丗玖話 置き土産
「狼鋼陥落! 隣の狼麟に降伏勧告が届いたと!」
「狼麟に伝令。降伏勧告を受け入れ、従順に従えと」
大陸全土を書いた地図の狼麟の駒に水色の小さな旗を掲げる。
「央都より出陣せし本軍と思わしき大旗を掲げし一団を確認!」
「将旗は誰のものだ?」
「確認できたのはリパル・リュミエールとエレナ・リュミエール、もう一本未確認の旗が二本」
「未確認の旗?」
「つまりは、我らの知らぬ新戦力‥‥将又眠っていた虎か」
マルムの呟きは核心を突いていた。
「王の出陣‥‥か。となると八年ぶりだな」
最後に五都王の何れかが出陣したのは八年前。
八年前の氷晶と葉桜の戦いが俺たちが掴んでいる情報の中では一番新しい。
「それと各将校は無事か⁉」
「南都守城長官兼北部指令イオ・アストレイ将軍は行方知れず。北部副指令ミナ・ハルシオン様は白氷や霜淵の一帯の兵を率い南下。セリウスに入城するとのことです。第一将に格上げとなったリア・モタナ将軍、リノ・アストレイ将軍の両将はすでに前線を離脱。崩魂平原に兵を集結させていると」
「葉桜より返答! 宿老家当主華怜・鈴銀を大将に五万余を出陣させたと!」
「して、此度も前線に立たれるのですか? 総司令」
「その予定だが、今回は平地戦。ロクな奇策も効かないだろう。しっかりと陣を構えるだけだ」
「承知しました。王にはこのクレイドが伝えておきます。後軍や援軍が送れるようでしたら随時出陣させます」
「い、戦とは関係が無いのですが一つ不可解なものが‥‥」
伝令兵が言った。戦と関係なくとも一応耳には入れておくべきだろう。
「どうした?」
「は、ハハ! 我らの諜報機関である月華の葉桜方面の間者より報告がありまして、葉桜の相国と翆玲の大宰相が秘密裏に会談を行ったと」
「内容は?」
「同盟締結と報告が来ましたが、まだ翆玲方面より報告が上がってきていないので照合には少し時間がかかるかと」
「分かった。下がってよい。では、叔父上、右宰相、マルム、クレイド。行ってきます。勝報を待っておいてください」
「ああ、リシュアン。必ずや‥‥勝ってこい」
「葬獄に連絡。出陣だ」
六日後。
「生き残りの北部各将。揃っているな? だが、イオ・アストレイ将軍がこの場に居ないことが何よりも悔やまれる。将軍は‥‥よくやってくれた」
————第五人間暦四百八十七年。三月。
イオ・アストレイは光龍国北部での戦いにて時間を稼ぐため寡兵で敵中に飛び込み死亡した。
「将軍の死を無駄にせぬ為にも、この戦、必ず勝とう!」
将軍の予見能力にはいつも驚かされてばかりだった。
将軍はこんな置き土産を残してくれたのだから。
北部軍精鋭軍を集めて作った特殊部隊。竜檄。将軍が練兵に練兵を重ね作り上げた最強の戦士団。
次に北部軍新鋭将。第三将、第四将の発掘‥‥か。
北部軍第三将ゲルム・フォルディエス。豪胆。その一言に尽きる。巨大な金槌から繰り出される無慈悲な一撃は力を必要とする盤面で必ず必要になる。盤上を壊す天才とも言えるだろう。
北部軍第四将。この戦唯一の不安要素‥‥だな。アウレリア・シルヴァハート。金とも銀ともとれる髪を持つ大陸北部では珍しい容姿を持ち合わせた女性である‥‥。出自は南都貴族家。これが最大の懸念点だ。氷晶との一大決戦にその国の高家の娘を参戦させ、あまつさえ、その者に数万単位の軍を率いさせる将とする。不安でしかない。
最後に北部軍の統率か。北部軍の兵数をあらかじめ完全に把握し、所在までもをきっちりと書き留めた本があった。将軍の几帳面さが窺えるな。
「今回の戦場、この崩魂平原の情報と敵の軍容を整理したい。手伝えるか?」
そして分かったのは崩魂平原は南北に長く東西に短い。そのため、広域展開による一斉攻撃、殲滅はない。加えて東西を峡谷とタイガの森林に阻まれるため、横撃、奇襲は不可。正面からのぶつかり合いだ。
敵の軍容は続々と送られる援軍の波も途絶え、六十二万で落ち着いた。
将はリパル・リュミエール、エレナ・リュミエールと他に未確認の将が二人。
「報告です! 葉桜軍到着。左翼に展開を始めました!」
「そうか。葉桜軍に伝令。開戦の合図は銅鑼の音。併せて頂けるとありがたい」
「いよいよですか‥‥」
「ああ、それじゃ、始めようか。全員の無事と健闘、武運を祈るぞ」
♦♦♦
「リシュアン・レオンハルトが北の地に出向いた、と、密偵より報告が」
「うむ‥‥。西部軍に連絡。再び五万から十万規模の軍を編成し光龍へ攻め込め」
「チャンスをくれてやる。期限はもう二年無いのだぞ? ゴルドン」
「承知しております。このゴルドン・フェル=グラナート、必ずや光龍軍を叩き潰して参ります」
「期待しておるぞ。我が忠実なる進化、五将の生き残りよ」




