうそう容易く逝く筈もないか。
何が何でも生にしがみつく。幾度となく、俺との一騎打ちで死期に晒しても。しかも東都王にまで上り詰めたその実力だって計り知れない。きっと、その時も幾度となく死期に近づいている筈だ。
だがな、俺も違うんだよ。
俺だって、そんなに簡単に死ぬわけにもいかない。
俺だって生に拘る。
「「ゴルヴァン!」」
離れ行く東都王の悲鳴。俺の雄叫び。
両方が重なった。
空気が震える。
右脇からの一閃。
分厚い重装甲に阻まれる。
グッと、一段力を籠める。
力を振り絞れ!
「ガアアア!」
鎧にヒビが入った。
だがな、本命は違う。
こんな奴に手間取っている余裕はない。
コイツに力を使い切ってしまえば、後から迫る東都王との本物の決戦に戦えなくなる。
「ここを退け! 馬鹿野郎!」
鎧の中に刃が埋まった。
血が噴き出る。
肉を断ち切る感覚。骨に当たる衝撃。
「主! ご武運を!」
そう声を張り上げたゴルヴァンは、俺に圧し掛かってきた。
全体重をかけてきたようだ。
「時間稼ぎのつもりかよ!」
悪態を吐き、その体重に耐え、腰に手を伸ばす。
腰に差した短刀でその脇を突き立てる。
それが火に油を注いだのか、俺の首を絞めつけて来た。
息が詰まる。
短刀で脇を各地から刺し続ける。
何故、死なない。
何故、ここまで生きる。
何故、奴と同じで‥‥いや、コイツは生にしがみ付いていない。
そう、コイツは生を諦めず、生き続けている。
それ程に忠義が厚いか!
「何なんだ! ゴルヴァン、東都王!」
左で握りしめた拳で顔面を殴りつける。
仮面が割れた。
体内の空気の量が少ない。
決めないと、死ぬ。
右手から短刀が離れた。
駄目だ。腕の感覚が消えかけている。足も痺れる。
打開方法を探せ‥‥。
戦場だって同じだ。絶体絶命と見えた戦場でも、勝ち筋を手繰り寄せれば勝ちが見える。
個々の武や一騎打ちだって、勝ちを手繰り寄せろ‥‥。
だが、その思考をしている間に俺の体が持つかどうか‥‥。
光の筋だ。
元来、走馬灯とは中国発祥で、江戸時代に日本に普及した熱で回る影絵灯篭である。
そこから転じて、「走馬灯の様に記憶が駆け巡る」と表現され、「走馬灯を見る」と表現が変化していった。
現在は死の寸前に人生を急速に振り返る体験を指す比喩表現とされている。
最後の力を使い、俺は頭の後ろに転がっているアロンダイトに手を伸ばした。
「‥‥けよ! 退けよ!」
腹の中央に刃を突き立て、貫通させる。
下から突き上げる。
スカスカになった肺に空気が勢いよく流入する。
肩で息をする。苦しい。
「これが‥‥リシュアン・レオンハルト‥‥。我が主が認めた男なだけあるな‥‥」
吐血し、血を流しながら進んできたゴルヴァンは俺の肩に手を置き、そのまま倒れ、絶命した。
認められた。あの東都王に。
周囲の歓声をよそに、俺は一人、疲れと動揺に纏わりつかれ、しばらく動こうとしなかった。




