表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣の呪いで修羅となったので、最強を目指す。進化条件はセクハラ!?いいだろう。俺は胸を直視し手を伸ばす。  作者: 無印のカレー
落日の日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/62

序章 蛇足

レヴィの悲しみは、焦がれと揺めきに変わっていた。


レヴィの悲しみが深まれば深まるほど、パイオツはレヴィの胸をついた。


それは、ただの揺めきであり、しかも幻覚の、つまり実在しない2つの揺めき。


パイオツは、だが確かに変わらぬ姿で揺らめく。


ただ、それだけだった。


(だけど。)


本当に、たったそれだけの事。


本当にそれは、たったそれだけの事に過ぎなかった。


レヴィに対して、何かするわけでもない。

幻影の中で、ただただそれは、揺れているだけ。


でもそこにある焦がれは、確かにレヴィを前に急き立てる。



今なお追い求める。

そこにしか答えはないから。


両親を失って、世界が崩れるような喪失の中でも。


その救いが、自分の未来を切り裂く悲劇へと導いたとしても。


そして生きる上で、それらの行為は一切必要ないとしても。


今まさに、呪いの奔流が、自分の全てを刈り取ろうとしていても、なお。


変わらぬ美しさだけを、レヴィの目に突きつけ続ける。痛いくらいの熱とともに。


胸を。


それが、レヴィが見つけた絶望の中の真実。


それが、パイオツ。



葉の隙間から差し込む、わずかな光。

青い。

こんなにも、青かっただろうか。


(空が、見える……。)


レヴィは立ち止まり、

深く息を吸った。


風が通り抜け、木々のざわめきが、まるで歌のように聴こえてくる。


ひどく当たり前の事をわすれていた。


いつも下を向いていた。

血濡れた地面。

倒れた魔物。

そして、自分の足跡だけを追い続けていた。


失ったものを求めて。

あるいは、失ったものを埋められる何かを求めて。


ずっと。


本当にずっと。


(――呪いの剣がなければ、空が見える。)


レヴィは気づいた。

この剣を握ってから、空を、見上げたことなど、なかった。


「……空、見えるんだな」


剣は、静かに脈動した。


まるで、抗うように。

空は遠ざかり、

闇と幻覚が戻る。



空を見ることが好きだった。

――そういえば。


(俺、よく小さな丘の上で、ただ寝転がって空を見ていたんだ。)


意味もなく、ただそれだけで――

満たされていた。


雲が――パイオツの形に見えた。


雲は雲だ。だけど意味は、自分が与えた。


それは、丸く、ふくらみ、やわらかそうに浮かぶ。

それは、双丘の乳房。空に揺れる神の造形。


(そうか……パイオツはそこにあるのか。幻覚を見なくても。)


幻覚は、現実を再構成したものだ。

現実にあるから、パイオツは幻覚の中にもあるのだ。


幻覚の中にしかパイオツがないと思う方がおかしい。


そりゃそうだ。



そしてレヴィは、ふと思った。


「……そうか。両親が、死んだのか」


それは失えば、もう二度と戻らない。

空いた心の喪失が埋まる事もない。

埋められるものもない。


ぽつりと落ちたその言葉は、

あまりに自然で、

だからこそ、レヴィがそれまでに一度も、心から言えなかった真実だった。


わかっていたはずだった。

森が村を覆いはじめ、魔物の群れに追われ、そして自分を守るために、両親はその群れに飲み込まれた。


でも、はっきりとわかった。


――もう、いないんだ。


(こんな事にも気づいていなかった。)


喉がつまり、胸の奥が、ぐっと締め付けられた。


「……ごめん」


誰に向けたのかもわからぬ言葉が、風に消えた。




「それでも、それでも俺は乳を追うだろう。」


レヴィは、静かな森の中で呟いた。

その声は震え、切実で、まるで自分自身に言い聞かせるようだった。


「――あの、果てしのない、2つの膨らみを。」


剣を振るうたびに脳裏に炸裂した、凶暴で甘美な幻覚がレヴィを支えていたのも、また事実なのだから。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ