48話 シルフィリア仕事
少ししてレヴィ達は地上に降りた。
狼が寄ってくる。
レヴィに飛びつくと尻尾を振っていた。
(どうやら、心配かけちまったみたいだな……念入りに毛づくろいしてやろう。)
狼をわしゃわしゃしていると、シルフィリアが声を掛けてきた。
「剣士くん、連れまわして悪かったね。」
「いえ。シルフィリア様。ありがとうございました。もみくちゃにされて、逆に気が晴れました。」
「だけど、もう一個だけ大事な課題があって。」
「なんでしょうか。」
地味に課題が多いなとレヴィは思った。
そしてシルフィリアは、言いづらそうに、それを言った。
「もう一回、空に浮かせて、君を湖にぶちこむ」
「なんでですか?」
「やっぱ臭いや。剣士くん。しばらくお風呂入ってなかったでしょ。」
「……」
湖にぶち込まれた
その後シルフィリアに手を引かれて、レヴィは湖から上がった。
狼は体を振って水を落としている。
「寒いっす」
服は事前に脱いでいた。
控え目にいってそちらもボロボロだった。
いずれ何とかしないとなるまい。
その下着だけのレヴィを、シルフィリアは温風の魔術で温める。
「あの……恥ずかしいんで、服着ていいですか?」
「乾いたらね。恥ずかしいのはわかったから、もうちょっとこのままじっとしてなさい。ほら、私も座るから、そっち寄る。」
シルフィリアはレヴィの隣に座ると言った。
温風のせいもあるが、妙に体温を感じるほどに近い。
「落ち着いた?」
「はい。ありがとうございました。あと、ちょっと近いんで、別の意味でやばいです。」
「……」
沈黙。シルフィリアからの返答がない。
違和感を感じたレヴィは、隣に座るシルフィリアを見る。
思った以上に顔が近い。そしてぞっとするような美しさだった。
シルフィリアは、レヴィを真剣な目で見ていた。
「剣士くん。君の真実は胸だ。」
「……そうですね。」
「だけどそれは、呪いの剣の中の幻覚でなければだめなのかな。」
シルフィリアがさらに近寄ってくる。
魅入られたように、レヴィは動く事ができない。
「わざわざ呪いの剣を使って、幻覚なんて見なくても良かったんじゃないかな?
なんなら。ノアちゃんの胸や、私の胸でも良かったと思わない?」
「し、シルフィリア様。だから、近いです。」
「君は1番馬鹿な方法をした」
シルフィリアは静かに責めていた。
レヴィが。なぜやすやすと真実を見失ったのか。
なぜ、みすみす呪いに飲まれたのか。
「君はただ続ければ良かった。
ノアちゃんと話して、ノアちゃんの必要なものを見つけて、君はそれに寄り添えば良かった。好きなら好きって、なんで言わなかったんだ」
「俺は呪いで死ぬと思ってた。ノアの時間と、俺の時間は重ならない。そう思った」
「言い訳だよ。剣士くん。」
「その通りです」
レヴィは言った。
「全部言い訳です。俺が、俺が間違えたんだ。」
「そうだね。剣がある限り、君はきっと間違い続ける。」
「……」
「剣を置くんだ。剣士くん。そして、剣のない、普通の時間に戻った方がいい。見てられない。そのうち死ぬよ。君。」
その提案は真剣だった。
シルフィリアは精霊としての導きを、選択としてレヴィに提示していた。
「すいません。つまり剣を……」
「私に差し出す。だって、剣がなくてもノアちゃんに贖罪はできる。そしてそれを選んだのなら、呪いの剣の事は忘れる。約束して。私に。今。この瞬間に。」
レヴィは悟った。
(頷けば、終わる。ここで頷けば、呪いの剣にまつわる全ては、終わる。本当に終わるだろう。)
呪いの剣の運命などではなく、人としての、当たり前の人生を、精一杯歩むことができる。
ノアに誠意を見せる事も許されるはずだ。
(そして、シルフィリア様も、それを望んでいる。)
レヴィの目に映るシルフィリアの瞳は、不安げに揺れていた。
(どれだけ……この方はどれだけ……)
誠意を尽くしてくれるのか。
思わず、レヴィは目に熱いものがこみ上げた。
偽れない。
この方の前では偽ってはいけない。
「……く。涙が……あなたの想い、確かに受け取りました。」
「そう。なら決まりね。剣を渡してもらえる?」
シルフィリアは手を差し出した。
そして彼女は思う。これで一つの大きな使命が終わる。節目となるだろう。
(あれ?剣が来ない。)
一切の揺らぎなく、レヴィはそれを言い切った。
「あなたの想い。確かに受けとりました!!俺は真実を掴んで見せます!!俺の真実、すなわち胸を!!」
「……」
シルフィリアは頬がひくついた。
シルフィリアは、息をまいてそれを言い切るレヴィを見て思った。
(そうじゃないのよー剣士くんー!!)
狼は興味を失ったのか、蝶々を目で追っていた。
道は示されていた。
決して楽な道ではない。
たけど、歩き続けた先に、救いに確かに繋がる道を。
後日
呪いの剣が瘴気を放ち始めた。
呪いが復活した。




