54話 剣の真実
セレネを圧倒する。
「見せてもらったよレヴィ君。君の真実を。」
戦場に漂っていた光は、やがて静まった。
瘴気も奔流も消え、荒廃した森の跡だけが残る。
瘴気も奔流も収まり、黒い霧が薄れていく。
大勢は決した――。
膝をつくセレネの瞳には驚きと尊敬、そして、わずかな安堵の色が混ざっていた。
「ここまでだ。私からシルフィリアがはじかれた。」
「ピンピンしてるだろ。まだやれそうだが……?」
「見たかったのは呪いの剣を用いる君の全てだ。そしてそれは見せてもらった。認めるよ。君は今代の所持者だ。」
レヴィは深呼吸する。
胸の奥にはまだ、乳への想いと、願いと、希望が揺蕩っている。
「というか……レヴィ君」
「なんだよ」
「暴れるシルフィリアと強引に契約して使役したから、シルフィリアがクソ切れてるんだ。助けて」
「助けてって……あの方に限ってそんなことあるわけ……」
レヴィは、途中で言葉は飲み込んだ。
レヴィの背後に彼女はすでにいた。見ずともわかる。
とてつもない魔力。まるで深海を覗き込んだような、果てのない威圧感。
風が吹きつけていた。強く、そして底冷えする風が。
「クソセレネ……よくも私をいいようにこき使ってくれたわね。」
「やだなあ、シルフィリア。呪いの剣の適正審査は、私達にとって重要事項のはずですよ。お互いにとって意味がある事だった。」
「死ね!!!!」
「のわああああーーーー……!!」
風が吹き荒れる。そして声が聞こえてきた。
──レヴィ君。いずれ私がその剣を手に入れる。それまで大事にとっておけーー!!
シルフィリアの風に、セレネは吹っ飛ばされた。
「いや、あの……シルフィリア様。セレネ先輩、あんなこと言ってますけど」
「彼女の悪ノリだから。変な事やってきたら相談して。」
「は、はあ……。」
シルフィリアはレヴィに向き直す。
「君にも言いたい事があるんだ。」
「なんでしょうか。」
「……助かったけど……助かったんだけど……何よあれ!?ねえ、呪いの剣を使って何をしてくれちゃってるのかな!!??剣士くん!!??」
シルフィリアが指さした先には、今だ巨大なパイオツが揺らめいていた。
レヴィは頷く。
「すいません……シルフィリア様。」
「そうよね。わかればいいのよ……はっちゃけすぎなのよ……」
「乳の造形が甘かったですよね。くっ……シルフィリア様にお見せするには、あまりに稚拙すぎました。」
(そうじゃない。そうじゃないのよー!!)
「剣士くん。君は願った。呪いを制御し、抑える力が欲しい。そして生まれたのが、狼であり、その女性だ」
シルフィリアは言った。
セレネは風でぶっ飛ばされた後、魔物から逃げている所を回収されていた。
今は焚火のすぐそばで正座させられている。
「すいません。シルフィリア。足が痛いです。」
「あなたはしばらくそうしてなさい。」
「えー。」
「えーじゃない。言っとくけど、あなたがめちゃくちゃにした森、どうにかするまでは、何にもさせる気ないから」
セレネはひくついた。
観念した様子で、セレネは呪いの剣のルーツについて話始めた。
「呪いの剣について話すには、ネクシアについて話さねばならない。」
「ネクシア?」
「雑に言えば、空中都市だね。1000年前に浮かんでいたんだ。」
「空……どうやって行くんだ?」
「そりゃ飛んでく。空の上にあるから。ネクシアは空にあった。地上のどんな王国も真似できぬ魔導と技術の結晶だった。重力制御、空間転移、大気精製……かつては、空の王都とまで呼ばれていた。」
ネクシアは、より効率的な支配と管理のための仕組みを作り上げており、その要となるのが、想いの力を効率的に、事象へと変える兵装だった。
呪いの剣は、その仕組みをルーツとして作られた。
「想いの力……」
「想いは、つまり、願いでもあった。でも、それは呪いでもある。レヴィ君ならわかるでしょ?」
「願いは呪いとなることもある。逆に呪いが願いになることも。」
「そうだね。呪いの剣は、事象を傾ける。人間である未来を奪うことで、人間から化け物にその身を変えることもできる。レヴィ君もそこまでは経験してる。それは禁忌の力だ。今もなお、それは広まっている。1000年、経っていても、なお。」
「なあ、怖いんたけど。世界が今も壊れかけてるってことだろ?」
「どうかな。やばそうだけどね。シルフィリアも、必死に何とかしようとしてる。」
「なら呪いの剣ってなんなんだ?」
「古代都市ネクシアは、呪いに呑まれたんだ。君のように呪いに呑まれた者が原因で。その呪いに呑まれた悪魔を殺す為に作られたのが、その剣。」
「あぶねーだろ。マジで。この剣。」
「まあ、誰でも使えるようなものじゃないんだ。剣は、世界を滅ぼす力を持つ。比喩でもなんでもなく、事実として、君は歩き抜く必要がある。」
レヴィはふと聞いた。
「1000年前に、その呑まれた悪魔は破壊できたんだろ?」
「いや?」
「……」
「命をかけたんだけどねえ……封印が精一杯だったっぽいね。」
「封印……」
ここまで説明されれば、嫌でもレヴィは理解していた。
自分は呪いの剣を所持しており、1000年前の悪魔はまだ存在している。
あるいは倒せ。
あるいは別の選択を示せ。
あるいは剣をおけ。
選択を、求められていたのだ。
シルフィリアは頑なにレヴィから剣を取り上げようとした。
セレネは、レヴィの剣の適性を、強い負荷をかけて見極めようとした。
剣の先にその悪魔がいることを、わかっていたからだ。
「レヴィ君。時間はまだある。君は決めなければならない。剣の中から私はみていた。世界は、君を愛さなかった。過酷な運命ばかりを君に押し付けた。」
風でたなびく髪を抑えて、セレネは言った。
レヴィが幾度となく、幾千と幻覚で見た顔と、全く同じ目をして。
「君は、真実を見つけなければならない。」
「……今、気づきましたよ。シルフィリア様、俺は、ようやく。……呪いの剣は、パイオツを視聴するための装置じゃない。所持者を試しているんだ。」
「え、剣士くん、今更!?今更なの!?!?そんな風に呪いの剣の事を思ってたの!?う、嘘でしょ!!??」




