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四拾伍話 弱小国家の総司令

 俺は二刀を横同じ方向に水平に構えた。

「ウオアア!」

 雄叫びを挙げながら放った一撃は見事に東都王の大鎌に阻まれた。

「ふん。その程度か」

「初撃を見事に受けただけでなんだよ」

「まあいい。近頃は貴様のような強者と戦った覚えがなかったのでな。相手してやる故かかって来るのだな。リシュアン総司令」

「そんな自信がどこにあるのか教えてほしいものですな。東都王殿」

「自身なぞ、ここにあるに決まっておろうが」

 東都王は自らの胸をドンと、鎧の上から叩いた。

 その直後馬に手掛けより、その大鎌を使って俺を馬から突き落とした。

「ガハッ」

 見事に刃の部分が俺の腹を切り裂いた。吐血。内臓まで届いた深手というわけでは無さそうだが、衝撃で内臓付近の血管が壊れた可能性はあるな。

「お見事」

 そう小さく呟くと、俺は東都王の馬の真下でジャンプし、下から突き上げた。見事に鎧と鎧の狭間、境目にカタナ二刀が突き刺さる。

「グアッ」

 鈍い悲鳴が巻き起こるが知ったことではない。落馬して落ちてくる東都王にカタナを突き付ける。

 しかし、そのカタナは途中で止められ、かえって俺が吹き飛ばされた。

 俺は状況理解に数秒を要した。

 俺のカタナは明らかに首に突き刺さる勢いで進んでいた。そのカタナが宙を舞い、俺自身は遠く一騎打ちを見る外野まで吹き飛ばされた。

 鎌をカタナの内側に引っ掛け、大きくスイング。その勢いに耐えきれなかった俺腕は自然にか、本能的にかカタナから離れ、一振りのカタナは宙を舞う。その勢いをカタナに全てかけることの出来なかった俺はここまで吹き飛ばされた。

 両手両足がジンジンと震えている。左手に握るカタナもパキッという音を立ててその刀身にヒビが入った。

「ほお、今の一撃で自らも飛ばされぬとはな。こやつもまた、傑物の類か。リエル。敵の親衛隊を滅しろ。その中で儂はこやつを料理してくれる。ルエリアは前方の氷晶軍の指揮を行え。攻めを一層分厚くしろ」

「リシュアン様! これを!」

 側近の一人が赤と黒に塗られた剣を俺に渡した。

 実戦の剣。明確に言えば葉桜光龍三年同盟の剣。実戦用。

 同盟を結ぶときに渡された剣で儀礼用、実戦用、象徴用がある中の一つ。実際の戦で使う事を目的に作られた剣だ。

「そしてこちらを!」

 聖剣アロンダイト。特殊加工の鋼の剣に黄金の鍔、緑の宝玉————ヒスイをはめ込んだ柄を持つ聖なる剣。神話時代に竜斬りにも使われたとされる伝説の剣。

 実戦で使用されたのは奉納される前だから三十年前の持ち主、つまり王アレンの父。先王だ。

「それは‥‥! アロンダイト! クアハハハ! まさか貴様が持ち主だったとは。では儂も本物の武器を出すとするかのぉ。暴れるぞぃ。神槍ロンギヌス」

 真っ赤に塗られた柄。槍の刃部分に中央にこれまた大きなヒスイをはめ込んだ神槍ロンギヌス。

「どちらも神話級の神器ですか‥‥」

 そんな野次馬の言葉を聞いた瞬間か、言い終わるコンマ一秒前か、俺は走りだした。

 俺の突進に合わせて前に突き出される槍。

 それを左手の実戦の剣で受け流し、懐の内側に入る。

 右手に構えたアロンダイトは横薙ぎ。兜と鎧の狭間に突き立てられようとしていた。

 その瞬間、左脇腹に強い衝撃を感じた。

 油断した。いくらリーチが長い槍で懐に入られると不利とはいえ、その長い柄で叩きつけることは可能だった。

 左脇を鋭利な刃が撫ぜる。出血。深手ではないとは思うが、明らかに切り裂かれた。

 右手で地面に手をつき、体勢を立て直そうとした。ダメだ。コイツから一瞬でも目を話せば死ぬ。

 また血を吐いた。だが、そんなことを気にしていられる余裕は俺にはない。

「総司令! 奥の光龍軍持ってあと二時間!」

「二時間と言えば日が暮れる少し前ではないか!」

「だ、そうだ。東都王。早々にお前を葬り去る」

「やってみせるがよい。弱小国家の総司令!」

 啖呵を切ったのはいいが俺自身この敵に圧倒的武力の差を感じていた。

 声を荒げながら振りかざした二刀も、次の瞬間には槍の柄に受け止められる。

 すると、カウンターされ、何所かを突かれ、止まった時間が再び進む。

 日が陰った。雲に隠れたのだろう。

 ザグッと鈍いことが木霊した直後に、胴当ての右側が脆い岩のように崩れた。

 そこにはロンギヌスが突き立てられていた。

 その傷口からはドロドロ血が流れている。地面に落ち、大地を赤く染め上げたところで目の前で光が爆ぜた。

 原因は多分貧血だ。度重なる出血、吐血を繰り返したのだろう。

 俺は倒れるように見せかけ、東都王の兜上部に刃を突き立てた。

 兜は吹き飛び、東都王の左目を奪ったが俺自身はそこで己の限界を感じた。

「全軍‥‥離脱しろ。この敵将アーサの囲いを抜け眼前で殺戮を受けている光龍軍を‥‥救出‥‥解放‥‥しろ!」

 俺は指笛を拭きトレンツを呼び寄せた。周囲の敵兵は東都王の左目がつぶれたことに驚き、東都王に駆け寄った。俺はその横を通り抜けると、意識朦朧としながら敵を薙ぎ払い続けた。

「総司令! 正面の軍瓦解します!」

 空が赤に染まるころ光龍軍は崩れの第一波を喰らった。

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