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拾陸話 マルム・レオンハルト

「お、俺‥‥?」

 俺の前にいる一般人。俺と瓜二つの顔。

「え、えぇ!?」

 向こうも驚いているようだ。そりゃそうだ。街歩いていたら自分のそっくりさんが歩いてきたら驚くよ。

「や、ヤバい。ど、ドッペルゲンガーに会っちゃった。どうしよ、どうしよ。俺まだ十七歳なのに!」

 十七歳。俺と同い年か。でも、それよりも、だ。

「な、なぁ、君、名前は?」

「マルム・リヴァイア。あんたは?」

「あんたとは酷いな。俺はリシュアン・レオンハルト」

「そ。俺は君と顔がほぼ同じ点について凄く不思議に思うけどね」

「私は不思議じゃないよ? マルム・レオンハルト」

「え、姉さん、それはどういう‥‥」

 俺の頭に浮かぶは驚愕の二文字だった。目の前の同年齢同姓で同じ顔の少年がレオンハルト‥‥。

「彼の名前はマルム・レオンハルト。リシュアンの双子の弟だよ」

「レオンハルトってあの悪名高——」

「記憶喪失。そういう事か。俺と変わんないな」

 コイツの言葉を遮っても言った。というか、これ以上一族の悪行や悪名を聞きたくない。多分、俺と生い立ちは変わらないのだろう。

「まぁ、いい。ちょっと来い」

「義姉さん、叔父上に内地南門に来いと伝えて」

「え、それはまさか‥‥」

「ああ、叔父上にどういう事か問いただす」

「う、うん」


 内地南門。

「叔父上、これは一体どういう事なのですか‥‥?」

 俺はひっ連れて来たマルムを指さして言った。

「なんだ? そいつは‥‥。と、言ってもお前は騙し通せないか」

「はぐらかさなくていいので教えていただけますか?」

「仕方がなかろう」

 叔父上はゆっくりと喋りだした。


 十年前、父上は反乱貴族になった。当然、反乱貴族に味方する者も少なく、敗戦。そこでせめて子供だけはと逃がされたのが俺とそこのマルム。

 俺は辺境地の村に。マルムは灯台下を突き、この王都に残り続けた。

 俺は辺境地の軍略で大会で優勝。こいつは何もなかった。

 だからマルム・リヴィアという名前を使っていた、という事らしい。


「叔父上は何故、俺にこのような事を教えて下さらなかったのですか?」

「いや、ふむ。お前の父上の遺言だよ。『もし自らが死んだら子達を会わせてはならぬ』と言われておったのでな」

「それにしても、リシュアン。不思議と元気が出たではないか」

「そうです‥‥か?」

「自覚せい。馬鹿者。まぁ、良かったのだろうの。血の繋がった兄弟がいて。ではこれで」

 叔父上は歩き出した。仕方がないか。無理を強いて来て貰ったのだから。

「じゃ、じゃあ、俺の双子の兄さんは‥‥我らが光龍国の軍総司令という事ですか⁉」

 口を閉ざしていたマルムが初めて口を開いた。

「ああ、そうだ。で、お前はどうするんだ? 俺はあんまりお前に会えないと思うぞ」

「なら、俺は、兄さんに付いて国の為に戦うか働くかする!」

「ふーん。ま、叔父上と話しておこうかな」

「戸籍からお前の家見つけとくから、何かあったら連絡しておく。が、俺の事あんまり他に言うんじゃないぞ。あと、お前偽名使い続けろよ」

「え、あ、ああ」

「ガルド、送り届けてやれ」

「承知!」

 なんだろうな。血の繋がった兄弟が居るとこんなに気が楽になるのか。


「リシュアン・レオンハルト入ります」

「おお、復活されたか」

「ええ、これより盤面を書き直します」

「フッ、では定例朝廷文武合同会議を始める」

「では、武官の自分から一つ。葉桜戦線はこのまま留め、北方に鎮座する氷晶を攻めます」

「氷晶‥‥。脇腹を狙うのか?」

「その通り。現在、我らに敗戦した氷晶軍の多くは壊滅。わずかに残った兵も葉桜の戦線に流され、現在こちらの前線に居るのは報告によれば五万。これに都から兵を出しても二十万には届かないでしょう。そこに我々はイオ殿を始めとする増強した北部軍七万と各地から終結させし、合計十九万で挑みます」

「なんと! そのような策が固まっていたのか!」

「ええ、寝ている間に考えました」

「では文官はどうか?」

「収穫も終わり現在分かっているだけでも収穫総量はおよそ九千万石。豊作ですな」

「そのうち税として見込めるのは三千万石となりましょう」

「次に政策ですが、小荷駄隊を配備する作戦的政策は可決致しました」


「リシュアン、北部の氷晶に攻め込むのは多少の他意が込められているだろ?」

 会議の後、部屋の外で王に言われた。

「無いと言ったら噓ですね」

「アリシアが氷晶に囚われているのは既に俺の方でも調べがついている。それを知るお前は‥‥」

「まあ、はい。アイツを奪還したいのは少なからず私情も混じってますね」

「それを咎める積もりはないが、無駄死にだけはさせてはならないからな」

「分かりました」

 王は背を向けて歩いて行った。

「叔父上、先程のマルムという男、国の為になにかで働きたいと申しておりました。一体如何すれば良いでしょうか?」

「お前とアイツは双子だろう。記憶喪失になる前、よく遊んでいたではないか。王に相談すればよい」

「‥‥分かりました」


 マルム・レオンハルト。分からないな。世の中は。

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