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五拾捌話 亡国の病

「崩魂平原北側に敵影を確認。少なくとも四十万を有し、なおも増大中!」

「平原東側より三万! 北東より五万!」

「崩魂平原への布陣を始めろ! 正面は俺が受け持つ。右翼に北部将を当て、北部軍を集結させろ。中央は王都軍と中央軍で。左翼は葉桜軍。朱恩殿に伝令を。開戦まであと二日。それまでに準備を完了しろ、と」

 七月二十三日。崩魂平原南部に光龍中央軍十三万着陣。

「正面白氷、鵬砂周辺に敵影確認! これより奥の後続は確認できず、数が確定! 五十三万の軍勢がこの平原に向け、進軍中!」

「三十五万対五十三万。どう見ますか? 総司令」

「向こうの指揮官にもよるな。今回の攻略目標の南都まで戦いは続く。消耗を抑えながら戦うしかない」


 七月二十四日。崩魂平原東部に光龍軍北部軍布陣。その数十三万。開戦まであと一日。

 七月二十五日。崩魂平原西部葉桜軍九万到着。将は朱恩・真白。

 同日。崩魂平原北部に氷晶軍五十三万が布陣。開戦まであと、零日。


「報告! 敵将の情報が入りました! 敵将はっ‥‥! 敵将は西都王、南都王、東都王の三人! 総大将は東都王と思われ、東都王の軍は中央に布陣! 総司令と相対す流れです!」

「雪辱を晴らす時が来た! 中央軍、布陣を整えろ!」

「して、此度の開戦の陣は?」

「〈激円の陣〉で最初から突撃をかけ、敵の心臓部を抉り取る」

 〈激円の陣〉。錐形の先端が円になった形で、あらゆる方向からの攻撃を受けることが出来る。先端で受け流した敵を錐が討つ。

「両翼。展開完了! いつでも始められると!」

「右翼ゲルム将軍が早く始めないと、一番槍を貰い受けると言っています!」

「そう焦るな。‥‥よし!」


 ♦♦♦


「五都王のうち三都の王が同時出陣とは‥‥」

 俺、ヒメル・フロストバードは感嘆の声を漏らした。

「軍事総括官も猛っておるな」

 軍事総括官。他国で言う所の軍総司令の位置を持つ。高位役職だ。

「ま、三年ぶりの前線ですからね。お三方、頼みます」

「分かっておる。まだこんな若造に心配される程老いてはない」

「三都王は要の地に布陣を開始してください。三都王はそれぞれの軍の統率をお願いします」

 ジャララと盤面を払い、新しく平原の情報を作る。

「三年ぶりで高揚しているのかは知らないけど‥‥、ドキドキと緊張が入り交ざった複雑な感じだな‥‥」

「総括官‥‥」

「ん? あー、久しぶりだな。イーグナ」

 イーグナ・フロストハルト。東部の雄。あのゴルドン・フェル=グラナートやヴァルゼン・ダル=グラオらと十年に渡る戦争をつづけ、生き残ったなんだかんだの歴戦の猛者だ。と、言ってもまだ若いんだけどな。

「そうっすよ。しばらく北都で療養していた貴方が復帰したって聞いたんで東から飛んできたんすよ」

「ご苦労だった。と、言えばいいか?」

「そういう事じゃ無いすよ。とにかく、病状の方は大丈夫なんすか?」

「お前に心配されない程度にはな。最近は症状も安定しているから安心しろ」

「俺どんだけ下なんすか‥‥?」

 俺の病は結核。肺結核だ。

 『亡国の病』とも恐れられた結核から生き残れたのは奇跡に近いと医者は言っていた。

 一時期は症状も酷かった。絶えず咳が出て、血が混じった痰を吐き、酷い時は吐血や呼吸困難に陥ったそうだ。俺はそんなときは意識も当然ないわけだから、分からんけどな。

 あれから三年かけて病から復帰した。未だに体も本調子じゃない。だから三都の王をわざわざ連れて来た。そうじゃなければ、あの面倒な書類の手続きはしなかった。

「フッ、それはどうでもいい。お前は左翼の東都王の指揮下に入れ。光龍の将はそこに集結していると聞き及ぶ。根こそぎ頸を刈り取って回れ」

 戦争の規模が五十万規模になれば、将が大切になってくる。その将を狩って回る役割が実に大きい。必殺の鉞を懐に入れて置けば、安心感が半端じゃない。

「ご武運を!」

「ああ、分かった。全軍に展開を始めさせろ!」


 ♦♦♦


「前方敵軍動き出しました!」

「問題ない。今は位置取りだ。前回と同じく包囲戦を行ってくるのであれば、今行っている場所決めは極めて重要になってくる。しかし、それを黙って見過ごす程の大馬鹿じゃないんでね。前衛騎兵二万。順次突撃開始」

 前衛の騎兵二万が出撃。これが俺式の開戦の合図だ。

 嘘だ。

 流石にそこまで乱暴な人間じゃない。

「開戦の銅鑼を鳴らせ。王都に開戦したと伝令鷹で伝えろ」」

 未だ布陣途中でふにゃふにゃの敵中央軍歩兵に突っ込む。

「よし。準備は出来た。全軍突撃。激憐の陣で抉り進め!」

 俺もそう言いながらハルバードを握りしめ、前に出る。

「これはイオ将軍の弔い合戦! 皆血を流せ! そしたら前にあるのは光だけだ! 阻むものなど‥‥切り捨てろ! 全軍出陣! 今日が奴らの命日だ!」

 十三万の中央軍のうち、本陣守備用の後衛を除いた九万が一斉に突撃。奴らは完全に対応できていない。

 両翼側から大きな歓声が上がった。向こうも始めたか。いよいよ、悲願の侵攻開始だ。

 アレン、これがお前の夢の本当の第一歩だ。

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