間章 ノア
夜――
静寂に包まれた草原の上、
医療用の施設から抜け出し、ノアはぼんやりと星の瞬きを見上げていた。
胸に幾重にも巻かれた包帯。
肩が上下しており息も切れていた。
「……レヴィ」
彼の名前を呼ぶ。そのたびに、喉が詰まり、こみ上げる涙が止まらない。
ノアは生きていた。
わずかに間に合った結界魔術が呪いの剣の一撃を緩和したのか、
それとも無意識でレヴィがその一撃を手加減していたのかはわからない。
王宮魔術師達はノアを治療し、そして彼女は生き残った。
想うたびに、涙が頬を伝った。
「……馬鹿。死んじゃだめ……あんたが、生きててくれなきゃ、意味ないのに……」
夜空に、一筋の光が流れる。
流れ星だった。
ノアは祈った。
ノアは両手を握り、
必死に願いを込めた。
それが叶うのかわからなかった。
願う資格があるのかもわからなかった。
実際のところ、自分はなにもわかってないのかもしれなかった。
けれど確かにその夜、誰よりも強く、誰よりも真剣に、
ひとつの命を願った少女がいた。
――どうか、君が、生きていますように。
――どうか、君の心が、壊れてしまいませんように。




