廿漆話 軍の関節
「‥‥アン! ‥‥シュアン! リシュアン‥‥!」
マルムか。コイツが俺の傍にいるという事は、今日の戦いは終わったという事か。
「やっと起きやがった。あれから既に二日経ったよ」
二日。
どうやら俺は一日どころではなく、二日ほど眠っていたようだ。
「戦局はどうなった? 各地は?」
「この二日間でセレスティア残軍は壊滅。エドガー副指令の戦場は膠着状態だけど、スルールの率いる六万は既にガリム・ベレッツィアの軍を翆玲国本土まで押し返し、この戦には二度と関与させないようにした。他の戦場は膠着。唯一動いているところと言えば、シグルド将軍亡きあの戦場くらいだね‥‥」
「‥‥分かった。明日以降はここの軍とスルール軍を主軸とし、南側から敵を蝕んで回る」
南側を抑え、南東部から東側へ回り込めば、必勝戦術とされる挟撃が成り立つ。
その時に響く勝鬨は‥‥俺達のものだ。
「リシュアン。本当に大丈夫ですか?」
「心配には及ばない。スルール。俺もこの国を背負って戦う義務がある指揮官の一人なのだからな」
「開戦の銅鑼を鳴らせ。リシュアン、俺達から始めるぞ」
「分かっている。マルムを前衛に後ろにスルールがついて防陣配置で初めて」
怒涛の十四日目。開戦。
「今日は俺の横に出た本陣は防御主体で立ち回る。攻撃の主導権はエドガー将軍に任せ、俺らは敵軍を抑え続ける。第六重装歩兵戦士団を前へ。第二弓兵大隊は一度外へ出して遠距離速射を始めさせて。戦車隊には騎兵隊をぶつけて足止めさせろ」
この戦場はとても複雑だ。南北に流れる川と断崖絶壁の丘。その下に広がる平原。よくこんなところで二週間も絶えたものだ。
「山脈方面より報告! 今日この後雨になる可能性大!」
雨‥‥。こちらに不利に働くものではないが、有利に働くわけでもないか。
「報告! 騎兵小隊こちらに向かって来ます!」
「〈獄龍〉をぶつけて様子を見ろ!」
「続報! 向かってきているのはルラ・フーランの部隊です!」
「‥‥。〈葬獄〉を率いて俺が出る。他の隊はその騎兵小隊と決して交戦しないように」
ルラという男が率いている隊なら確実に精鋭兵団だ。
ここ数日、蠅のように飛び回っていてウザい部隊があるとはエドガーから聞いていた。恐らくはこれのことだろう。
「この本陣周辺に包囲陣〈二重腐狼の陣〉を敷かせろ。一兵たりとも逃がすなよ」
俺は馬に跨ると、〈腐狼の陣〉の完成を待ち、〈葬獄〉、〈獄龍〉と共に走り出した。
〈獄龍〉はマルムの直下兵団の筈なのだが、奪い取ってきてしまった。
まぁ、かわりにベテルギウス・ゼイファードの近衛兵団を付けて来たからいいだろう。
ほんの数分後のことだ。俺は敵兵の装備を見て驚愕した。全員フルプレートで赤と白の鳳凰を書いたマーク。そして鮮血色に靡くマント。
見間違いようがない。血刃騎士団だ。大陸最強の騎士団と言われ、翆玲国に本拠を置くその総数は一万騎を超える大騎士団。何故こんなところに‥‥。
フーラン。そうか! フーラン家は代々翆玲国の騎士団を総括する役目を持っていた。そのツテで付いて来たか!
「当たるぞ! 精鋭だ! 気を付けろ!」
前衛は勢いと共に俺たちが優勢だが、そこで勢いが止まった。前衛を張るのは俺が手塩に掛けて育てた精鋭兵団〈葬獄〉だぞ。それが中に一歩も入り込めないとは。
「ガルド! 関節を狙え! 軍の関節だ!」
軍の関節。軍にはおよそ三種類の軍がある。戦う軍。戦う軍を補佐する軍。その他諜報や輸送を行う軍。戦う軍を補佐する軍を俺は軍の関節と呼ぶ。
戦う軍を補佐する軍は柔軟性や適応能力が高いという傾向がある。
その反面、一度砕かれると変わりが居なくなるという面がある。
するとその軍の関節を失ったただの軍はどれだけ強かろうと、ただの一小隊となり、各個撃破の対象となる。
効率的に、兵の損失を少なく戦うには軍の関節を狙うという戦い方があることはあまり大陸には知られていない。
〈葬獄〉と元〈葬獄〉の〈獄龍〉の戦い方として、俺が叩き込んだ戦術を駆使して戦う。
俺がイチイチ、アレを狙えなど言う必要がなく、各部隊長、小隊長が俺の意思を汲み取り、俺が望むように動く。
今回の場合もガルドに「軍の関節を狙え」という命令を出したとき、実際に動くのはガルドが直接率いる本隊よりもその更に下に就く小隊。
その小隊がガルドと俺の意思を理解し、攻撃を行う。
それ故に、近距離戦でこの二隊が負けることは万に一つとあり得ない!
一気に加速した。つまり、関節が砕かれたという事だ。
「ふーん。やるじゃん。俺達血刃騎士団の絶対防陣を砕くことが出来るとはね。でも、そのぐ運もここで潰える。ルラ・フーラン。よく覚えておくといいよ。君たちの英雄伝に終止符を打つ男の名さ」




