丗話 大論功行賞式典
「炎獄軍、戦場を離れていきます!」
「最北のヴァルゼン残軍は遅く、未だ戦場を離れておりません!」
「北東部の戦域にミナ・ハルシオンを向かわせて掃討戦を始めさせろ。この南東部一帯は王都から派遣された両将を帰還させ、東部軍で監視・掃討を続けさせろ。マルムと俺は一時的に王都に帰還する」
「ハハァ!」
後世の世に記された書物にはこのように記されている。
――――第五人間暦四百八十六年九月。
翆玲と炎獄の両軍が七十万規模の軍を起こし、光龍国を攻めた。
光龍軍は十八日間に及ぶ戦いに見事勝利した。
と。また、他の光龍国について書いた書物にはこのように記されている。
————四百八十六年秋。
二十日余りの激戦となった翆獄戦役は翆玲軍の離反や将の死亡が重なり、軍総司令リシュアン・レオンハルトが率いた光龍軍が勝利した。
また、炎獄五将のヴァルゼン・ダル=グラオとセレスティア・ノール=ヴァリアが死んだ。
と記されている。
二つの書物の詳しい所には多少の食い違いが在れど、確定している史実がある。
光龍軍が劣勢の戦局を跳ね返し、勝利したと。
十日後、光龍軍の一部が王都に帰還した。
戦いを勝利に導いた英雄的な戦士たちや、指揮官の堂々たる凱旋であった。
「これより大論功行賞式典を始める! まずは第一功授与。リシュアン・レオンハルト! 先の交渉による刺客の攻撃で重体ながらも、その大戦場の指揮を執り、東部・南部での戦いを勝利に導いた。よってこれを第一功とし、爵位を公爵第三位へ引き上げ、宝物聖剣アロンダイトを授与する」
「有難く」
巻き上がった歓声を手でグーを作り沈めると、俺はその場を去り、自らの席に着いた。
「続いて各三方面の将への論考を行う。東部はシグルド・ハーゲン将軍がヴァルゼン・ダル=グラオとの壮絶な一騎打ちにて討ち死にされ、同時に副官や参謀も討ち死にされたと伝わる。そのため、その後軍を率いたシグルド将軍配下であるザイフェ・ルーン将軍とアーフガード・ロディア将軍に第二功を頭割りとする。続いて南東部軍エドガー・ヴァルクレン将軍。貴殿は翆玲国軍第一将レン・フーランと十八日間に渡り互角以上の戦いを繰り広げた。これも第二功とし、東部指令に任命する! 最後に南部。南部は明確な将が居らず、功績で分けようにもどちらも互角の功績を納めた。故にこちらも第二功を頭割りとし、マルム・レオンハルトとスルール・グレンシア両将を第二功授与とする。それぞれ爵位を三段階昇級。宝物を授与する」
「他各方面の大軍を率いた将には爵位二段階の昇級と金品を授与する」
「続いて、特別功を授与する! まず一つ目。間に合いはしなかったが葉桜軍は我らの救援のために三万を派遣してくれた。その心意気をもとに葉桜国に三万の金を授与する」
三万金とは大きく出たな。財政難のこの世の中で三万とは。ダリオが頭を抱えている姿が容易に想像できるな。
三万金とは日本円に直して十五億円となり、一金あたり五万円の価値を持つことは彼らが知る由もない。
「続いて特別功二つ目をミナ・ハルシオン将軍に。北部の地より激戦の傷癒えぬまま駆け付け、掃討戦に参加し、多大な功績を挙げた。よってこれを特別功とし、北部軍副司令官に任命し、狼鋼城城主とする。そして特別功最後はリシュアン総司令が全兵士向けると。この戦いで領土を少し足りとも失わなかったのは指揮官の力だけではなく、一介の兵士にもその恩は及ぶ。故に全兵士の爵位を一段階昇級させ、十金を全員に与えるとのことだ。相違ないか?」
「問題ありません。王」
「ではこれにて大論功行賞式典を閉式とする!」
しかし、この戦いにはまだ続きがある。
「式典後直ぐに失礼致します! 炎獄軍の一部の兵が暴走し、東部に集結しつつあるとの事! その数六万!」
「リシュアン。六万だが対処は出来るか?」
俺は横に首を振った。
「今、東部は南部と同じく兵を地元に帰らせており、国境配備兵は居るには居ますが大戦の傷は癒えずボロボロの兵が三万程度。対して、暴走したという炎獄軍は此度の戦の決着に納得がいかぬ者たち。つまり、主を失った兵でしょう。つまり、士気も高く、ただの六万と侮っては足を掬われます。大至急! 東部兵を三万招集させよ! 申し訳ないですが、アーフガード将軍、ザイフェ将軍。頼まれて頂けますか? 東の指揮権を預けます。エドガー将軍は後軍の準備を」
「相分かった」
「続いて北部より報告! 北部で旧氷晶領より徴兵した一部兵が暴動を起こし、イオ・アストレイ様が捕らえられたとの事! 尚、現在も反乱軍は集いつつあり、その数は五万を下らぬと! 扇動しているのはリパル・リュミエールとエレナ・リュミエールです!」
「ミナ、俺と共に北部の地へ出向いてくれ。俺も北部には用がある。マルムはこの王都で留守番だ。叔父上や右宰相と共に次の行動を考えること!」
「分かった」
「では、散会!」
登場人物名鑑その1
リシュアン・レオンハルト
・十七歳の天才的な頭脳を持ち合わせた光龍国軍総司令
・基本戦術と陣形を専門として学んだため、奇策には弱い
・父親が反乱貴族で妬み、嫉み、疎ましさの対象になることもしばしば
アリシア・ヴァルティア
・傾国の美女と謳われる光龍国外交特使
・現在は拉致され、氷晶国にて幽閉中
・大商人家の娘でリシュアンの婚約者
マルム・レオンハルト
・リシュアンの双子の弟で王宮仕え
・個の武の面ではリシュアンよりも劣るが、その伸びしろ大な才能がそこを覆い隠している
・初陣から三万の将に据えられ、内心とても焦っていたらしい
アレン・リシュホード
・光龍国王で王位に着いてから一年の十七歳
・人心を掴む能力や人の能力を見抜く力が人一倍ある
・王家のリシュホード家の嫡男でもともとはリシュアン、マルムの幼馴染




