五拾弐話 戦の勝ち方
「前衛の押上が思ったよりも早い。両翼に前進急ぐように」
「っ! ハハ!」
「強いですね。やはり移動速度が他のどこの軍よりも早い」
「流石はリシュアン殿。よく分かっておられる」
「民兵の‥‥農兵の数が多い。しかも農兵は軽装兵。槍などではなく、カタナを使った素早い移動もその要因ですか?」
「農兵‥‥。足軽のことですな。確かに足軽は数は揃いますがその分、軽装備になり数も減り易い。そこを補填するために逐次サムライを投入‥‥。兵の質をよく分かっておられますな」
なるほど。あの軽装兵は足軽というのか。確かに足が軽い。
「中央やや右側に戦車大隊を発見。動き出します!」
「総司令殿。判断を」
「赤備え騎馬軍団を前に出し、その戦車隊にぶつけろ。弓大隊で援護を行え」
「赤備え騎馬軍団とは?」
「ああ、数年前の大臣である武狼・玄膳様の直下兵団を引き継いでいるのですよ。赤の甲冑を着て敵に突撃するその姿は武神と評されます」
本陣の右横を赤の塊が通り抜ける。恐らく今のだろう。
閉じた瞼を見開き、号令を発した。
「頃合いだ。中央から右側へ兵を送りぶ厚くしろ。左翼も同じだ。中央は前衛二万と最後列重装歩兵三万を残せ。本陣周辺の一万は前に出ろ」
「リシュアン殿‥‥。一体何を?」
「敵を効率よく討つ為、軍略家は様々な策を講じます。この長きに亘る戦乱の世により、生まれた勝ち易い方法。それは挟撃。挟み撃ち。これを喰らえば、敵は指揮官を残し、混乱状態に陥ります。しかし、この挟撃には一つ、弱点というよりも出来ない事があります。それは撤退する敵への追撃です」
つらつらと述べた俺は、ここで一息ついた。
「左右又は前後から挟む場合、敵は我々が居ない方向へ走り出します。そうすればわざわざ挟撃で嵌め殺そうとした敵を逃す訳にはいかない、血走る兵たちは、敵を追い一目散に走りだします。ここで現れるのは指揮官の問題です。左右から挟み込んだ場合、左右両方に将が居て、左右両方の思惑がある筈です。例えばの話です。追うときはなりふり構わず、一目散に絶対に敵を逃がさず、もう一度殺し合いを始めるべきだ、という将。もしかしたらその反対。周辺の軍に連絡し理詰めの碁盤の如く、追い詰めようとする将が居るかもしれません。その場合、意見の相違が発生します。しかし、話し合っている時間はない。ならば事前に決めておけばいいじゃないか。そう行かないのが、目まぐるしく動く現代の戦場です。ではどうするか。挟撃を始めたその時から、お互いに意思疎通を図れば良いのです。だがまた問題が発生する。敵を挟み込む軍は分厚く、中央突破をしない限り早めに会うことは不可能です。そこで二百年前の偉大なる軍師、日豪国の諸葛・白兎は考えました。ならば敵を囲い込み、大回りをする必要を無くせば良いのではないか!」
日豪国の諸葛・白兎。大陸の統一に最も近づいた大国。日豪国の王族出身の大軍師。
日豪国とは後に現在の葉桜国王家を作る桜羅家を輩出した国でもある。桜羅家はもともと日豪国の王族の分家。つまり、現葉桜王の桜羅・光麟と諸葛・白兎は遠縁ではあるが親戚、血縁関係にあると言える。
「そこで考えられたのが包囲陣。原初の包囲陣とも呼ばれる〈鶴翼〉、それから数年で発明された〈赤牙の陣〉。包囲陣の発明から早く二百年になりますが、完成しては消え、完成しては消え、最適解とも呼ばれた答えは新たな陣の発明、または対抗する陣の発明、将の対応により消え、未だ最適な陣は見つかっていません。なのでここで俺が考えた、新たなる包囲陣を作り出します。〈呑国の陣〉!」
正面の二万の前衛が決壊し、敵が雪崩れ込んで来た。左右に兵を送った中央は正に手薄。その大穴に流れ込んだ敵は、真っ直ぐにこの本陣に向かって突っ込んでくる。
「左側弓兵! ってぇ!」
俺が大声を上げ、敵兵の穴に矢が撃ち込まれた。しかもすぐ目の前には不動の重装歩兵団。動きが完全に止まったところに加えて第二射が撃ち込まれる。敵はたじろぎ、左から右に動き出した。
「区切って右側の兵を囲いながら、海岸方面に流せ!」
「総司令殿、投石船団に準備を始めろと」
「オオ!」
「正面後列第二軍! 準備!」
「敵第二波! 流れ込んできます!」
「右側で投石船団が投石を始めました! 敵軍、大きく数を減らしました! 壊滅は間違いないかと!」
よし。よくやった。ユリア。軍の手配も上手い。
敵の第二波は右に敵を連れ去るために使った軍の補充のために新たな兵を当てている。
「この陣はパッと見、攻略法が出て来ませんね。それほどに強固です‥‥」
「まさか、これが新たなる包囲陣か?」
「ええ、敵の心理を我が掌の上で転がす。これが戦の勝ち方です」




