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廿肆話 アーフガード

「各所押されているか‥‥。開戦の勢いで一人将を消すことが出来ただけでそこから少しずつ押され始めたか」

 入る報告は討ち死に、敗北、撤退、後退やむなし、援軍求む。勝報は午後に入ってから一つたりとも入ってきていない。

「北部よりミナ・ハルシオン将軍が着くには後どれくらいかかる?」

「最低三日! 三日かかります!」

 三日。耐えられるか瀬戸際だな。リシュアン総司令もいない中、三日。

「急報急報! マルム様の戦場! 破られまして御座います!」

「シグルド将軍の隊壊滅! 敵が流れ込んできます!」

 マズい‥‥! このままではこの軍、三日と経たず崩壊する‥‥!


 ♦♦♦


「錐型もう維持できません! 左翼すでに決壊! なだれ込んで来た敵一万を越えます!」

「少し後退し、そこでもう一度軍整理し、陣形を組みなおす!」

「後退準備急げ!」

 兵を他に充てたことが間違いだったか。

「錐型完全に崩壊!」

「中央より左側完全に飲まれました!」

「ガルム様後退してきます!」

 正しい。他が破られた今、完全に挟撃、包囲殲滅を受ける前に離脱するべきだ。

「あれが指揮官だ! 殺せ!」

 もうここまで敵中隊が迫っている。走りながら戦うなら兵数差を見られ押し切られる。

「迎え撃つぞ!」

 俺は剣を引き抜くと敵兵の波に向かって突撃した。

 四方八方炎獄兵。見方を近くに配置していなかったらまさに四面楚歌の状況だった。

 本陣横に伏せてあったヘルフェの隊がなければ危ないところだった。

 リシュアンと違い、俺は圧倒的に個の武の面で劣る。

 この程度の敵なら少し手間がかかるが殺せるけど、精兵とかが来れば話はガラッと変わる。

 俺がメインで使う武器は片手剣。リシュアンは俺より個の武の面で優れてるからメイスとかハルバードが使えるけど、俺はそういうのの代わりに指揮能力と片手剣技術を伸ばしている。

 もともと俺、運動神経も良い方じゃないしな。王都育ちのせいなのか?

「ヘルフェ。こいつら止めて置いてくれるか? 俺はもう少し下がったところで陣を敷きなおす」

「承知しました。陣が完成する頃に本陣に向かいます」

「頼むぞ」

 ヘルフェ隊が作った穴を通り抜けるとまず見えたのは夕日。

 今日が終わってしまう。

 日を跨ぐと兵の士気も下がり明日以降の前線を持ち直しが極めて困難になる。そもそも、「昨日負けた相手に今日勝てる道理はない」という雰囲気が出来上がってしまう。

 それだけは避けないと‥‥。


 ♦♦♦


「シグルド様!」

「殿!」

「将軍!」

 各地からそんな声が聞こえてくる。まさかと、思いたい。そんな筈はない。

 俺自身も自分の目を疑った。

 シグルド様と敵将ヴァルゼンが相打ちで死んでいる。

 俺の名前はザイフェ・ルーン。シグルド様配下の将軍で今回は横陣の右端に据えられていた。

 伝令兵にとにかく本陣へ来てくださいと言われた来てみればこの有様だ。

「ザイフェ将軍! 来て頂き恐れ入る。シグルド様はもうこの世にいない。この戦場はもう維持することが出来ない。撤退する故、この軍の指揮を執ってほしいのだ」

「諦めないでください! アーフガード将軍! ここから立て直すしかないのです!」

「立て直す? 何を言っているんだ! シグルド様と共に副官のステール・ベーテンダー様や参謀も皆逝ってしまったのだぞ! 一体どうやって!?」

「幸か不幸かシグルド様と共にあのヴァルゼンも死んだ。しかも死んだのはこちらの陣の裏側。しかも、今残兵の総統作業を俺の配下にさせている。このままヴァルゼンが死んだことを敵に伝えないまま俺たちが指揮をし、戦を続ければ必ず相手に綻びが生まれる。そうして戦を続け、直ぐに弔い合戦を行う!」

「貴様、伝えなければ不信感が募り、敵が内部崩壊するとでも!?」

「ああそうだ! 今回の敵は幸いなことに連合軍。しかし正確な同盟ではないはずだ。精々利害一致の臨時同盟だ。そうすれば長期間戦えば補給線は間延びし、士気も下がりこちらに日が差す。そこに炎獄の第一将が死んだという話が加われば崩壊するのは必至! 翆玲軍は自発的に陣を払う! その後は翆玲の後押しが無くなった炎獄軍は後退する」

「まさか、一介の将軍でありながらそこまでの景色が見えているというのか‥‥」

「どこまでが他に見えているのかは俺には計り知れない。だが、これだけは言わせて貰う! ここに残りともに指揮を執り、シグルド様の遺志を継ぎ、ともにこの戦場を勝利に導いてくれ! アーフガード!」

「‥‥。主を失った悲しみは消えぬが、貴様の口車に乗ってやる。ここに留まり奴らが自発的に陣を払うまで耐えて耐えて耐え続けて見せようぞ!」

「‥‥感謝する」

 そう威勢をきったのはいいが、俺は日の沈み方を見て驚いた。もう、日が沈んでいる。

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