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拾話 お門違いも甚だしい

「左翼から援軍要請! 第六戦士大隊を要請されています!」

「分かった。第六戦士大隊に左翼への出撃要請。加えて第一工兵団と第七重装戦士団を送れ」

「承知いたしました。第六戦士団と第一工兵団、第七重装戦士団に出撃命令だぁ!」

 開戦より七日。伏兵の位置は殆ど見破られ、既に第二線での平原戦に移行している。それも全軍で。公平を送ったのは更に後ろの第三戦の築城を行わせるためだ。

「急報! 急報! 中央軍に敵左翼より襲来し七千が突撃! エドガー東部副指令が深手を負われ、リシュアン様に中央の戦場の指揮を頼みたいと!」

「分かった! ガルドに伝えろ!」

 俺は馬に乗り込むと勢い任せに走り出した。本陣までその七千が届いたということは、完全に単なる奇襲じゃない。相当に計算され、防塵の弱いところを突き、精鋭兵を送り込んできた。そう考えるのが妥当だろう。

「あれか‥‥!」

 薄鈍色に輝く鎧、金の装飾が施されたクローズド・ヘルム。

「〈影狼〉か‥‥!」

 左翼に入る敵将プルリラ・シュバイン。正直なことを言って無名。全土に名前が響いていない。俺でさえもギリギリ名前を憶えているかくらい。それなのに、何故、このような大戦に招集されたのか。それはあの精鋭兵団〈影狼〉が影響している。

 〈影狼〉とは刺客の如く動き回る精兵団であり、プルリラの必殺の鉞。個々の戦闘能力はモチのロン。高度な集団戦法を狂いなく実行し、確実に狙いとする敵将にまで近づく。

「オイ! あれ、敵の総大将リシュアン・レオンハルトじゃねぇか⁉」

 チッ、気づかれたか。ぱっと見五百に満たないとはいえ、俺の直下兵団〈葬獄〉にも手に余るほどの精鋭だ。右側でエドガー将軍を逃がそうとしている部隊が居る。

「エドガー将軍の親衛隊や近衛兵はいるか⁉」

「ここに!」

「右側でエドガー将軍が孤立している! 脱出の援護を!」

「させるかぁ! 殺せ! エドガーの頸を取れ!」

 よし。〈影狼〉が少しだが付いて行った。

「俺は無駄な流血は望まない性分でね。一騎打ちでカタを付けようじゃんか。将は出て来な」

「一騎打ちなど‥‥」

 いつの間に追いついたのかガルドが言った。

「ガルド、安心していろ。俺のハルバードは?」

「ここにあります」

 俺は左手でハルバードを握る。右手に持ち替えると左手で手綱を握りながら前へ出た。

「ふーん、あんたが隊長?」

「そうだ。我が名はリヴァイアサ・グレンツ。貴様がリシュアン・レオンハルトか。ガキめ、後悔するがいい。この俺に勝負を挑んだことをなぁ!」

 奴の武器は白銀に輝くグレートソード。顔は見えないが恐らくは三十代といったところか。

 横に大振りの一閃。馬上で屈んで髪の毛が切れる感覚があった。大振りすぎるが故に体勢を崩した腹に一撃を入れようとするが次は頭上から迫る大剣に阻まれる。柄で受け止め、鍔迫り合いに持ち込む。

 火花が散る。大剣にかかる力が一層強くなる。

 急に鍔迫り合いから身を放すと次に迫る右肩口への袈裟斬り。弾き返す。

 左からの横振り。ハルバードで受けるが、馬から身を投げ出された。

「オオオオ! リヴァイアサ隊長万歳! リヴァイアサ隊長万歳!」

 外周を作っている氷晶兵の声が巻き上がった。

「負けるな! 我らも声をだせぇ! リシュアン総司令万歳!」

 ガルド、好援護だ。

 俺は斜め上にハルバードを振った。鋼鉄の鎧といえど、深々と斬り通した。落馬するリヴァイアサ。俺は体勢を崩した相手にトドメを刺そうとハルバードを構えた。

「貴様のようなガキに戦のなんたるかが分かる! 友を失い、敵を葬り、その戦の何が分かる! お前はただ、戦というものを輝かしいものと崇め『そこで死ぬならば本望』と言わんばかりに人を殺す! 俺の兄もお前に殺された! バルドル・グレンツ! お前も分かるだろう! そして―――――!」

「違う! 俺は‥‥ただ友の願いを叶えたいだけなんだ! お前こそ、アイツの何が分かる!? 言ってみろ! アレン・リシュホードのことを!」

「何?」

「アイツは出陣前にこう言った」


「俺は、この世から戦を無くすことをしたい。戦の無い世界を見てみたい」

「この世には戦による惨劇、悲劇、悲しみ、怒り‥‥そのような負があふれんばかりにある。それを無くし、皆が笑って暮らせるような世界にしたい。そのためにも、お前が必要なのだ」


「俺たちの王は、お前の兄のような人間を出さないために王位につき、俺をここに出陣させる許可をくださった!」

俺は続ける。

「そもそも、始めたのはお前たちじゃないか!」

「戦で人が死ぬのは普通だ! 殺し合いだからだ! それを殺した相手に『何をやってくれてんだ』というのはお門違いも甚だしい! 身近な人が死ぬのが怖いなら戦争に行かせるな!」

「お前はまだ誰も経験が無いからそのような戯言が言える! 退けぇ! 我が兄を失った怒りなど到底分る筈もない! まずは光龍の民を殺し、兄上の墓前に添えてやる!」

「そんなんじゃない! 俺だって幼少のころ、数々の親族、血縁者を失っている! だからこそ、俺はそのような人間をこの国内に生ませないためにココに居て、お前たちの邪魔をしている!」

「死ねぁ!」

「お前の兄と同じ地獄に送ってやるよ!」

 突っ込んでくる。ガラ空きの脇。脇にハルバードを差し込み、遠心力を使って一周、二周、三周。勢いをつけたところで振り下ろした。奴は体が真っ二つに割れた。

 絶命。生きていける筈もない。

「どうする? お前たちの親分は死んだぞ?」

 返り血が顔半分を覆うが関係ない。

「ひっ、退けぇ!」

「ぜっ、全体退けぇ!」

 退却‥‥か。

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