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四拾漆話 リパル・リュミエールの過去

 あーあ、やっぱり俺、死んじゃった。

 俺はリシュアン君に首を貫かれた。首を貫いた剣を思って自覚した。

 俺はそもそも体が強いような人間ではなかった。子供のころから病弱で、人からもあまり目立とうとしなかった。

 でもさ、生まれた家が悪かったんだよ。だって、五都王の子供なんだから必然的に目立っちゃうよね。

 でさ、妹が戦場に出た。当然俺は心配したよ。女の子なのに大丈夫かなーって。

 それでも父さんは大賛成だった。戦場に出ることを決めて父上に報告した夜は「流石は我が娘」と、とても喜んでいた。あの父さんがあんなに喜んでいるのは俺が見た範囲では最初で最後だった。

「それに比べリパルは‥‥」

 俺がその場を去ろうとした時、今は亡き母さんが呟いた。知るかよ。じゃ、俺を弱く生むんじゃねーよ。

 その時は無視したけど、俺の怒りはフツフツと煮えていた。

 そんな俺にも優しくしてくれたのはじーちゃんだけだったな。

 俺の父方のじーちゃんだ。

 なんで俺があの剣を馬鹿にされて怒ったのかは単純だ。あの偉大なじーちゃんの剣を馬鹿にされたからだ。

 俺を唯一褒めてくれた、あんな弱かった俺を見捨てず、見放さず、熱心に鍛えてくれたのは本当にじーちゃんだけだったな。

 そのじーちゃんも六年前に死んだ。

 それ以降、母さんのエレナ贔屓は一層強まった。俺は我慢の限界に達した日、こう叫んでやった。

「じゃ、あんたも俺の今を味わってみろよ! お前もこの重圧を受けたことがあるのか⁉ 偉大なる祖父を持ち、偉大なる父親を持ち、稀代の天才と噂されるけど本当な何にもできない。ただただ誇張された噂だけが流れる。そんな中で精一杯強がってる俺の気持ちが分かるのかよ⁉」

 あの日、俺は生まれて親に対して暴言を吐いた。悪態をついた。

 あの日は流石に父さんも母さんを諌める程、母さんの俺に対する罵倒が酷かった。

 だからそんだけ暴言を吐いても父さんに叱られることも、後から母さんにどうこう言われることもなかった。

 エレナだけ、不安そうな顔をして俺のことを見つめていた。その後言われた一言を俺は今でも忘れない。

「大丈夫だよ。お兄ちゃん。私がお兄ちゃん分まで頑張るから。もう、お母さんに花も言わせないから」

 数年後、エレナが戦場で倒れたと報告が入った。奇跡的に東都まで来たけどその時にはもう危篤状態だった。

 頭から血を流し、目は閉じたままで心臓は止まりかけ、息はもう何度つまったか分からない。そんな状態から回復して今も戦場に立てていることはもはや奇跡以外何物でもない。

 その日に俺は誓った。俺は妹を守ると。

 俺の病気はその頃小康状態になっていた。

 俺は使っていないだけで筋力などは人並み以上だった。これは父さん譲り以外何も考えられない。

 俺はたった十か月ほどで剣術、体術を習得すると直ぐに戦略学の勉強に入った。

 病気だって何時、再発するか分からない。なら病気になっても使える戦略学を主として勉強した方が良い。

 その後三年かけて軍師学校に通い、卒業し、クラリス様の参謀職に就いた。エレナと共に。

 クラリス様は俺のことをよく理解してくれた。そして、クラリス様は戦術の才だけでは無く、人の心を沈めたり御すことが出来る特殊な力を宿しているようだった。俺はあの御方に絶対の中を誓った。

 だからクラリス様がこの男————リシュアン・レオンハルトに討たれた時はショックで、深い悲しみで涙を流し、怒りに震えた。

 リシュアンが翆玲、炎獄との戦いに向かったときは早く死ねと心から願った。

 その時、丁度他の軍から勧誘が来たが全てを断り続けた。

 少なくとも、俺が一生涯をかけて忠を誓ったクラリス様の仇を討つまでどこの軍に属さないと決めていたからだ。

 反乱軍を率いたのは、扇動したのは俺が仕組んだからだ。あの時一斉に立ち上がったのは俺の息のかかった連中だ。そいつらに反乱を起こさせた。

 その流れで北部に婚約者を救いに来るだろうリシュアンを殺そうと思った。

 だが突然現れた武士共にそれを阻まれた。今でも憎いよ。アイツらがさ。

 再び東都に帰った時は母さんに散々暴言を浴びせられた。「あなたが弱いから、エレナの華々しい戦績に泥を塗ることになった。どうしてくれるのだ」と。知らねーよ。そんなこと。勝手に怒鳴っとけよ。

 その時、俺は母さんに秘密で呼び出されていた。

 俺は見張りがいないことに気付くと腰から剣を引き抜いた。

 その後父さんには母さんが刺客に殺されたけど、俺が追い払ったと報告した。

 父さんは信じられんと声を上げたが、エレナは只々涙を流して悲しむだけだった。

 俺が母さんと不仲だったことも功を奏した。涙を流さない理由が出来たからだ。流石に葬儀の時には頬を涙が伝ったが母さんに対して泣いたのはそれが最初で最後だった。

 父さんからリシュアン・レオンハルト討伐の為に軍を起こすと聞いた時には感極まった。

 だからなのかな。何か俺は抜けていた。いつもと軍の動かし方が違う事は俺が自覚していたのに。

 自分でとどめを刺すような愚行は本当の俺ならしない筈なのに。

 あーあ、やっぱり俺、死んじゃった。でも、最期に一つ、やるべき事をやっておこう。


 俺は最後の一瞬、その力を振り絞って剣を振り上げた。

 リシュアンの鎧を削り取り、かなりの範囲を出血させた。

「総司令!」

「リシュアン様!」

「リパル様ぁぁぁあ!」

「お兄様‥‥!」

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