四拾弐話 完全包囲
「そんな焦りと自分ことしか考えていないような目じゃね」
「嘘だ! 私はクラリス様の為! 国の為! 日々精進し、貴様のような強敵を討ち武功を挙げ、国を率いるような大将軍、いや! 聖騎士、英雄階級に!」
「ほら。やっぱり武功を立てたいだけ。それに、クラリスはもう居ないじゃん。国の為、そう言うんだったらさっさと右の東都王のもとに行きそれを補佐したほうがいいと思うけど?」
「違う! これで間接的援護となっている!」
「それなら、君のお兄さんに頼むだけでカタが付きそうだけど?」
「‥‥!」
一気に三撃が飛んできた。無論躱すか受け止めるだけだから意味は無いんだけど。
最後の一撃。俺は右斜め下からの切り上げに対して躱すことを選択した。しかし、除けがやや遅かったのか俺の右の肩当が宙を舞った。
俺は大振りの攻撃を受けたが、長柄武器の大振りは大きな隙を生む。
俺はその隙を見逃さずハルバードの刃の部分で相手の左肩口からの袈裟切りを行おうとした。
しかし、一瞬の動揺が巻き起こった。こうやって戦場に立っている以上、相手の命を奪う事に対して何の躊躇いもない。
だが、俺はそこで刃を止めてしまった。本来ならそこで無情にも切り捨てるだけなのだが。
きっとそれはリパルの所為なのだろう。俺が目の前で妹を殺しては彼は深い負の感情に襲われる。目の前で親族を失うとはそういう事だ。
「総司令! 右方竜檄歩兵団が横陣を抜いたと!」
「‥‥全軍離脱! 右の竜檄に合わせろ!」
「なんだ? こんな所までハルバードを振り下ろしておいて止めた挙句、この場から逃げるとな?」
「馬鹿か! お前はもう少し全ての戦局を見ろ! 右の各大隊に連絡! その歩兵団を殲滅しろ!」
リュミエール兄妹が言い争っているのを右目に見ながら俺は走りだした。
「抜けてこれた軍の総数は⁉」
「およそ四万三千です。今すぐ右か左の敵軍の後ろに回りましょう!」
「ああ、まずは右翼! 東都王の頸を取る!」
約四万の俺の軍は夜戦の構えもせず夕方から走り出した。
「夜戦に縺れる。各々覚悟しておけ!」
♦♦♦
「では手筈通りに。後方八万を動かせ、リシュアン軍を滅せよ!」
「さらに後方霜淵周辺より三万。狼鋼、狼麟より三万ずつの計九万。合計十七万での包囲を行います」
「ああ、その総指揮は西都王に任すとしよう。儂はここで光龍軍を殲滅しこの戦の陰の立役者となろうぞ」
「急報! 前方より敵第三将ゲルムの軍が迫っており被害は甚大!」
「周辺から兵を逃がし、離れたところから狙撃弓兵で穴だらけにしてやれ」
俺の名前はジオア・マンテノート。東都王殿下‥‥皇太子殿下‥‥まぁ、どちらでもいい。その御方の軍の副官を務めさせて頂いている。
「殿下。私は今より後方軍の指揮を執ってまいります」
「ああ、頼りにしておるぞぉ。ジオア。必ずやリシュアンの頸を挙げて参れ。後方軍の総指揮をお主に託す。後方には将校を多数配置してある。自由に使え」
「ハハァ!」
「それと一つ。敵はあの凶将リシュアン・レオンハルトだ。決して気を抜かず、手を抜かず、油断せず、焦らず落ち着いて戦え。それと奴は奇策に弱い。いざとなったら儂の授けた対リシュアン用布陣を使え。いざとなれば‥‥いや、いざとなる時がないとは思うが儂が出る。儂の旗印は貴様に持たせておく故、陽動などに使え」
「承知!」
♦♦♦
「総司令! 前方に八万の軍を発見! 我らの足止めのつもりの様です!」
「構うな! 一点突破する! 固まれ!」
「さっ、更に報告! 後方や右側の森林よりそれぞれ五万単位の軍が出現!」
前に敵将の将旗が見えてきた。あれは‥‥守備の名将ジオア・マンテノート。彼の指揮する守備軍ならそう易々と突破できるただの守備軍ではない‥‥。
だがここで後ろに下がれば大きな混乱をきたす‥‥!
「右斜め前へ前進! 敵が合流しきる前に駆け抜けろ! 直ぐに右翼のゲルムや副将であるミナがいる! 一人でも多くの生還を目指せ!」
叫んだ俺に続く様に軍が俺に付いて来た。
「後列歩兵中隊! 敵騎馬隊に接触します!」
「右側側面呑まれました! 敵軍包囲を作りつつあります!」
「敵左翼側より新たに敵軍が出現! 二万程です! 旗印は‥‥東都王!」
「左側面! 接触! ここにももう敵が来ます! 総司令‥‥退避をっ!」
「外周部より狼煙が! 敵軍外苑作りつつあり、脱出は困難を極めます! 今ならまだこの正面の軍を突破することで脱出が出来ます」
「無理だ‥‥。正面は東都王が自ら率いる軍だ。突破はほぼ不可能だろう‥‥」
「では一体どうするのですか⁉」
「まっ、先ずは方陣を作り、敵の攻撃に耐えろ。いずれ敵にもほころびが生まれる。そこを突いてこの完全包囲からの脱出を図るしか他に手はない! ガルム方陣右壁の指揮を執れ! 他の各将校は各々状況を見て適切な判断を行え!」




