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六拾話 第二の武器

「あの、それは一体どういう‥‥」

「言葉通りの意味だ。総司令は討たれた」

「生きておられるのですか⁉」

「息は辛うじてある。しかし、心臓は何度も止まりかけ、意識は全くない」

 バカな、嘘でしょ? といった疑いをかけようと、それが事実なら変わりようがない。

「ならば、全軍撤退以外何も選択肢は‥‥」

「しかし、撤退すればそれこそ北部は弱体化。リシュアン総司令もそれほどの傷で腕も折れたなら、引退も視野に入れて考えなければなりません」

「ならば戦を続けるとお考えで? ミナ・ハルシオン北部指令」

「それは仕方がないかと」

「もう一日待て」

 ゲルムが初めて口を開いた。

「もう一日今手。さすれば俺は西都王を討てる。そうであろう? アウレリア」

「え、ええ」

 「一日。一日も中央軍は持たない。総大将討ち死にの報が広まっている中央軍に戦意というものはない」そう告げたランシェ殿は再び口を開いた。

「しかし、もしその策を使うとしても、中央軍は使い物にならないぞ」

「一日耐えるだけで十分だ。それくらい貴様ら葬獄でできるだろう」

「しかしですねっ?」

「安心しろ。皆にもこの策は伝えてあるであろう? 頼む」

「ランシェ殿。ご安心ください。明日一日で十分です。それで西都王の頸を取ることが出来ないのであれば、我らの力が及ばなかったという事。明日うてないならそれで全軍撤退で十分です。お願いします!」

「‥‥。大将代理に話す。返事を待て」


 そう言い残してランシェ殿は右翼の陣を立ち去った。

「ランシェ様より伝令!」

「‥‥来ましたか」

「ランシェ様は大将代理や副将朱恩様と協議された末、明日一日の戦闘を許可されました!」


 ♦♦♦


「始めろ」

 その一言で右翼十万が突撃を開始した。予定では今日の日没よりも前に俺達と相対する西都王レリア・二ヴァレンを殺す。

「右側アウレリア将軍前進!」

「左方ミナ様全身を開始! 各軍配置につきました! 左後方の進軍路の確保も済んでおります!」

 燦燦と輝く太陽の光を浴び、バババッ! と旗が上がる。その旗は俺達の左側、最左翼朱恩の下へ続いていた。これが届けば法螺貝の音が帰ってくるはずだ。

 遠くでブオーという音が響いたのが聞こえた。それとほぼ同時に左翼から四万の騎兵が出陣。朱恩・真白将軍とその直下兵団二万と精鋭騎兵二万。

「葉桜にツテがあってよかったな‥‥」

「ホントですよ。ゲルム様の葉桜の縁があってよかったですよ」

 俺、ゲルム・フェルディエスは葉桜の旧臣。五代前、凡そ二百年前の葉礫の役で小国礫国が滅んだん後、葉桜国に召し抱えられたフェルディエス家だが七十年前の政変で一部の過激派の臣下により葉桜を追われ、浪人となった。しかし、その政変で暗躍した臣下は既に亡く、葉桜との悪しき縁は絶たれた。

「西都王前進を開始!」

 かかってくれたか‥‥。これはミナの戦略に感謝を述べる。

 あえて俺の構える本陣前を薄くし、突入させることで攻め込ませた。その策が通じぬような慎重な男でないことは昨日一日の戦いで察しがついている。もしも、今日は気分などの都合か何かで出てこない場合も敵軍後ろに伏せてある八千で前に押し出すことが出来た。

「後方! 葉桜軍接近! 突入します!」

「俺も合わせる! 戦槌を持て!」

 俺の直下兵団はその数は千五百。総司令の葬獄よりも数段質は落ちるが、破壊力だけであれば光龍のどの兵団にも負けぬ自信がある。全兵士が戦槌を持ち何にも恐れずただ正面を見据え、突き進む。ただそれだけだ。


 ゴワシャ。鈍く何かが崩れる音がする。

 横から殴りつけたその鈍い一撃は無慈悲なまでに敵を粉砕する。

「ッハハハハ! 殺せ! 道を阻む全ての敵を叩き潰せ!」

 ビリビリと響き渡る歓声は俺の戦槌をさらに加速させた。

 目の前に縦を構える重装騎兵の姿が見えた。盾などで我らの進撃が止まるとでも思っているのか!

「盾など我らを舐めているとしか思えん! 叩き潰せ! 我らの力を知らしめよ!」

 戦槌を振るう。左斜めから振り下ろした戦槌は盾を凹ませた。同時に骨を砕くような感覚が手に伝わる。ベキベキともグシャとも取れるような感覚が走る。

 振り抜く。馬上から敵を叩き落とし次に阻む敵への攻撃を始める。

 左側を並走する葉桜騎兵の方が明らかに進みが遅い。兵を固めれば速度よりも力が必要になる。

「右のアウレリアに伝えろ。時が来た。右から後ろを抑えたのちに西都王の断罪へ向かえ」

「左のミナにも同様の事を伝えろ!」

「時は来た! 北部の地を荒らしまわった奴に裁きを下す!」

 声を張り上げた。他の北部の将と違い戦略ではなく激と力で戦う。知略では戦えないことはとうの昔に悟っているのだから。

 「他と競い合える部分で戦うのは愚者の選択。だからお前の選択は間違っている訳じゃない」。今は亡き父上の言葉が脳裏を過る。

 俺が使う第二の武器は言葉だ!

「この北部軍十万、葉桜軍四万は幾度となく西都王の残虐さを思い知らされてきた。今年の初めは西都王の軍が南都以南の北部の地を蹂躙して回った。昨年十一月は葉桜国東部があの残忍な男の被害を受けた。その宿敵が今、我らの前に姿を現し、自らの退路を断つように行動した! これは千載一遇の好機と言っても過言ではない! 集え! 親類の仇がそこにある! 奴の頸を取れば孫の代まで遊んで暮らせる恩賞が手に入る! さあ、憎き西都王の頸を取れ!」

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