47話 導き2
ノア。
呪いに飲まれ、自分の手で――自分の手で殺したはずの、幼馴染の名。
「嘘だ」
「私は嘘はつかない。それにその事実から逃げられないように、空まで連れてきた。落ちれば死ぬからね?浮遊魔術は、私から距離が離れれば消失するよ。」
顔をあげると、すぐ目の前にはレヴィを抱き留めるシルフィリアの姿があった。
そのシルフィリアの真剣さに、レヴィは思わずひるむ。
感情的になってしまっているだけの自分とは違う、確信の光がそこにはあった。
「……シルフィリア様……そういうのはいいんです。……いいんだ。ホントに……俺は覚えてる。ノアを切り殺した感触だって残ってる。あれは致命傷だった。」
「でも、生きてる」
「ノアは死んだ!!!!」
レヴィは叫んでいた。
それだけは、その事実の認識を曲げる事だけは我慢ができなかった。
「俺が殺した!!!!慰めはいい!!いいんだ!!!!ノアは死んだんだ!!!!」
「まあ、聞きなよ。聞くんだ。」
溜息をつくようにシルフィリアは言った。
「罪は罪なんだけど──でも。こんな事も把握できないようじゃ話は終わるけど、どうする?送るよ。地上まで」
レヴィは肩で息をしていた。
返答は言えなかった。
「…………」
「少し、飛ぶよ。」
「……」
二人はゆっくりと空を飛んだ。
雲海をこえたり、地上付近をゆっくりと飛んだり、森の光景を見下ろす。
高度を落とした時、狼がこちらを見上げ、吠えているのが見えた。
それなりに長い時間だったが、レヴィは話さなかった。
シルフィリアも何も喋らず、ただレヴィを後ろから抱くようにして、飛んでいた。
(シルフィリア様は、自在に空を飛び、様々な事を見通す。だから、俺にこの光景を見せた。あらゆる反論を封じて、その事実を突きつけるために……)
「そうだね。」
「あの、心読まないでもらえますか。」
「これでも精霊だからね。人が死んでるか生きてるかくらいは、わかるんだ。思考もね。」
「そう、なんですね……」
「そうだね。」
レヴィは、ただその言葉を繰り返した。
喉の奥の声はかすれていた。
涙が、こぼれた。
とめどなく。
頬を伝って落ちていく。
「ノアが、生きてるのか……」
認めねば、ならない。
世界の理の一部を引き受けるほどの精霊が、ここまで、気遣いを尽くして、伝えようとしてくれている事実を。
(この優しすぎる導きに、気づけない方が罪だ。)
涙が流れていた。胸が刺すように熱い。
レヴィは、ノアを思う。
彼女への愛しさは、今も変わらず胸にあった。
ふとシルフィリアが言った。
「剣士くん。まだ死にたいって思ってる?まだ死ねば、全て許されるって思ってるのかい?」
「いえ」
「それは重畳。」
レヴィは涙の止まらない。
そして思う。
何回、何度、みっともなく泣くんだろか。
(ノアが、生きてる。)
ついさっきまでは、死んでも良かった。
でも今は、こんなにも生きたい。
胸のうちに広がるそれは、確かなものになりつつあった。
崖から飛び降りて、狼から与えられたもの。
シルフィリアから、労いを通して伝えられたもの。
レヴィ一人ではきっと、あっけなく絶やしてしまっていたその光。
「ありがとう……ございます……シルフィリア様。」
「生きようって思えた?」
「はい。」
「良かったよ。生き抜いて、それを返してね。剣士くん。」
「……はい。」
(ノアに、会いたい。)




