表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣の呪いで修羅となったので、最強を目指す。進化条件はセクハラ!?いいだろう。俺は胸を直視し手を伸ばす。  作者: 無印のカレー
転章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/62

44話 狼

川のせせらぎが、静かに耳をくすぐった。


頬を撫でる風は冷たく、湿った土の匂いが鼻をついた。


レヴィの視界には、青空と木々の緑、それから流れる川の輝きが広がっていた。



呼吸音も響く。息はできている。

頭が痛い。


(流されてきたのか……よく生きてたな。)


「……ここは、どこだ?……いっ……」


立ち上がろうとして、レヴィは全身のだるさと痛みに顔をしかめた。

動けない、というか動かない。


痛みが引き金となり、朧げながら思い出してくる。曖昧だった記憶が鮮明となり、なぜここにいるのか、自分が誰なのか、霧が晴れたようにはっきりしてくる。


(ごめんなノア……ごめん)


全てを終えてしまっていた。

ノアは死に、レヴィは生き残った。


呪いの剣に誘われるようにレヴィは破滅への道をひた歩いた。


レヴィは泣いていた。


弱くて、愚かで、壊れて、自分を罰しようと崖から身を投げて、それでも、生きているから。


生き汚く、生き残っているから。


贖罪に殉じて、詫びなければならないはずなのに。


(死ねよ、ちゃんと。)

それすらできないのか


呪いの剣の運命は、ノアのところに行くことすら、許さないというのか。





その時、草むらがわずかに揺れた。


風の音にまぎれて、低く喉を鳴らすような呼吸。そして姿を現したのは一匹の狼。


痩せていた。


目の奥に強い獣の光。

それも、強い飢えが宿っている。


息は荒い。


レヴィは顔を上げた。

ただその姿を見つめた。


「……そうか。終わりか。」


自分にふさわしい末路だと思った。



狼はじっと、レヴィを見下ろしていた。


狼は一つ低く唸り、鼻先で少年の傷を嗅ぐ。

ぬるりとした感触が、頬を伝った。


その仕草には優しさが、その目には、なぜか哀しみのような色があった。


――牙が来ない。


(なぜ、殺さない……?)


「……なん、で……」


声は震えていた。   


生きている事。死ななかった事。狼の慰め。

みっともない自分。

脳裏に浮かぶノアの姿。


全てがぐちゃぐちゃになっていた。




狼は静かに寄り添う。


肯定も否定もしない。


レヴィが動けずにいるあいだ、狼は何度も森へと足を運び、口にくわえては、小さな果実や、噛みちぎられた肉片を運んできた。


ときには川に前脚を突っ込み、魚を取ろうとして水飛沫を浴びることもあった。


レヴィは、ただそれを見ていた。

言葉も返せず、体も動かせず。


そしてレヴィが泣くと、狼は涙を舌で拭った。





レヴィの足は、まだ不安定だった。

それでも、確かに動いた。


動けるなら、歩かなければならない。


(何処へ?)


川辺の冷たい風が頬を撫でる。

傷はまだ深く、肉が引き裂かれた痛みが体中に響いていた。

普通ならもう動けるはずがない傷だった。


そしてレヴィはまるで奇跡のように、その一歩一歩を踏みしめた。







ある夜、満天の星空の下で、ぽつりと呟いた。


「……ありがとう。」


そのレヴィの言葉に、狼は何も言わなかった。


ただ、静かに尻尾を揺らし、鼻を鳴らした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ