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拾玖話 戦いの幕

――――皆の者、配置につけ!」」


 ♦♦♦


 皆がここを去って行く。この本陣に帰って来れるかも定かではないのに。国の為に‥‥。

「武運を祈ります! 勝利の夜には皆で杯を酌み交わしましょう! ここに居る誰一人として欠けないことを願います。以上です。宜しくお願いします」

「ええ、情報によれば入っているのは炎獄五将。各方面の三人の総指揮官とリシュアン殿。あとは王でその頭蓋で酒を飲みましょうぞ!」

「シグルドの言う通りですね。奴らの墓前に我らの頸は添えさせません!」

「オオ! 誠その通りですな!」

「勝って次には()()の奪還を目指すのです!」

「ここが、我らの始まりです!」

 一気に士気が上がった。士気の爆発。上の者の士気が上がればそれだけ、兵としての全体の士気も上がる。ひいては軍全体の強さにも繋がる。

 机上にあるのは光龍全体を映した大きな軍略図。今現状、この国境線を維持することはとても難題。しでも、一部でも失う訳にはいかない。そこには光龍の民たちが、その民たちの暮らしがあるのだから。守らなければ。

「しっかし、叔父殿に安静にしているように見張っておけ、と言われましたが、元気そうで良かったですね」

「そうですね。軍政大臣の心配し過ぎだったやも知れませんね」

「いや、これでもから元気を頑張って維持してるんだよ。皆の前では変なこと出来ないし、倒れたら大将への不信感も強まる。だから、秘密にしておいてくれ。ガルド、アイリス」

 了解の返事を受け取ると、俺は再び軍略図に手を差し伸べ、新たに駒を置いた。北の城二つに。


 ♦♦♦


「霜淵、白氷の攻略目標は攻略出来ましたね。流石は北部軍総司令官英雄イオ・アストレイ様です」

「しかし、リシュアン総司令の姫君は見つからなかったようだ。そちらもそうだろう? 白氷方面軍ミナ・ハルシオン」

「間違いありませんね。となると、五都のどこかに連れ去られた可能性が一番高いですね」

「ああ、もう死んでいるとかは口が裂けても言えないからな」

 俺、イオ・アストレイは霜淵の城壁前に居た。既に城は陥落。リシュアン総司令より受けていた「二城を陥落せしめよ」という命令も達成できた。

「伝令! 伝令! リシュアン総司令より新たな指令が! ミナ・ハルシオンは今よりリューダに出向き、南での戦いに参戦せよとのこと! その時、自らの兵三万を連れて参れと!」

「続きまして、イオ・アストレイ様に報告! 中央のバルド・レオンハルト軍総司令代理より伝令! 残軍十二万を率い、次に南都手前の巨城狼鋼と姉妹都市狼麟を陥落させ、南都攻略への橋頭保とせよとのこと! 既にリシュアン総司令の許可は頂いていると!」

 ‥‥いつものリシュアン総司令じゃないな。普通は堅実に着実に前進、侵攻を繰り返す男の筈だ。この十二万であの巨城を二つ落とせるかは半分賭けだ。そんな博打いつものリシュアン総司令は出さないはずだ。なんだ? 何をそんなに焦る‥‥?

「‥‥他に何か言葉を預かってはおらんか?」

「いえ、申し訳ありませぬ」

「分かった。了解したと軍総司令代理と南のリューダに伝えろ」

 現実的に考えて、俺一人ではあの双城は攻略出来ない。二城を同時に攻めるのが得策だ。一つずつ攻めてはどちらかから迫る軍を相手させるのに総軍力の半数を扱うことになる。十二万の半分と言えば六万。六万で一つ落とせるかどうかも甚だ疑問が残る。


 ♦♦♦


「今年の税の最終的な結果は税の部分で三千二百万石。兵糧麦はその八十パーセントなので二千五百六十万石。加えて税金は十五兆金貨と二千五百銀貨でした」

「景気も大分回復したではないか。これで少し国庫に余裕ができるぞ」

「と、言いましても直ぐにリシュアン総司令に全て持って行かれるのがオチであろう? ダリオ」

「ヌハハ。バレておりましたか。国庫の扱いをもう少し楽にしていただきたいものですなぁ」

 王都の軍議の間は最近雰囲気が変わった。何か余裕や笑いが混じってきたようにも見える。それは良い事のなのだが、危うい。

「冗談もそのくらいにして、会議をお開きとしようか。定例朝廷文武合同会議を終了するものとする」


 ♦♦♦


「ムハハ。弱い弱い! このような者か⁉ シグルド・ハーゲン!」

「貴様のような強者は久方ぶりだ。故に戦い甲斐があるぞ! ヴァルゼン・ダル=グラオ!」

 グレイヴとグレートソードの打ち合い。乱戦の中、一騎打ちとも言えぬような一騎打ちが続いている。シグルド・ハーゲン本軍精鋭部隊七千と五将筆頭ヴァルゼン・ダル=グラオ奇襲部隊五千を中心に壮絶な戦いを続ける最大の戦場。


「第八から第九の戦士大隊に伝令。左翼裏に回り込め」

「左翼裏に回り込む大隊が二つある。第二騎兵分隊で阻止させて」

 川を挟んで四十里。王都の眠れる獅子バルバトス・パルヴァリン対炎獄の若き精鋭フリード・ダルマンの密林での戦場。


「盾壁を維持させて三百歩前進し停止。相手の出方を見ます」

「動いてきたが攻撃を仕掛ける気配はないな。〈鶴翼魚鱗の陣〉を敷け」

 その隣——七十五里離れた場所では防御対防御の完全膠着状態が続いている。将は王都軍師官クレイド・ヴォルティールと五将第二席堅守の統括者エルマーシャ・リンド=フォールン。


「父上、敵将エドガーの顔を拝みに行って参ります」

「こちらに向かう正体を発見! 旗印はフーラン家のものです!」

 戦場を横断するように連なる山脈を隔てた先では南東部前線が広がり、レン・フーランとルラ・フーランの親子と東部軍副指令エドガー・ドレイクの戦場。


「殺せ! 殺して殺して削り取れ!」

「愚か者が。左寄りリュレイ隊を突撃させよ」

 少し南によると王都の守護神クロイザン・カタルバス将軍と五将第四席狂気の突撃者リュミナ・ガル=フレイアが攻めと守りの最大被害が予想される俺にとっては頭抱える大事な戦地。


「用地を抑えた。変に前進する必要はない。全軍停止」

「奪え! あの山を奪い取り我らの勝ちを世に示せ! 守備はあの山なしでは何もできぬ!」

 南に向きを変え、南東部最南端の戦地で神の兄弟の片割れリヴァイル・グレンシアと翻弄と守衛の番人ゴルドン・フェル=グラナートの戦場は要所となる山をリヴァイルが抑え優勢。


「兄上に捧げる第一戦、負ける訳にはいかないんでね。悪いね」

「左翼から徹底的に叩け。我らの勝ちを確実なものにせよ」

 最後に南の戦場は東側が俺の弟マルムが率いる三万と至高の万能者セレスティア・ノール=ヴァリアの十万の絶望的な兵数差を抱える戦場。


「この最果ての地を崩されれば、他にも迷惑が掛かる。絶対に取らせるな!」

「最果てより猛攻を仕掛け、奴らの喉元に刃を突き付ける!」

 この広大な戦場を締めくくる最西端の神の兄弟のもう一人スルール・グレンシアと翆玲本土軍を一手に束ね上げるガリム・ベレッツィアの要地。


 この光龍東部と南部全ての国境が戦いに巻き込まれる後に翆獄戦役の戦いの幕は切って落とされた。

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