50話 シルフィリア森で悩む
夜。
野営の為の火を灯す。
「すいません。シルフィリア様。寝床つくりまで手伝ってもらって」
「いいのよ。呪いの剣を捨ててくれるなら、なおいいけど。寒い?」
「いえ。大丈夫です。」
シルフィリアは、あれからレヴィに、手を変え品を変え、呪いの剣を置くよう勧めていた。
全部綺麗にスルーされていた。
(おっぱいが絡むと、急にサイコパスになるのよね。剣士くん。)
「さすがは呪いの剣の所持者……いい感じに狂ってる……」
「何か言いました?」
「いえ。何も。」
シルフィリアは言った。
「ねえ、もうごちゃごちゃ言わずに私の胸で満足しなさいよ。剣士くん。」
「シ、シルフィリア様。とうとう、隠さなくなりましたね。」
「君が悪い。」
「そ、そうですかね?」
「圧倒的に、完璧なまでに君が悪い。」
「もしかして、拗ねてます?」
「……拗ねてません。」
いつになくシルフィリアが頑なだった。
レヴィは考える。
(パイオツは前提。だが、大事なのは、パイオツへの渇望の種類。)
答えは出ている。
美しいパイオツはいいものだ。そんなのは分かりきっている。
シルフィリアのパイオツを超えるパイオツは、今後、レヴィは出会えまい。
(だが違う。)
守りたいと思うか否か。そこに焦がれるか否かだ。
その胸を前にして、レヴィ自身が絶望を越えてしまうほど、救われたかどうかだ。
「パイオツは見えているものだけが全てじゃありません。それが真実です。」
「そ、そう。いいの?本当に。もう、二度とないと思うけど」
「真実は偽れません。あなたが教えてくれたことです」
「そっかー……私のせいなのかー……」
シルフィリアは空を見上げた。
シルフィリアは項垂れるように、観念した。
(え。私のせいなの?)
「あの。どこかいくんですか?」
「ちょっと泣いてくる。探さないでね。探しにきたら逃げるから。自分の過ちを見つめ直してくる。」
「森が暗いんで、気をつけてくださいね。」
「君が言うな。元凶。」
(パイオツなんて見えているものが全部じゃん!?!?違うの!?私がおかしいの!?!?)
シルフィリアは森で、体育座りになって、1人になっていた。
「テコでも動かないぞ、剣士くん。ネタが切れた。どうしよう。もう交渉のカードはない。」
(パイオツに執着する男への交渉ネタなんて、一個しかない。そして断られた。)
諦めていいのか。
大いなる運命に翻弄される事が分かってるのに、年端も行かない少年に、呪いの剣を委ねていいのか。
だがシルフィリアは思った。
これ以上、エッチな事になったら、多分全部吹っ飛ばす。
「君は……剣士君と一緒にいた、わんちゃん。」
狼が茂みから現れた。
シルフィリアは、狼の首元をさする。
「このワンちゃん。やっぱりそうだ。剣の所持者の誰か、……セレネかな?多分。」
狼は、底知れない光を讃えた目でシルフィリアを見ていた。
「ん?」
狼が瘴気を発し始め、魔瘴の森の瘴気を喰らうように取り込んでいく。
闇が、人の形を成していた。
黒き人形は、不意に動いた。
その無表情な顔がシルフィリアを見据え、冷たい黒の手が一気に伸びる。
「――ッ!」
瞬間、呪いの力を纏った闇が蠢き、シルフィリアを取り込んだ。。
黒い瘴気が吹き上がる。
シルフィリアの声は凍りつき、顔が歪む。
しかし、黒き人形は微動だにせず、ただ深く深く闇の抱擁を続ける。
「……ようやく……戻れました……」
漆黒の“黒い何か”が激しくうねる。
それはまるで、蛹が蝶になるように。
「ぐ……あっ……!」
シルフィリアは苦痛に顔を歪めながら、そして闇に消えた。
「■■■■───!!!!」
黒い人型は咆哮をあげる。
世界にその存在を刻みつけるように。
闇の中にシルフィリアが立っていた。
体は動かない。完全に拘束されている。
呪いは強い破魔の力を持つ。呪いの海の中にいればいくら大精霊とて身動きは取れない。
「セレネね……。」
「ご明察です。シルフィリア。」
シルフィリアの前に1人の女性が姿を現した。
「いきなりのご挨拶ね。私の怒りに触れたいの?」
「呪いで動けないですよね。契約が切れているので、再契約をお願いします。」
「拒否するわ。」
「へえ……別にいいですよ。勝手に使うんで。」
呪いがシルフィリアに侵食する感覚があった。
力が吸い取られていく。
「……やめなさい。怒るわよ本当に。」
「無理ですね。あなたは優しすぎる。剣の中から、そして狼になって見ていた。昔と同じです。呪いの剣の所持者に対して、あなたは甘すぎます。」
「何をする気?」
「レヴィ君を見定めます。そしてふさわしくないなら、私が呪いの剣を使います。」
「ねえ。セレネ。今代の呪いの剣の所持者は、彼だ。君じゃない。」
シルフィリアは穏やかに、しかし確固たる声で続けた。
「君は死んだんだ。」
「レヴィ君は、ノアちゃんを切ってしまい、呪いの剣の制御を願った。そしてその制御補助装置として狼を作り出した。その狼の権限を私が掌握したんですよ。さっき。」
「セレネの魂が呪いの剣を中にあったのは知ってる。なぜ、わざわざ出てきたのよ。」
「なぜ出てきたって、お言葉ですね。久しぶりに話せたのに。」
「セレネ。質問に答えるんだ。」
「乳への想いで、剣を制御?ふざけてるんですか?」
「事実、剣士くんは胸への想いで呪いを制御している。」
「シルフィリア、わかっていますよね。呪いの剣はあんなもんじゃない。あんなものは制御とは呼ばない。」
「わかってる。だから私は!!」
「色仕掛けで、呪いの剣を手放す同意を取ろうとしたと?」
「いや、あの、それはー……。」
「見てて笑えましたけどね。」
「い、いけると思ったんだもん。」
「剣の所持者、舐めすぎですよ。シルフィリア。」
「いや、まああの、剣士くん、理由が特殊で関わり方がいまいち……」
「あの剣は世界を滅ぼしかねない。その剣を処分できずに私は死んだ。私の最大の失敗です。それを終えて、私はようやく、やり残しを終えられる。」
「君がやり残した事は、次の所持者に任せればいい。」
「何年経ちました?あれから。100年ですか?200年ですか?あなたは甘すぎます。シルフィリア。なぜ剣が存在しているんですか?」
「セレネ。余計なお世話なんだ!!!」
「シルフィリア。そっくりそのまま、そのお言葉、お返しますね!!!」
シルフィリアは、呪いに封じられながらも力を集めていた。
風を解放する。
「気づいてますよ。甘いです。」
セレネは剣を振り払う。
黒い魔力の奔流が、シルフィリアを洗った。
「こ……の……クソセレネ……。」
「あ……ちゃっとやりすぎたかな。でもちょうど良かった。再契約済ませましょうか。」
「……あなた……覚えてなさいよ……」
「てへ」
(てへじゃねーよ。)
まずい。剣士くん、殺される。
(誰が止めないとまずい。この化け物を。)
ほどなくして、レヴィは起きた。




