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四拾玖話 更迭

 夢を見た。遠くで人が手を振っている。でも届かない。何故か。

 足元に川がある。その対岸に居るからだ。

 あれは誰だろう遠い記憶に居る。俺が知らない人。薄茶色の髭を蓄え、目は糸目。真っ白の服を着ている。

「リシュアン‥‥こっちに来るな!」

 その人がそう叫んだ。だが、俺は後ろから何かに突き動かされた。

 振り返ると亡者の大軍が居た。

「何故俺達だけ死ななければならない!」

「貴様もこっちに来るんだ。俺達と同じ場所に」

「俺達を殺してお前だけ生き残るなんてありえない」

「とっととその川を渡りやがれ!」

「リシュアン君。ほら、その川渡って。渡れないの? じゃあ僕が連れて行ってあげるよ。死の楽園へ」

 俺はリパルにも似た何かに突き飛ばされた。川に落とされた。

 不思議だ。この川の水は目を開けても痛くない。それに、息が続かない‥‥。

 俺が目を開けたことに対し驚き、思わず口を開けてしまった事を見た亡者たちは(あざけ)り笑い近くにあった橋を渡って行った。

 ゴポッという音を立てて空気の球が水面近くで爆ぜる。

 ああ、水が重い。なんだ。この川は!

 下を見れば深い深淵の闇。

 だが上に上がろうに水が俺に纏わりつきあがれない。

 苦しい。

 視界がプツッと意識も同じように切れたその次の瞬間、俺を呼ぶような声がした。

「殿!」

「リシュアン様!」

「総司令!」

「リシュアン!」

「総司令! ううん、違う。リシュアン君!!」

 俺はバチッと意識が開けたことに確信した。

 最後のはまさか‥‥。あの呼び方は‥‥。

 まだだ。まだ死なない。まだ‥‥死ねない!

 俺は重い水を掻き分け水面近くまで浮上した。だが同時に俺の体力が限界を迎えた。

 上から腕が下りて来た。

 一本は赤の王用の服、見る場所を変えれば俺と同じような武官服にMと書かれている。マルムか‥‥。他にも何本も。葉桜国独特の服————和服を着た人。そして青と水色の服を纏っている人。真っ白のこの服を着た人は誰だろうか。



「ケホッケホッ‥‥」

 光が差してる。あの深い深い水の中でもない。

 左に目をやれば花瓶。木戸に阻まれたこの部屋は‥‥。王宮医務室‥‥。

 ギギッとドアが開いた。

 やって来たのは‥‥

「おはよ。アリシア」

「え、り、リシュアン君‥‥!?」

 アリシアは王宮服ではなく普段着だ。久々に見たなこの姿も。

「あれから‥‥もう一か月だよ。やっと‥‥起きたんだね」

 彼女は目の淵を拭うと言った。

「おかえり。リシュアン総司令」

「ああ、ただいま。アリシア特使」

「はー、リシュアン‥‥。起きて早々何やってんだ?」

「うぇ! マルム」

 ヤバいな。マルムアリシアと抱き合ってるとこ見られちゃったよ。

 アリシアの顔が火にかけたかのように赤く、熱くなる。

「そうだぞ。あれから大変だったんだ」

「お、王‥‥。ご心配をおかけしました」

「ああ。リシュアン‥‥。心配したんだぞ‥‥。もう一月(ひとつき)なんだぞ‥‥。いい加減起きろよな‥‥。全く‥‥困った奴だ」


「状況報告を」

「ハッ。一月前の敗戦から氷晶軍は動く気配はなく灰嶺山脈に留まっています。続いて東部ですが再び炎獄軍が数万で出陣。一帯の防衛は盤石なため早々抜かれることはあり得ないかと。南部翆玲は翆獄戦役依頼動く気配はありません」

 あれから数日。俺は王宮軍議の間に居た。やはり敗戦の傷は深い。しかし俺は翆玲国から国外聖騎士に任命された。これはアレンの推薦もあったらしいが‥‥。


 その年の三月。全土に激震が走った。あのリシュアン・レオンハルトが氷晶国に大敗を喫し一時的に更迭されることになった。期間は三か月。代理はマルム・レオンハルトとなり新体制が始まろうとしていた。

 そんな一連の騒動と合戦を書物にはこう記してある。



 ――――第五人間暦四百八十七年三月。

 氷晶軍が六十万規模の軍で光龍国を攻め南都や一帯の城を奪った。

 迎撃に出た光龍軍と葉桜軍は崩魂平原で相対したが東都王、西都王の計略の前に敗退し、大敗を喫した。

 その軍を率いた光龍軍総司令リシュアン・レオンハルトは更迭され代理をマルム・レオンハルトとした。


 ————第五人間暦四百八十七年春。

 氷晶軍六十万が光龍国北部への進撃を開始した。

 軍総司令が迎撃戦へ向かったが東都、西都より出陣せし王の軍に敗れ更迭された。

 そして、その合戦でリパル・リュミエールが死んだ。

 リシュアン・レオンハルトも重傷を負い一月立ち上がらなかった。


 何れにせよリシュアン・レオンハルトが迎撃に出たが東都と西都の王の軍の前に敗れ去り更迭された。



「ああ、三か月間はマルムに代行してもらうとして俺はそろそろ出発の準備をしないとな。葉桜国へ出向く準備だ」

「十分に見て来い。三年後には敵となっているであろう奴らの城をな」

「本当であれば自分も行きたかったんですけどね」

 右宰相は流石の抜け目のなさだ。今のうちに葉桜の独特の建築術を学んでおくのは大事だろうな。

「クレイド。お前の分までしっかりと楽しんできてやる。土産話を楽しみにして置け」

「はぁーい」

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