40話 レヴィ討伐戦3
天空に大魔法陣。
青白い稲光のような魔力が空を走り、周囲の空気が鳴動する。
天から無数の光の槍が降り注ぎ、大地を洗う。
「《天誅封嵐》――滅せよ!!」
「■■■■────ッ!!」
レヴィは吠えるように叫び、黒い剣を振りかざした。
呪いの気流が渦を巻き、光の槍を弾き返す。
その光のさなか、さらにゼルディスは魔術を立ち上げる。
その掌には、白銀に輝く魔力が圧縮されていた。
「≪封魔荒払≫この一撃で……!!」
轟音が響き、世界が白光に包まれた。
呪いの瘴気が吹き飛ばされ、
黒い剣が軋むような悲鳴を上げた。
ゼルディスは間を置かず詠唱を再開した。
空には次の大魔法陣。
次の瞬間、雷光と聖なる刃が降り注ぐ。
ゼルディス率いる精鋭部隊と黒い剣士の戦いは、凄まじい光景となった。
ゼルディスは杖を振るい、魔力の奔流を放つ。攻撃の軌道は予測不可能。威力は地形を変えるほどに絶大。
それでも。
これほどの破壊の渦の中心で、黒い剣士は立っていた。その背の翼で自分の体を抱いて。
「……何という力だ……!」
魔術師の一人が呟く。恐怖と驚嘆が入り混じった声だった。
纏う呪いが、黒い竜のように蠢き、その場を蹂躙していた。
不思議とその黒い剣士は、手に持つ剣を頑なに振ろうとはしなかった。
切ることだけは許さない。
自分自身が呪いに支配されても、刃を振るうことは選ばない。まるで決めているかのように。
レヴィの体を覆う黒い瘴気が途端に膨れ上がる。
数千、数万の亡霊が絡みつくように―─蠢く闇が生まれる。
それは無数の触手だった。
触手は大地を侵食し、
魔術師たちが展開した光の魔法陣を喰らい、
聖刃を溶かし、
雷光を飲み込む。
「な、何だこれは……!? 退げ!! 退げぇッ!!」
周囲の騎士達が恐怖に目を見開き、後退ろうとした瞬間、
触手が獣のように跳ね、彼らを鎧ごと貪り尽くした。
残った魔術師たちも、声をあげる暇さえなく呑み込まれていく。
レヴィの周囲が一掃されていく。
ノアは、躊躇なく闇の奔流へと身を投じた。
ノアの杖から放たれた光輪が拡がるとともに、彼女の周囲一帯に、魔力が渦巻き、透明な光の結界が、形作られる。
レヴィとノア。を黒と白、相反する力がぶつかり合い、轟音とともに森を震わせた。その結界は、荒れ狂う呪詛を正面から押し返した。
「ノア。なんできた!!」
「ゼルディス様。すいません。私も戦わせてください!」
「だが君は……レヴィの……」
「私はレヴィと約束したんです!」
結界は恐るべき呪詛を押しのけつつある。
態勢を立て直し、魔術師達は途切れない魔術をレヴィへと浴びせていく。
「お願いします。ゼルディス様。レヴィを幻から解き放つのは、私の役目なんです。」
「ノア……だが……」
「いいんじゃないですか?隊長。その子覚悟決めてきたんですよ。それにすげえ結界魔術だ。呪いに完全に対抗してる。」
隊員の1人のいう通りだった。
呪いの暴走は完全には止められないが、ノアの結界によって、戦況は少しずつ制御されつつあった。
「ノア。俺達はレヴィを殺すつもりで動いている。」
「知っています。でも、ここで何もしなかったら、きっと私は……邪魔はしません……できる限り、精一杯やります!だから……!!」
その小さな体から迸る、迷いなき信念の瞳にゼルディスは頷いた。
「……わかった。ノア。前衛は俺たちが請け負う。君は回復魔術も使えたな。ローテーションを組む。頼りにしていいか?」
「はい!!」
「よし。ここから盛り返すぞ!!!」
森の奥、やがて戦場は静寂に包まれた。
呪いは、レヴィの体をさらに変化させていた。
背には翼。
そして黒い尾。
獣じみた黒い兜。
レヴィの姿は、剣を手に待つ竜人へと姿を変えつつあった
彼の呪いはさらに強まり、地面は裂け、木々はねじれ、全てを押し潰すように、瘴気の渦は幾度も渦巻く。
大勢は決しつつあった。
レヴィだけが立っていた。
森の中に倒れ伏す多くの魔術師達は、まだ息があった。
地形を変えるほどの激戦の中でまだ全ての人間が息をしていた。
だがそれだけだ。
杖も剣も、攻撃も防御も、呪いの圧力に押し潰され──
なんとか立ち上がると、ゼルディスは、レヴィへ立ちはだかった。
レヴィは、ゆっくりと歩み寄っていく。
剣を握る手が微かに震える。
刃を振わないとするレヴィの意思も、もはや限界が来ていた。
その剣が、初めて振るわれようとされていた。切ってしまえば、もはや終わりだ。
「だめ!!!」
ノアの声が森の闇を切り裂いた。
迷いも恐怖もなかった。胸に燃える想いだけで、彼女は飛び込んだ。
光の結界が、剣と拮抗する。
その結界すら、呪いは飲み込もうとする。
「負けちゃだめだよレヴィ!!私が、レヴィを守るんだ……絶対守るんだ!!!!」
ノアの魔力が呪いの渦を押し返す。




