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六拾参話 攻城兵器

 セリウス城は三層に分かれた城であり、外壁と内壁の間にある軍の駐屯地。内壁と(おう)壁の間にある街区・商業区。奧壁の奥にある行政区。

 軍の駐屯地には三万の城兵すべてを収容してもまだ有り余る受け入れ量がある。去年彼が城主に着任してからの大規模改築工事で受け入れ量が大幅に増えた。元は五万程の受け入れ量が、地下施設を含め、二十万近い受け入れが可能になった。

 城壁の高さで行けば外壁が三十五メートル。内壁が二十三メートル。奧壁が三十メートル。

「おい、今日でこの城何日目だ?」

「もう十日になるぞ。そろそろ救援の軍が来てもいい筈なんだがなー‥‥」

「そもそも総司令は何されているんだ‥‥」

「最近はランシェ様も見当たらない‥‥」

「ああ、それ俺も聞いた‥‥。最後にランシェ様を見たのは二日前‥‥」

 城壁の下から兵士の愚痴や弱音が聞こえる。

「‥‥奴ら、最近は城壁壊すだけだ。まともに攻めて来ちゃいねぇ」

「投石機と破城槌、遠投投石機。この数日の間に届いたんだろうな」

 城壁上に立つのは四人。

「葬獄の奴らが出て行ったきり俺達がこの城を受け持つことになったが、アイツら一日に千とちょっとずつ連れて行きよって」

「何を考えている‥‥」

「北部軍八万で後何日耐えればいい?」

「兵の士気も下がり、兵数もどんどん減り、兵糧だってあと二十五日を切っている」

「これ以上話し合っても埒が明かないことくらい分かりますよね!? 私たちは葬獄の方々を信じて戦うしかないんですよ!」



「北外壁崩壊!」

「駐屯地周辺の軍全てを中に入れろ。内壁から弓を打ち下ろせ!」

 籠城戦十五日目。遂に北面の外壁が崩れた。俺達の心もほぼ同時に崩れ落ちかけた。

 それに負けずそれからも戦いを続けられたのは、あの男の存在があったからだ。

「顔を上げよ。我らの大地を踏み荒らす侵略者共に制裁を。死を。敗北を! 奴らに敗北の二文字を教えてやれ! 外壁が崩れたからなんだ! 我らの精神が無敵であることを、決して崩れぬこと非道で下劣な侵略者に教えてやれ!」

 意気消沈と沈んでいた気を取り戻した兵は顔を上げた。

「このようなところで立ち止まっていても、出来ることは無い! 武器を持て!」

 あの男。バルバトスの激は兵を奮い立たせる何かがあった。

「上級弓兵を集め、下の攻城兵器の破壊を進めさせて下さい! ゲルム第三将、貴方は直下兵団と共に下に下りて直接攻城兵器を破壊しに行って下さい」

「承知した。上からの弓兵の援護を願う」

「分かりました。門を開ける準備を始めてください」

 確かに俺と俺の直下兵団は戦槌が主な武器だ。そもそも戦槌は物の破壊に役立つ。起源は神話時代ともされ、神々の作った五龍器とも呼ばれる原初の武器の一つでもある。

 五龍器とは剣、槍、斧、盾、槌の五つの古武器の総称であり、神話時代、神々が天界より地上へもたらした近接武器の原型だ。

 そこに槍先に剣を付けた矛、薙刀、グレイヴが生まれ、槍先に斧を付けたハルバードが生まれた。カタナも剣が曲刀に進化し、その切れ味や鍛造方法に磨きをかけ、今の形となった。槌は短い柄の物がメイスと呼ばれ、大きな遠心力を利用した柄の長い物を戦槌と呼ぶ。

 近接武器は五龍器と呼ばれるが遠距離武器は三竜器と呼ぶ。

 三竜器は弓、投石、槍投げであり、弓矢を齎したのは神話時代も中期。人々がまだ狩猟採集を始めたばかりの時代だ。神話時代初期の時代は投石を扱う集団が居たと伝わっている。やり投げの起源は未だに分かっておらず神話時代後半と考えられるのが一般的である。

 この八つの武器は八龍器または八竜器と総称され、今も尚、絶えず進化が続く武器の原点である。

「投石機。三竜器の投石と戦槌の遠心力から着想を得た近代攻城兵器か。まだ珍しい攻城兵器の部類にあるな」

 近代攻城兵器とは百年以内に発明された後方兵器であり、主に遠投投石機、車輪移動式攻城櫓などが挙げられる。

 近代攻城兵器以外には古くからある破城槌や弩砲があるが、今はそれどころではない。

 悠長に説明していたが状況は最悪に近い。

「それだけ、壊せば相手にとっても痛手になります。早く始めましょう。将軍」

「分かっている。我らゲルム兵団はこれより敵の海原に打って出る。しかし! これは玉砕ではない! 我らの武勇を決意を、そして血気を敵に目せつけ、知らしめに行くことである! これを見た奴らは間違いなく恐れ戦き、攻めが弱くなる! 我らの狙いは正しくそれだ! それまで、奴らを殺して殺して殺し続ける!」

「オオオオ!」

 張り上げた声。響き渡る勝鬨。良い滑り出しだ。

「ミナ! 門を開けよ!」

「分かってます! 武運を祈ります! 将軍!」

「其方の武運も祈っておく! 行って参る!」

 重たい音を立てて内壁の門が開いた。それと同時に地面が揺れた。無論、俺とその直下兵団が動き出したからだ。

「比類ない我らの破壊力! 敵はまだ知らぬようだ!」

「上等だぁ!」

「かかって来いってんだ!」

 叫びながらも、のこのこと内壁へ歩み寄っていた投石機を壊して回る。

「次行くぞ! 遠投投石機はあと三百で片づけろ! 俺達は前へ出る。我が背中。ここに残る兵全てに託すことにした!」

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