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丗弐話 このような内容は

「‥‥外が‥‥騒がしい。全兵士に命令だ! 何としてでもこの本殿を守り切れと!」

「外より報告! 敵が城内へ進入! その数一千! 旗印は‥‥軍総司令旗です!」

 ‥‥軍総司令旗? リ、リシュアン君が本当に‥‥。

「馬鹿か! この女に聞かれてしまっただろう!」

「も、申し訳ございません!」

 今の焦りよう‥‥演技じゃないな。

「嘘つき。やっぱりそんな嘘で‥‥私を騙せるとでも‥‥私のリシュアン君を思う心を‥‥そんなもので‥‥言葉で引き裂けると思った!?」

「貴様そのような戯言を、暴言をこの私に向けて放つとは正気か⁉ 私は大氷晶国五都を治める五都王がひとり、南都王レイザ・二ヴァレン! 偉大なる大王央都王のオルフェン・二ヴァレンの弟であるぞ! そもそも貴様のような小娘が口を利いてよい存在などではない!」

「知ってる? 口喧嘩で負ける奴の特徴。最初に感情的になった奴だよ」

「貴様‥‥私にそのような口の利き方! 万死に値する! 万死に値するぞぉ! お前の思い人の目の前でその首を切り落として晒してくれるわ! 直ぐに処刑の日が来る。数日の差何ぞ大したものではない!」

「それがどうした? 偽りの南都王。城主殺しが良くそんなぬけぬけと。お前は本物の王族じゃない」

 聞き覚えがある、それでもってトーンが低く、怒りを最大限抑え込んだ‥‥いや、泣き出したいのをぐっと堪えた声が私の引き摺られて連れてこられた本殿と呼ばれる場所に響いた。

「リ、リシュアン君!」

「リシュアン!? 貴様がもしや‥‥リシュアン・レオンハルトか⁉ 嘘も大概にしろ! 貴様のような弱者に兄上が勤められていた‥‥しまった」

「やっぱりな。お前は本物の城主じゃない。偽りの城主だ」

「黙れ黙れ! ハッ! 少しでも動いてみろ! この女の頸を斬るぞ!」


 ♦♦♦


「黙れ黙れ! ハッ! 少しでも動いてみろ! この女の首を斬るぞ!」

「少し待ってろ。怖いかもしれないが、一瞬で終わる」

 俺は大きく地を蹴り動き出した。首を絞めつけ、喉元に剣を当てるこの男の手を少しでも動かせば、少なからずアリシアにも危害が及ぶ。それは何としても避けなければならない。

 俺は腰に差した短剣を抜き、内向きに持つと、その首に突き刺した。

「アリシア! 下に抜けて!」

 合図と共に、アリシアが首を絞めつける腕を搔い潜り、男から離れる。

 左手で首に突き刺した短剣を維持し、右手で直剣を確実に心臓を打ち抜く。

「アリシアはお前みたいな下等生物が触れていい人間ではない。とっとと地獄に落ちろ」

 ドザッと鈍い音を立てて倒れた。当然だ。内頚動脈と心臓という急所二か所を一気に打ち抜かれて生きている人間など居る筈がない。

 駆け寄ってくる人影。誰とは言うまでもない。

「よがっだ‥‥よかったよ‥‥。もう、死んじゃうがど思っだじゃん!」

 濁点だらけ。泣きじゃくるその頭を俺は笑って優しく撫でた。日が差してきた。奇麗に日が差し込んでいる。

「なんで‥‥なんで泣かないの‥‥? 泣いてよ‥‥。いくらなんでも鈍感すぎるでしょ」

「だって、笑って迎えたほうが、帰りやすいだろ?」

「へ‥‥?」

 俺は立ち上がった。

「帰ろう。光龍国()へ。紹介したい人間が居るんだ」

 俺はそう言うと、アリシアの手を引いて歩きだした。

 俺は大きめの建物を出た。雨上がりの地面が輝いている。

 そして空には七色に輝く虹が浮かんでいた。

「ね、ところでさ、リシュアン君。紹介したい人間って?」

「フッ、俺の生き別れの双子だよ」

「リシュアン君の‥‥双子?」

「ああ、アリシアが居なくて廃人になり下がっていた俺を、暗い闇の底から引きずり上げてくれた人。マルム・レオンハルトだよ」

「リシュアン君にそんな人が出来たんだ‥‥。フフッ。良かったね」

「ああ。そうだな。そうかもな。ガルド。全軍に伝令だ。帰るぞ! 俺たちの国へ!」

「ハハァ!」


 ♦♦♦


 大陸に伝わる伝承。その一つをここでお教えしましょう。



 遠い遠い昔の話。

 思い人を攫われてしまった可哀そうな人間と、攫われてしまったその人の思い人が居ました。

 二人は政略結婚にも拘らずとても愛し合っていました。

 しかし、攫われてしまった人の出はあまり良くなく、少し竦んで接していました。

 そんなある日。攫われてしまった人は、その思い人は離れているにも拘らず、ほぼ同時にこう思いました。

 もう一度、会いたい。顔を見たいと。

 攫われてしまった人は凌辱や虚言に耐え抜き、その思い人は軍を率い、戦いに挑みました。

 二人は到底会えるような位置関係ではなかった。しかし、会えた。

 これは神々が見ている。そう人々は叫んだ。しかし当人たちはこう微笑んだ。愛のなせる技だと。

 数百年後まで伝わるこの物語を、軍記物ではこのように表している。



 ————本来、このような内容は軍記に記すような内容ではない。

 しかし、あまりに人々から人気があるため仕方なくここに記すものとする。


 第五人間暦四百八十六年秋。

 リシュアン・レオンハルトは最愛の者、アリシア・ヴァルティアと再会した。

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