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廿玖話 王都圏域

「敵部隊の後ろより騎兵団を確認! 総数は二千弱! 旗印はリシュアン様の物です!」


 ♦♦♦


「展開して蹂躙。えぐり進んでマルムと共闘しレン・フーランの頸を叩き切る!」

 この大隊を挟んで正面。マルムの背後から三千の騎兵隊が現れる。重装騎兵で足止めを図る気か。正しい判断だと称えたいところだが‥‥今はそんなことを言っていられる状況でもない。

 何にせよ、後ろから血刃騎士団が追って来ているからだ。

 概算でこの大隊は三千の中隊二つと二千の中隊一つの合計八千からなっている。

 レン・フーランが自ら率いる二千の後ろに三千が二つで六千。

 縦に伸びたその隊形は崖上から数えたところ、百列。

「あの大旗の麓に敵将が居る! 殺せば一生遊んで暮らせる分の金が手に入る! 集え全兵士よ! レン・フーランの頸を取れ!」

 エドガー将軍か。いい鼓舞だ。それに、将軍も俺と同じことを考え、後ろから入って来たか。

 掘り進んで今は八十列。

 大旗がもう目の前に見える。

 馬の速度がまた一段と上がる。

「我が子の仇とか言って激高して斬りかかって来ないんだ。やっぱりルラ・フーランは――」

「——黙れ‥‥」

「じゃ、翆玲兵に俺の方から言ってやるよ。ルラ・フーランはフーラン家の人間に非ず。本名は――」

 言いかけたところでレンが戦斧を振るった。長柄の両手持ち片刃の戦斧。俺のハルバードと似ているのかな。

「この声が届いている全翆玲兵に告ぐ! 全軍離脱! 撤退し翆玲国本土まで撤退! 炎獄とは手切りとする!」

「脱出させろ! マルム! 通せ!」

「分かった。進路上に位置すると思われる各隊に伝令を。本陣横まで撤退しろと」

「俺の東部軍にも同様の伝令を送れ!」

「何故通されるのですか? 最低限の戦果としてここでレン・フーランの頸を飛ばすべきかと思いますが」

「奴をしとめるより、翆玲軍を下がらせ、次いで炎獄軍も滅する。そのほうが効率が良く、戦果が大きい」

 次々と離脱していく翆玲軍の背を眺めていた俺は、あることを忘れていた。

「他の全軍に伝令。翆玲軍撤退を開始。炎獄にのみ集中しろと」


 ♦♦♦


「使者が帰ってまいりました! 我らは王の命令で派遣された援軍であり、誤解を解くのと同時に詫びをしに参ったと」

「『誤解を解く』とは?」

「左宰相の見立て通り、葉桜国は先の使節団強襲とは無関係で、刺客の戯言と。故に外交官の解放を願うと」

「右宰相、供述と合っているか?」

「ええ、概ね」

「分かった。国境周辺の関を通せ。東の戦場には葉桜の援軍がそちらに向かったと伝えろ」

「承知」

「ここで、軍総司令代理として一つ宜しいか?」

「なんだ? バルド軍政担当大臣」

「王都圏域の国門は封鎖するべきと上奏いたします」

「理由は?」

「そう焦られるな。ダリオ大臣。王都圏に外国の軍を入れるのはその国の死を意味します。理由はただ一つ。単純明快。王都圏という国防最終線を敵国に晒し、戦略や対策を立てられてしまいます。それは援軍として通過する軍であっても、同盟国だとしても同じです。この戦国の世の同盟とは、ほんの五年。いや、五年持てば優秀なくらいですな。そのような疑心暗鬼に囚われている我らは生存戦略を同盟国相手にも張らなければなりません。以上の理由から王都圏域の国門を封鎖する案を上奏します」

「両宰相はどう思う?」

「礼を欠く行動とは思いませんな。このような世でなければ援軍を信用しない礼を欠いたような行為ですが、今は違いますからね。左宰相セルジュ・セルドはこの案に一票賛成の票を入れます」

「ふむ。右宰相グラウス・グルドマンも同じく」

「王都圏域全国門、全都市、前城塞に連絡! これより、葉桜軍が王都圏域を通過するまで第二級厳戒態勢と同様の処置をし、これより十日間、城外での作業を禁止し、城門、門戸を固く閉ざすよう」


 ♦♦♦


「西部より増援六万が到着しました! この軍を率い、南都攻略の準備をせよと!」

「西部より六万。この地で徴兵練兵をした軍が二万。増えて八万。合計して十六万ですか‥‥」

「現在密偵からの報告で分かっている数で南都には少なくとも四万の兵が居ると」

「練兵を今日より大幅に実戦に近づけろ。歩兵の練兵内容を白兵戦と攻城戦の内容とし、騎馬隊には場内制圧の流れを考えた戦術考案と練兵を始めさせろ」

 了解の返事を聞くと、俺は城壁から南都を眺めた。

 間にある針葉樹の森林地帯を抜けた先に川があり、川から水を引き水堀を有し、近年の改築で巨大望楼を備え、四隅に櫓をつけ加えた鉄壁の城塞都市。

 あの城は一月後には我らの城となる。いや、我らの城とする。

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