丗捌話 無血開城
「南都より報告! 十日前に東都軍、西都軍が王都に集結したことを確認した。その数はおよそ二十三万!」
「南東部最大都市リューダから報告! 炎獄軍が再び前線へ。総数八万三千! 既にアーフガード将軍、ザイフェ将軍が防衛線を張りに向かったと」
「盟友葉桜国王より書簡が届きました。封を開けずにリシュアン様に渡せと!」
「俺に?」
王宮軍議の間に間抜けな俺の声が木霊した。
俺の名前はリシュアン・レオンハルト。この国の軍の全権を握る軍総司令の職に就く男だ。
大陸会議から数か月。今は三月も中旬に差し掛かった頃だ。
あれから様々な事があった。
何より驚いたのは正式な同盟の交渉か。俺、王、アリシアが出席。向こうからは相国と王様がやって来ていた。
同盟の内容は第五人間暦四百九十年までの三年間の同盟。内容は相互軍事補助と不可侵化。
———リシュアン・レオンハルト様
お久しぶりです。ご機嫌の程如何でしょうか? 桜羅・光麟です。
三月も中旬。僕たちの国の桜というピンク色の花は来月の中頃から見頃を迎えます。
そこで一つご提案があるのですが、僕たちの国で花見会というものを毎年行っています。それに盟友である光龍の方々にも出席して頂きたいのです。
これは無策にただ仲良くしようという事ではありません。無駄を嫌うリシュアン様にも来て頂けるよう理由もしっかりと考えました。もうお察しですか?
そう。僕たち両国の友好関係をこの会を通して列国に知らしめてやるのです。
そうすれば、列国は僕らの関係に一目置くことに違いありません。
どうか良いお返事をお待ちしております。
桜羅
桜羅・光麟。隣の葉桜国の国王。
「クレイド。俺は少しここを離れる。マルムと共にこれまでの報告をもとに春の軍事行動の算段を立てておいてくれ。マルム、行き詰まったら右宰相を呼ぶように」
クレイドとは王都軍師官クレイド・ヴォルティールのこと。
マルムは俺の生き別れの双子の弟で王宮仕えに仕官した十七歳。
右宰相は元武官の宰相グラウス・グルドマンのことだ。俺の叔父上の戦友であったとも聞く。
俺はそう言い残すと歩き出した。
「王、リシュアン・レオンハルトに御座います」
「ああ、入れ」
俺は国王執務室の重い木戸を閉め、王に桜羅からの書簡の概要を話した。
王。俺たちの光龍国の王、アレン・リシュホード。
「その話か。俺の方にも桜羅からの書簡が来ていた。おそらくは招待状のようなつもりなのだろう」
「そうですか。では出席の方は如何致しますか?」
「親善という意味では外交の専門家に聞いた方が良いだろう。アリシアに聞いて来い。俺はその時国内で何か有事が起こらない限り行こうと思っているが‥‥」
アリシア。アリシア・ヴァルティアのこと。光龍国の外交の全権を握っている。その妖艶さと容姿から列国の外交官からの呼び名は傾国の美女。俺の婚約者。
「承知致しました。アリシア特使と協議したうえで再度お伺いします」
「それと‥‥。面白い噂を聞いたぞ。この前の大陸会議の折、お前と桜羅がイチャついていたとタレコミがあったのだが‥‥」
その時、カーテンの方がカサゴソと動いた。
「その通りだよ。リシュアン総司令。まだ成年してないから、正妻意外とイチャイチャするのは風習的にどうかと思うけど‥‥?」
バサッ、そんなカーテンの音と、セリフが共に現れた。その発し主はアリシア。
「そ、それは‥‥。てゆーか、俺今年で成年な?」
「失礼致します! 伝令鷹により情報が! 南都陥落! 南都陥落です!」
木戸の向こうで声がした。伝令兵の言葉は俺の予想よりもかなり上をいった。
「失礼致します。これより対策を練らねばなりません」
「仕方がない。あの南都が陥落したという事は相当な事が起きたという事だ。このような噂話に花を咲かせている場合ではない」
俺は早歩き、いや、ほぼ走るようなスピードで軍議の間に駆け込んだ。床の地図には既に最新の情報が書き込まれていた。
「宰相。状況は?」
「うむ。氷晶軍に急襲により南都が陥落。報告によれば東と西から超大軍が現れ、電光石火の勢いで城が落とされたと。既に宰相権限で第一級厳戒態勢を灰嶺山脈より向こう側に発令。第二級を灰嶺山脈と霊川より王都向きに発令した」
「有難う御座います。クレイドは今、北部に集められる軍の総数を計算して。マルムは葉桜に援軍要請を。叔父上には北部一帯と中央一帯への動員命令の準備をさせて下さい!」
即座に動き出した。王宮軍議の間。俺の声がいつもと違いかなりの緊張感を持っていることを感じ取った各々は行動を開始したときからスッと顔つきが変わった。
「右宰相。北部の情報を吸い上げ、王都軍事情報局に全て流して下さい。そこで精査させた後に俺のその情報を全て回して下さい」
「分かった」
四時間が経過した。
北部の小城が続々と陥落。既に俺たちは南都一帯を失地。次に攻撃の対象となるのは姉妹軍事都市狼鋼と狼麟だ。ここで二日。せめて二日耐えてほしい。
「狼鋼、狼麟両城への攻城戦が始まりました‥‥! 敵軍の現在の数が出ました。およそ四十二万。それに後方より続々と援軍が迫っていると! それをも含めた総数をイオ将軍が伝えて下さいました。その数五十二万」
たった数カ月での休戦でここまで兵を復活させるとは‥‥!
「霜淵、白氷に連絡。兵を中央に送り無血開城の準備をせよと」
「なんと‥‥! しかしそれでは‥‥!」
「ここに居る全員に命ずる。崩魂平原を戦場と想定した平原戦の仮想戦を行え」
崩魂平原。北部霊川と霜淵の間に広がる大平原。
「こちらの軍の総数集計終わりました! その数三十八万!」
オオ! という歓声が巻き上がった。無謀だった翆獄戦役の兵数差と比べれば幾分かマシに思える。俺の脳がバグってしまっているだけなのだがな。




