廿伍話 最初にそう教えてくれた
「シグルド様と共に十五年歩んできた俺だからこそ言えることを言ってやろう」
不意にアーフガードが言った。
「シグルド様は‥‥光龍の民ではないのだ」
「な、何!?」
「あまり見ないであろう。光龍国内で青髪銀目は」
「確かに‥‥」
言われてみればそうだ。光龍国内では黒髪黒目、茶髪茶目などが普通だ。青髪銀目は確かにシグルド様以外に見たことがない。
「あの方は遠い海の向こう北の島の方だ。それなのに、この大陸に来て光龍を選んだ。強大な他国ではなく、我らが光龍を‥‥光龍を選ばれた。それほどに忠国心、愛国心が高いお方だったのだ。それなのに‥‥このようなところで逝ってしまって‥‥」
「だからこそ、ここで炎獄軍を」
「「滅する」」
♦♦♦
「急報! シッ‥‥シグルド・ハーゲン将軍討ち死に! 相対していた敵将ヴァルゼン・ダル=グラオと相打ちで死亡したと!」
「シグルド東部指令が討ち死に‥‥。マズいですね」
「現在敵軍にヴァルゼン討ち死にの報もシグルド将軍討ち死にの報も伝えておらず、アーフガード将軍とザイフェ将軍が指揮を執り将無き炎獄軍を蹂躙していると!」
なるほど。あのシグルド将軍に一際忠を注いでいたあの二人が指揮を執っているのか。
おっと、俺の名前はガルド・ヴェインハート。リシュアン総司令配下の副官だ。
「報告! クロイザン将軍が夜間戦闘に備え八千の兵を他所に送ることが出来ると! 何所にしますか⁉」
「先ほど押し込まれたマルムのところがよいと思います」
「分かった。マルム殿の所にその八千を向かわせよ!」
「‥‥違う。今は‥‥稼ぎ時の旧シグルドの戦場に送れ。稼げるところで‥‥徹底的に稼がないとこの先の長期戦さえも危うくなる」
「リシュアン様!」
♦♦♦
「リシュアン様!」
アイリスが俺の名を呼んだ。
「マルムの所はほっとけ‥‥。‥‥アイツは何もせずとも‥‥自分で何とかする奴だ」
パチパチと松明が音を立てた。完全に日が沈んだ。
今日を総攻撃の日と定めたのなら夜明けまで戦闘が続いてもおかしい訳ではない。
他所に援軍を送ろうとしたクロイザン将軍は賢明な判断をしたと言える。
「寝ていて下さい! まだ体も直られていないでしょうに!」
「寝ていてばかりでは‥‥俺が‥‥この戦場に来た意味がない」
「しかしっ―――――」
「—————構わない。第八から第十一の予備中隊に伝令。旧シグルドの戦場へ向かい、シグルド残留軍を後押しせよと」
「第六から第十は‥‥南の戦場へ。第一から‥‥第五は東の戦場へ向かわ‥‥せろ」
各地に自由に扱える予備隊を送ることで攻撃力防御力を底上げする。
そして呼び中隊を動かすことが出来る権限を持つのは、その戦の総大将と副将の合計最大五名だけ。この戦いで俺は副将を置いていないため、他にはこう伝わる。「リシュアン・レオンハルトが起き上がり、指揮を執り始めた」と。
「俺は明日‥‥マルムの戦場に出向いてあそこから戦況を大きく塗り替える‥‥!」
「御自らなど危険すぎます!」
「危険なところにこそ上手い戦果はある。俺に兵法を教える時、最初にそう教えてくれたのは叔父上だったかな‥‥?」
♦♦♦
「なんとか、両城とも陥落させたな」
狼鋼と狼麟の両城をたった十二万で陥落させた俺を褒めてほしい。
あの人使いの荒い総司令を批判する声がもっと上がってほしい。冗談だが。
城壁の上に上がると多くに城が見えた。
「もう南都が見え始めたな。狼鋼とはこんな所だったのか」
見渡す限りの針葉樹林と野原。遠くに見える氷晶の旗を掲げた巨城。南都。
氷晶国の核に当たる五城の一つ南都。五城にはそれぞれ五王が住んでおり、五人の部族を代表する王が中央央都で評議会を開き政治を行う。そのうち一つ。過去百年間、つまり氷晶国が南都を盤石なものにした後、南都を攻めた者はいない。
文献に残る最新のものは百八年前。
そのとき現在の南都である雪璃城を氷晶国が光龍国より奪い取った戦いが現在最新の南都の戦い。
西都、央都は八十二年前。つまり第五人間暦四百四年。葉桜国の攻撃を受け両城は陥落し、葉桜国は一時的に氷晶国を支配下に置いた。
その後、住民や部族の反乱が相次ぎ、支配を諦めた葉桜国は二城を氷晶国に返還した。
当時の葉桜国は南都を首都としていた。その名残があり、現在も防備が固く、発展している。それが氷晶国第二都市と呼ばれる所以である。
「我らは一時的にこの城に留まり、リシュアン総司令に次の指令を仰ぐ事とする。全員休息だ!」
オオオオという大きな歓声が上がった。
そんなに休みたかったのか。お前ら。




