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六拾漆話 弱小国家

「正気ですか‥‥? つい数か月前に敗北した相手に再度決戦を挑むとは‥‥」

「ヴィクトル。戦に必要なものは何だと思う?」

 軍議の間で俺が考案した戦略に、最初に忠告を入れたのはヴィクトルだった。

「武力、兵力、士気‥‥。そして何よりも知略」

「確かにそれも大事だが、最も大事なものが抜けている」

 ヴィクトルが挙げた四つは確かに戦いでは必要になってくる要素だ。

「決して折れぬ心を持たねば、勝つことは出来ない。負けるかもしれないと思って戦うよりも、負けないと思って戦う方が少なからず結果は良い方向へ動く」

「弱音は禁物‥‥ということですか?」

「その通りだ。そしてお前が言っていた四つの要素も今から揃える」

 俺は床の地図の駒を動かし、光龍各地から兵を北部へ集結させる。

「マルムは南部と西部からそれぞれ、全体の四割の兵を連れて来い。西部の残りの六割は、葉桜方面へ翆玲攻めの援軍として向かわせろ。この両軍は鎧門や田慶で待機。ヴィクトル、東部からは五割。炎獄は連戦の影響で兵を動かし辛いだろうからな。東部軍は灰嶺山脈東側で待機。続いてアウレルは中央一帯の全軍を北部へ向かわせて、灰嶺山脈セリウスにて待機させろ」

 幾つもの駒が動き、光龍北部への道が出来上がる。

「叔父上は全体の兵数の概算を出してください」

 バタンと、部屋の戸が閉まる音がする。

「俺はクロイザン・バルバトスの両将軍に働きかけ、動くよう指示。他の各地の軍の東西南北司令官にも出陣命令を出します」

「右宰相とクレイドは模擬戦を続け、勝利が固い戦略を見つけ出して下さい。必要とあらば俺も加わるので、遠慮なく声をかけて下さい」



「東西南北の各軍、各待機場所に向け出陣! 全軍到着は二十日後と見られます!」

「葉桜軍は此度、陽動として十七万が北都へ向け出陣するとのことです!」

「味方の兵数が凡そ確定! 南部軍十六万、西部軍五万、東部軍二十三万、北部軍十八万、中央軍九万、王都軍九万、それに加え、各方面軍司令官の軍十万の合計、九十万!」

 その数字は大陸各地を震え上がらせ、同時に光龍国の規模の増大に驚いた。

 十年前、弱小国家を極めようとしていた時代は総全軍が五十万前後と、その弱小っぷりは落ちきる所まで落ちようとしていた。

 それが今では全軍の数割でも九十万。他国と比べれば未だ少ない兵数ではあるが、光龍も少しずつではあるが、規模が大きくなることに、列強はこの戦いから気付き始めた。



 ————第五人間暦四百八十七年九月

 光龍国はリシュアン・レオンハルトの号令の下、軍を大々的に動かし始めた。

 各地から招集した九十万は氷晶国を包囲。

 血の()()()が始まることになる。



「やはり、多方面からの同時進行ですか?」

「その予定だ。大きく分けて五つ————」


 最北最左翼は葉桜軍の陽動軍の十七万。

 左翼は西部指令の攻守に優れる知将ガゼフ・ブレイニウスの十万。

 南部軍は新たに南部指令に就任したスルールとリヴァイルの両将が、崩魂平原南岸左側に布陣。その数は十二万。

 中央軍はその十四万の兵をリシュアン・レオンハルトに預け、崩魂平原中央左側に着陣し、臨戦態勢に入った。

 王都軍はクロイザン・バルバトスの両将が率い、その数は十六万。鵬魂平原中央右側に到着する。

 総数は驚異の二十万を率いるは北部軍各将の北部軍。崩魂平原右翼付近に着陣し、交戦の構えへ。

 十八万の東部軍はザイフェ・ルーンとエドガー・ヴァルクレンが率い、炎獄、氷晶、光龍の三か国国境地帯に布陣。



 九月十日。各軍、各持ち場に着陣。

「始めろ!」

 同日・夜明け前。

 その一言で、大地が揺れた。

 眼前には既に敵軍の姿がある。

 気負うな。妙に緊張するな。自分に何度言い聞かせても、体の硬直と心の高揚は止まらない。

「正面敵軍所在が判明!」

 暗闇から迫る敵の旗を見た瞬間、俺の体が身震いした。

 怯えの震えじゃない。

 武者震いだ。

「旗印は『東』! 紛れもなく、東都王の軍です!」

 ————東都王。因縁の相手。二度も俺を瀕死にするほどの重傷を与え、その用兵術も俺の一段上を行く俺が知る限り、最強で最凶の相手。

「決着をつける時が来た! 練兵は十分すぎるほどした筈だ! 勝つ事以外、何も考えるな! 勝つのは俺達!」

『光龍だ!』

 俺と兵の声が重なる。それは、将と兵の心が通じた揺るぎようがない確固たる証拠。

「直ぐに参る! 我が好敵手よ! リシュアン・レオンハルト!」

 遠くより声が響いた。

 好敵手とは、お前にとってそこまでの存在か。俺は————

「なぁ!? アーサ・リュミエール!」


 ♦♦♦


 リシュアン・レオンハルトの軍が東都王アーサ・リュミエールの軍と開戦したその時、他所でも開戦の合図が響いていた。

 ここでは、セリウス城留守番係マルム・レオンハルトから、今回の戦略について説明しよう。

 主攻は中央のリシュアンの中央軍と王都軍。

 主攻にしては兵数が少ないのは、リシュアンの後押しを強力にする癖にある。

 助攻の北部軍、東部軍、南部軍、西部軍の四軍は兵数で自らの相対する軍を凌駕し、将の力量としても光龍国内のきっての名将を揃え、助攻というには失礼に値するほどだ。

 だが、リシュアンは確実に主攻を成功させるため、わざわざ、自らを囮————つまり助攻————と錯覚させるような軍容にした。

 それは冒険心と確実性を求めるリシュアンの性格に起因している。

 主攻の成功とはつまり、攻略の成功。

 しかし、助攻を重視するリシュアンとはいえ、これほどまでに、助攻を厚くするという事は今回の攻略を確実に成功させなければならないという、使命感や責任感をひしひしと感じ取っているという事だ。

 それほど、今回の戦いは重要だ。

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