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六拾壱話 断罪の終わり

「良い剛撃だ‥‥。これでもう少し脳があれば我が配下の一人に加えてやったものを!」

 遠くで男の声がした。発し所は西都王旗の下。明らかに西都王の声か。

「敵方後方より二軍が迫ります!」

「届いたか‥‥。よし! 俺らも急ぐぞ!」

 ミナ、アウレリアの両将が後方で退路を断った後切り返し、逆に西都王向きに前進。正面から迫る俺達と共闘し西都王を死罪と処す。

「左側の朱恩将軍も既に西都王の陣に近づいております! これで昨夜想定していた形に!」

「ああ。全面攻撃だ!」

 言葉と同時に振り上げた戦槌は重装騎兵団を突破。西都王の顔が見えた。

「四将揃いました! これで西都王の頸が上がることは間違いないかと!」

 ブオッという空気が押しつぶされる音が響き、西都王の頭上に突き出されたその重撃。

 しかし次の瞬間には音を立てて弾き返されていた。

 そのグレイヴでまともに弾き返せばその刃は欠ける。一般常識に等しい。それがなんの損傷も無く戦槌の攻撃を防いだ。

 技術か。魔法という概念がないこの世界には、武器破損を一瞬で治す能力も、壊れない武器を作る技術力も無い。ならば、決してあり得る事ではないが、この男の技術によるもの以外に説明がつかない。

 二本の槍が西都王の背を狙う。

 アウレリアとミナの両槍が西都王の重装鎧の隙間を狙い、差し込まれる。中の鎖帷子に阻まれたのかそこで動きが止まる。

 そのコンマ一秒後には西都王が盾を構えた。スクトゥムと呼ばれる大きな体の全面を覆うことの出来る盾だ。

 するとその盾に矢。白羽。つまり葉桜の和弓だ。

「ミナ様! 伏せてください!」

 ミナ配下の兵が声を上げた。ミナの頭上数センチを数十本の矢が飛んだ。

 弓兵であれば鉄甲冑に意味はない。しかし、弩兵ならば話は別だ。

 左の肩当目がけて放たれた矢は寸分違わずその目標に中った。突き刺さった。つまりそれは弩兵の矢。

 縦を構えた方向からもう一矢。次は盾を構える余裕もなく、手甲に刺さる。弩兵特有の発射音がしない上に一矢。つまりは弓使いの狙撃だ。

 振り返り見ればかなり遠く。それが豆粒に見える程の位置に台車があり、そこから矢が放たれている。

 白羽で一矢ずつ。恐らくは将が放っている。ならば一人しかいないだろう。

「余計な‥‥」

 小さく文句をつけると、射線と被らないように馬にて駆けだした。

「馬鹿がぁ! 我の親衛隊は今何をして居る!」

 叫んだ西都王に返事をする者はいない。

 何故なら周辺を俺の直下兵団と伏せてあった八千で一掃した。故にこの周辺に居るのはこの重罪人唯一人だ。

 弩兵隊がもう一発。確実に左腕を使えなくするほどの矢が一斉に放たれた。

 流石に二度目の射撃をモロに受けるような人間ではない。その矢は全て西都王の肩をかすめ、消えて行った。

「いい加減に死にやがれ!」

 グレイヴの刃が欠ける。足りない。

 もう一撃。グレイヴの柄が折れる。まだだ。

 振り上げる。グレイヴがこの男の手から離れる。

 取った。確信とまでは行かずとも、自信はあった。

 次に見えた光景は自らの馬から自分が大きく離れたところに倒れている場面。

 落馬した俺が仰ぎ見れば西都王は盾を構えた状態で俺の方向を向いていた。その一瞬を見ただけで状況を察した。盾で突き飛ばしたのだろう。それ以外に今の状況をこうする事が出来る選択肢はない。

 右側から歓声が上がった。ドオオという雄叫びや馬脚の振動が混ざった音が地面を伝い、俺の元まで届き、鼓膜に響かせる。

「申し訳ございません。奴らの伏兵に捕まり到着が遅れました」

「言い訳は要らない。こやつ等を殺せ」

「承知!」

 そう言った敵兵は西都王にグレイヴを渡すと駆けだした。

 状況は振り出しよりも前に戻ってしまった。こうやっていても状況は変わらない。立ちなおした俺は直ぐに武器を握り、馬の下から西都王を殴りつけた。

 下からの不意打ちに西都王は落馬。

 両者に槍が投擲される。俺は意にも介さず前進。一方の西都王は俺とジリジリと距離を取る。

 縦とグレイヴを手に取り、俺の前に立ちはだかる。

 状況を察したのか、周囲で騒いでていた敵兵も味方の兵も自ずと距離を取り、外輪を作り出した。

 明らかに一騎打ちになる構えだ。

「一騎打ちを申し出る。ゲルム・フェルディエス」

「了承した」

 近年は行われなくなった儀礼的な何かを済ませ、一歩一歩踏み出す。

 先に動いたのは西都王だった。武器の重量の差を取り、速度を生かし戦いに持ち込む気だ。

 そんな見え透いた誘いに乗っていられるか。

 地面につけた大槌を滑らせ、西都王の真下から降り上げる。

 石とぶつかる様な感覚は何のその、真下から振り下ろされた一撃を盾で受け、宙を舞った西都王は地面に倒れ伏した。

 倒れた西都王に容赦なく、次の一撃を下す。

 その重装甲も意味はなく、鎧の上から叩きつけられる無慈悲な剛撃は、確実に西都王の生気を剝ぎ取っていく。

 三撃目で西都王は血を吐いた。最後に一撃。いや、二撃。三撃。

「断罪は終わった。西都王レリア・二ヴァレン! ゲルム・フェルディエスが打ち取ったぞ!」

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