表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣の呪いで修羅となったので、最強を目指す。進化条件はセクハラ!?いいだろう。俺は胸を直視し手を伸ばす。  作者: 無印のカレー
落日の日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/62

4話 チュートリアルバトル

村は、静かに、しかし確実に滅びつつあった。


かつては豊かな大地だったその場所は、今や魔障の森と呼ばれ、黒い瘴気が包み込んでいる。

木々はねじれ、葉は黒く枯れ、空気は重く淀んでいた。


環境は激変した。

川は濁り、魚は姿を消し、作物は異形の形を成した。

魔物たちは増え続け、村の境界を押し広げるように跳梁跋扈していた。


村人の犠牲は増え、来訪者が途絶えて久しい。それは、森が街との交易路を断った事を意味している。


森は容赦なく、ゆっくりと村を包み込み、飲み込もうとしている。



聖なる木の根を中心に築かれたこの地には、結界が張られている。


レヴィは静かに感じていた。


(どれだけ剣を振り、どれだけ魔物を斬り倒しても、この森の瘴気は止まらない。)


村を覆い尽くす黒い影は、まるで意思を持っているかのように広がり続ける。


気づくのが遅すぎたのだろうか。

いや。偶然ではあるが、レヴィは狂ったように魔物を殺していた。状況はそれでもなお変わっていなかった。



「最近、魔物の気配が近い」

「森の奥で奇妙な声がする」


村人たちはざわつき、子どもたちは外で遊ばなくなり、家々には鍵がかけられ、夜が早く訪れるようになった。


魔物の数は増え、襲われて命を奪われる者も増えた。

無人となる家は増え、村人の数はさらに減りつつある。致命的なほどに。


墓の数が増えていく。


村が終わる予感が、実感となり、陰鬱した空気を形作っていた。



レヴィの活動に、特別変化はなかった。


森へ行き、魔物を殺す。心情は大きく変化していた。


一匹でも多く魔物をぶち殺し、村の犠牲を抑える。

魔剣の権能を使いこなし、とにかくぶち殺す。

理由は違えど、全く同じ活動をレヴィは続けた。むしろそれは増えていた。


村のことが、好きだった。


ばあちゃんがいる。仲のいい幼馴染や、顔なじみの村人がいる。村の子供達もいる。

そして──両親が愛した場所だ。


多少──若干、本当にほんの若干だが、乳に浮かれはしていたもの、かつて平和だったこの場所を、レヴィもまた愛していた。



森にゴブリンが出た噂を聞けば殺し、魔物が出れば切り払った。


終わりのないその作業をレヴィは黙々とこなした。



レヴィは歩く。そして剣を握る。しっとりと冷たい、不思議な手触りな剣を。



でもぶっちゃけ一番は、幻覚が見せる乳だった。


なんだかんだ言っても、幻覚が見せる乳がなければ、全てを放り出していた。


これこそが思春期。




そのときだった。


ドォォォォン……!!


遠くで爆発音が響いた。


村の方角。

鳥たちが騒ぎ、空気がざらつく。


火の粉が空へと上がり、黒煙が立ち上る。

爆発など、滅多に起きない。

火の魔術。あるいは巨大な何かが倒壊しない限りは。


ざわり、と呪いの剣が反応する。


レヴィは思う。

ばあちゃんの結界があったはずと。


聖なる木を中心に村を守る、由緒正しき封印の術。

強力な精霊の加護により、村の周囲には魔物の侵入を防ぐ、鉄壁の結界。


高台に上り確認すると、村の門のあたり。すでに一部の建物が炎に包まれている。瓦礫が散乱し、人々の叫びが空に響いてる。


レヴィの目が見開かれる。

「……入ってる。村の中に……もう……!」


巨大な何かが。




──オーガ。


文明の破壊者。欲望の権化。

村を滅ぼす魔の種族。巨躯、剛力、獣のような欲と、地響きと共に現れる恐怖の存在


そして何よりも、でかい。


怖気がするほどに。


村の北門――石造りの見張り台が、木っ端微塵に吹き飛んでいた。

爆音の正体はそれだった。


結界の残滓が村の周囲を漂う。

村へと走るレヴィは思わず村の戦力を思い浮かべた。


村人全員でかかってなんとかなるのか。

相手の戦力は村の結界をぶち壊すような化け物。

危機感が答えを告げる。


──村が終わる。




『ぐおおおおおおおおおッ!!』


怒声。耳を打つほどに大きい。何度も空気を裂く。

村人たちは、その暴力と死の象徴に、恐慌して逃げ惑う。


まともに戦える者はいない。

蜘蛛の子を散らすように逃げるしかない。


オーガか踏み出す一歩ごとに地が揺れ、畑が崩れ、腕が振るわれるたびに家の屋根が吹き飛んだ。


滅ぶ。


なすすべもなく。

蹂躙される。跡形もなく。


村の滅びが形を成している。

レヴィが村に駆けつける。そして──



ばあちゃんが、オーガの棍棒の餌食となっていた。


魔力障壁が破られた音が残酷に辺りに響く。

吹き飛ばされ、地に付し、倒れたまま動かない。


生死の確認はできない



オーガは、ばあちゃんの脇を抜けて、さらに村の中央を、目指す。

レヴィは。そこで初めてばあちゃんに駆け寄った。


「……レヴィかい?逃げな。」


血が、すごい。

死ぬ、死んでしまう。


「だ、だめだよばあちゃん。回復魔術を、自分に。」

「レヴィ。あんたは優しい子だ。村のためにいつも、頑張って……あたしも、みんなも感謝してるるよ。……ありがとうね。」

「自分の身を案じてよ。いいよ。俺のことは。」


「レヴィ。ノアを、頼んだよ。」



時間がない。

命がうしなわれてしまう。



手がない。



「レヴィ。逃げるんだ。だめだ。あんたまで失ったら、村は──」




殺意が、視界を塗りつぶす。


(このクソオーガが。絶対に潰す。)


最短かつ、最高効率で。


レヴィは立つ。

全力の権能でぶっ壊れても構わないと覚悟して


だが


(ばあちゃんが死んじまう。殺意ではだめだ。)


すでに検証を終えていた。殺意では呪いの剣の権能を十全に引き出せない。


呪いの剣は、取捨選択された思いの純度に応じて、能力の解放度合いが高まる性質がある。


彼はすでに選んでいた。選択を終えていたのだ。


乳だ。



どんな悲しい場面でも、どんな最悪な場面でも、彼はその想いを抱いて戦うしかない。


ばあちゃんが死にかけてる時ですら。


片方を取れば片方を選べない。それがその選択の、普遍的な法則だった。



レヴィは、最初の最初から乳しか追ってこなかった事を今初めて後悔した。



それが、本当の呪いなのかもなとレヴィは思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ