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拾参話 交渉の席

「領地の割譲が第一要求だけどどこか欲しいところある?」

「三国国境地帯の霊孟辺りが欲しいけど、引き出せる?」

 王宮軍議の間。俺はアリシアと今度の交渉の話を押していた。話し始めて三時間が経った。もう夜九時を回っている。

「霊孟‥‥考えとくよ。霊孟ってさ、うちが手に入れたらどんな利がある?」

「霊孟は氷晶、光龍、葉桜この三国の国境地帯にあり、灰嶺山脈に阻まれる道が通れるようにもなる交通の要衝。他にもその肥沃な大地や軍道整備が近年進んでいる、と言ったところでしょうか」

 後ろから声がした。王都軍師官グレイドだろう。書物の整理で今日は遅くなりますって言ってたけか。

「だったらさ、南の翆玲国境沿いのイポルタでも良いんじゃないか? と聞かれる場合はどう対応する?」

「南は強敵翆玲がおり、何時攻められるか分かったものではないから手に入れたところであまり利はない」

「そこまで対策してくれたら私が話せばいいね」

「あと要求することは軍事的支援だけど‥‥」

「これはあった方がいいけど無くてもいいから、引き出せそうであれば引き出してくれ」

「了解」

「グレイドは王宮武官視点から何かあるか?」

 俺は聞いてみた。人の視点は必要だと叔父上がこの前仰っていた。

「少々お待ちを‥‥。武器支援や資源支援でしょうか? 水軍の船を作るために使う材木や、武具を作るために使う金属——とくに鋼でしょうか?」

「なるほどな。アリシア出来るか?」

「任せといてっ」

「頼む」


 ♦♦♦


「報告です! 翆玲軍の正確な数が分かりました! 総数は三十六万! 加えて水軍が八百隻。数にしておよそ四十万! 国境より二十日の地点です!」

「王よ、我が武士団は招集に時は掛かれど、翆玲軍が到着するよりも早く展開できるでしょう。私が先日計算したところ、我々は二十一万を集結させることが出来るかと」

「りょ、了解した。ほ、鳳蓮、そろそろ交渉の日が迫っている。同盟を締結し、か、可能であれば防衛要請をしてこい」

「承知」


 ♦♦♦


 両国国境中間地。俺はアリシアや宰相と同じように交渉の席に着いた。

「さて、今日はよろしくお願いしますね。アリシア特使殿」

「いえいえ、こちらこそ。白蓮外交特使様」

 白蓮・皐月。葉桜一の外交官であり、裏世界の情報にも通じていると聞き及んでいる。

「単刀直入に。同盟を受けて頂けませんでしょうか?」

「こちらに利が有るのであらば」

「利とは何をお望みで?」

「一つ、霊孟の割譲。二つ、軍事的支援。三つ、資源的援助、です」

「霊孟城の割譲と軍事支援、資源援助ですか‥‥。霊孟城は城の規模としては中の下。ならば立地条件が似た南部の大都市であるイポルタ城ではどうでしょう?」

「否。イポルタは立地条件はほぼ同じであるが、南にはあの停戦さえも破る翆玲が控えているのです。それ故、北部霊孟を望みます」

「それはそれは、光龍国総司令リシュアン殿。失礼致しまして。して、アリシア特使。霊孟は割譲いたしますが、一方的な軍事支援要求とはこれ如何に?」

 あえて怒りの感情を前面に出してきたか。俺も「停戦さえも破る」で軽く煽ったし仕方がないか。

「あら、盟を受けよと詰め寄った方々にそれほど怒れる道理がありますか?」

「ありますわ。そちらの軍事支援に行かせる軍は我が自国民。それを無下に扱われるのは聊かどうかと思いますがどうなのでしょう?」

「無下に扱うと言った覚えはないが? 自分の予定では同等として扱う予定であったのですがな? それともそのように扱ってもよいという事として受け取っても宜しいですか?」

「私の失言でしたわ。お許しを、リシュアン総司令。では、こちらからも一つ要求を。相互軍事支援で宜しいでしょうか?」

「相互軍事支援ですか?」

「ええ、危機に陥ったときは互いに助け合う、それが良識と心得て思いますけどもどうお考えで?」

「では、自分の意見を申し上げても宜しいでしょうか?」

「どうぞ」

 俺は話し始めた。ここまでこの話が進展するとはアリシアは思っていなかっただろう。ここは俺が俺の意見を申すとしよう。

「相互軍事支援これは大賛成です。しかし、これに条件を一つ。兵数の指定は光龍が行う。どうですか? あ、勿論現実的な数を要求しますのでご安心を」

「‥‥この話は明日までに意見を纏めて再度ご提案いたします」

「そうですか‥‥。では最後の資源的援助は?」

「ここは私の領域故、私から話させて頂きます。我ら光龍は小国。資源は常に枯渇気味。そこで盟を結んだ暁に資源の援助をお願いしたく」

「此方も一方的ですこと。渡すのではなく、買い取るという形では如何でしょう?」

「少額で買い取ると?」

「ええ、その通りで御座いますわ」

「どう見ますか? アリシア特使」

「ええ、その条件は飲みましょう。では今日の話すことは以上でしょうか?」

「異存はありませんわ」

「では、本日はこれで」

 俺は席を立った。

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