丗肆話 宣戦布告制度
「今年の大陸会議の場所は大陸東部最大都市の剛籠か‥‥」
「剛籠と言えば一昨年に私達が失った土地。どのように変化しているのか見ものだね」
十一月二十一日。俺達は馬車に揺られ炎獄との国境付近まで来ていた。
両宰相は俺達よりも先に剛籠に入っており、各国の宰相らと共に会場整備やなんやらを行っている筈だ。
王は専用馬車があり、厳重に警護されているため、俺の乗っている馬車ではアリシアと二人っきりだ。
「剛籠は近いうちに奪還したいしな。一応城の下見を兼ねておくか」
そう言い終わった俺は馬車から窓の外を眺めた。あの大戦からもうそろそろ三か月。
しかし、その戦果の傷跡は深く東部の地に染みついていた。焼け焦げた民家の瓦礫。荒らされた畑。
その傷跡の修復を地元民たちが行っていた。
「リシュアン様、前方に中都市で本日の宿泊地、蔡林が見えてきました」
「分かった。剛籠の両宰相には蔡林に着いたと伝ておけ」
「蔡林かー。何年ぶりだろ? 東部のこんな前線地帯に来るのは」
「分かんないな。ここ数年間は炎獄との交渉もかなり内地で行ってきたからな。ま、蔡林まで来たなら山脈を越えるまで三日。光龍国から出るまで二日だ」
蔡林は東部前線最前線の中都市で、炎獄方面へ行くための宿場としても栄えている。
「リシュアン総司令! 前方に赤備えの炎獄兵五百を確認!」
「光龍軍と共に前進。王には少し下がって頂こう。相手の動きを見る」
光龍軍と共に。これは無いとは思うが有事になった際でも直ぐに対処が出来るように行う事だ。
「我ら炎獄近衛兵団五百名。お迎えに上がりました。国王殿、総司令殿、特使殿」
「迎え痛み入る。これより先は光龍領ではなくなる故、案内と護衛をお頼み申す」
「承知している。では、どうぞ」
俺らは続々と炎獄兵に付いて行くことになった。
剛籠まではここから十日。また長い道のりだ。
しかし、それも十万規模の軍の足。馬車や近衛兵ならば三日もあれば十分だろう。
「リシュアン様、剛籠の両宰相より連絡。準備は完了した。いつ来ても問題はない、と」
俺は頷き返すと、炎獄兵にこう問うた。
「各国からの出席者はお前たちに伝えられているのか?」
「いえ、我らが知り得るのはお迎えに上がるために伝えられた光龍国の方々と、炎獄王国の方々のみです」
「そうか‥‥分かった」
残念だ。他国の情報を持ち合わせていれば、多少聞けてアリシアにも援護になるかと思ったのだが。
「お久しぶりです。宰相。準備、有難う御座います」
「‥‥なんの。このような仕事は老いぼれが行う事です」
「右宰相、まだ老いぼれというには早くありませんか? 何せ現役時代は死ぬまで国に尽くす、永年現役と仰っていたそうではありませんか?」
「この童は何故そのような事を知っているのか‥‥」
「叔父上が申されておりましたよ?」
叔父上と右宰相は同年代で現役武官時代は肩を並べ競い合った戦友であったと聞く。
「バルドときたら、言わんでも良い事を。まぁ、雑談もこれくらいに、当日の動きについてお話せねばですな。左宰相セルジュ」
「ええ。それでは四日後の当日についてお話します。朝八時に会議が始まります。此度の議長は炎獄。我らは葉桜の隣の席です。議題としては宣戦布告制度の導入の合否ですね」
宣戦布告制度とは戦を始める時に相手国に宣戦布告をするかどうかという事。
今は十五年前に定められた宣戦布告の自由に乗っ取り、しないことが殆どだが、近年、その重要性が注目を浴びている。
例えば、前線地帯の民がそのこと知らずに犠牲となったり、ただの領主、城主の暴走なのに、大規模戦争へエスカレートしたりとこれまででもあまり良いことは無かった。
しかしその反面、戦略性が大きく削られたり、戦略に制約が出来たりと俺のような王宮の武官は少々頭を抱える所で、大きな葛藤を生んでいる。
他国に攻め込むときに戦略性が大きくそがれ自国の兵士が多く死ぬ。
他国に侵攻されるときに対処が間に合わず民が大勢死ぬ。
そんな葛藤の中にいる。
♦♦♦
「翆玲帝王殿に御座いますか?」
「そうであるが、まさか‥‥!」
「これは失礼。名乗り遅れ申した。我が名はダリル・グライドン=キング。炎獄国王である。そしてこちらが――――」
「————私はオルフェン・二ヴァレン。氷晶国央都王です」
「これはこれは。お二人とも去年からお変わりなく。して、光龍、葉桜を抜いて何様ですかな?」
「光龍に我らは大きな借りがある。そうですな?」
「ええ。つい三か月前に苦汁を舐めさせられたばかりです」
「そこで一つご提案が。氷晶王殿」
「奴らは次の標的を氷晶東都としておることは既に我らの諜報機関が抑えております。そこで、氷晶東都に意識が向いたとき。つまり氷晶東都に攻め入った時に我ら三国からなる合従軍が光龍国へ一気に雪崩れ込み、光龍を下します」
「上策と言われれば上策であるが、我ら翆玲は炎獄と手を切ったばかりなのですな」
「そこで、お二国は盟を結ぶ必要はございません。三国同盟の盟主として私が居るだけ。敵の敵は味方。そうで御座いますな?」
「うむ。それならよかろう」
「納得できる。その策、乗るぞ!」
「儂もだ」
「フフッ。光龍のガキどもに一泡吹かせてやりましょう」




