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五拾参話 葉桜の剣

「大宰相‥‥。敵の防陣の固め凄まじく、突破困難と前衛が‥‥」

「何故、葉桜軍の用兵術がここまで卓越している! まどろっこしい! 第四、第三大隊前進! 敵前線を粉砕しろ!」


 ♦♦♦


「敵大隊二つ、こちらに向かって来ます!」

 ‥‥。数で押しつぶしに来たか。確かに数で突っ込めばいずれ、この陣は崩壊する。

「陣を変える。〈大蛇の陣〉」

 大蛇の陣。遥か昔からある万能布陣。各中隊、大隊を細かく分け、遊撃隊のように飛び回る部隊を大量に作る。

「いなして躱すように全軍に。日没まで耐えて見せます」

「なるほど‥‥。足軽の歩兵部隊の特性を‥‥?」

「ああ、そうだ。足軽の他の歩兵軍とは違う機動力を活かします。日没まで残り三時間。支援軍には治療の準備と、野営の設営を始めさせて下さい」

 既に赤くなり始めている空の(もと)、俺は命を下した。

「鳥による報告が! 光龍本国南部は、マルム様とクロイザン将軍、西部指令を指揮下に置き、両軍合計八十万以上の大軍がぶつかり始めたと!」

 ガルドの報告が入る。マルム‥‥。クロイザンを動かすとは、その決断力、褒めてつかわす。ほぼ同数のその戦場は、あとはお前の技量にかかっている。しかも、スルールとリヴァイルを他の前線に留めた判断は、とても良い判断だ。その軍が陽動だった場合、他の場所から攻めてくる。それをあの二人に対処させるという判断は正しい。総戦力を結集させ過ぎないことも重要だ。

「右翼! 大きく押し込み、中間地まで動いたと!」

「左翼も同様!」

「リシュアン殿、我らも全体を見れば、押し込んでおります。この戦場は早々に決着がつくかと」

「‥‥ああ」

 何かが引っかかる。なんだ? なんだ? この緩さは。()()()の翆玲軍はこんなものじゃなかった。翆玲の水軍だってこんなモノじゃない。それでは何故?

「右翼の水軍に連絡。哨戒班を外洋に出し、警戒しろ。もしかしたら水軍主力部隊が外洋航行法を確立させ、裏を取る可能性もある」

 外洋航行法。これまで、俺達の大陸の技術力では外洋、大海に出ることは出来なかった。内陸国の光龍は愚か、水軍では大陸一位をとる翆玲でさえも不可能だった。

 しかし、近年、翆玲軍が外洋に進出するための演習を行っている、新たな船の建造を行っているという報告は受けている。もし、それが完成したのに、俺達他国に知らせていないとなれば、俺達を大きく後手に回すことに成功する。

 しかもこの軍の動き。指揮官は然程名の通っていない将と見た。俺が知る将にこのような愚劣な用兵術を行う将は居ない。

「左翼山地方面より報告!」

 左翼山地。左翼側に広がる山地で三千メートルの山々がある。

「何だ?」

「数万の騎馬精鋭が山地方面へ抜け、本陣方面へ走り出したと」

「何だ。今日はもう終わり。しかも左翼の山を越えるとなれば、後一晩は掛かる。明日対処すればよいだけだ」

 数万もの軍が本陣狙いで左翼を離脱したなら、敵右翼は手薄同然。

「左翼に明日は攻勢をかけ、今日以上の押し込みを図れと」

 手薄同然の右翼を黙って許すほど、俺らは遅くはないのでね!


 ♦♦♦


「桜羅。なんだ。帰国の前に」

「アレン。リシュアンのことだけど、何故許可したの?」

「お前なら聞くまでも無いだろうに。リシュアンは確かに総司令の任()臨時的に剥奪された。しかし、葉桜から授けられた国外聖騎士の称号は、俺達が無効にすることは出来ない。今のアイツは葉桜の剣だ」

「そ‥‥。光龍の柱で、葉桜の剣。全く、リシュアンも落ち着かないだろうね」

「光龍の柱‥‥。厳しいな」

「それはどういう‥‥?」

「光龍の内政はグダグダだ。大きく二つに分かれたあの派閥は一つにならない」

「あの派閥?」

「ああ、宰相派と王派だ。右宰相、左宰相を政権の頂点として据えようとする従来の権力派。その両宰相はあくまで中立の立場だがな。そして王派は俺を頂点にのし上げようとする新興勢力だ。俺が若年という所を突き、宰相を権力トップにしようとした宰相派に対抗するべく生まれた派閥だ」

 俺は必ため息をつき、夜空を眺めながら再び口を開いた。

「リシュアン、アリシア等の要人はその派閥についていない。それは同時に危険も意味する。両派からの勧誘が絶え間なく続く。流石に王である俺を流そうとする訳ではないが、リシュアンは軍関連に絞れば強大な権力を持つ。そのリシュアンを引き入れることが出来れば、拮抗する政治の勢力図が塗り替わる。しかも最近、アリシアが王派に近づいたことでリシュアンもそちらに傾こうとしている。そうすれば宰相派は大混乱。そこで俺にリシュアンの敗戦を咎めるため軍総司令権永久剥奪を申し出てきた。しかし、王派はそんなことされては困る。そこで、一時的な剥奪か永久剥奪かで議論が起こった。最終的には三か月間で折り合いがついた」

「そういう事だったの‥‥ね」

「いや、まだこの話には続きがある。リシュアンを引きずり下ろした反リシュアン(宰相)派は、次にリシュアンに変わる新たな人物の立ち上げに向かった。しかし、反リシュアンの人物は王派の中にもいる。その一部の王派は宰相派に密告。軍総司令代理を、リシュアンの双子の弟マルムにしようと言い出した。きっと、政治経験の薄いマルムを、自分たちの意のままにしようとした‥‥のだろうな」

 「そういうことが‥‥」と、驚きの声を上げた桜羅に別れを告げた俺は、光龍へ戻るため、ベテルギウスやアリシアと共に帰路に着いた。

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