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剣の呪いで修羅となったので、最強を目指す。進化条件はセクハラ!?いいだろう。俺は胸を直視し手を伸ばす。  作者: 無印のカレー
変わるもの、変わらないもの

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36話 時間切れ

次の朝、淡い陽光が窓から差し込む中、レヴィはゆっくりと目を覚ました。


まだ傷の痛みが残る体を起こしながら、出発の準備を始める。

彼は受付嬢のもとへと歩み寄る。


「ん。おはよ。」

「うっす」


まだ寝起きの受付嬢がいた。

やたらエロいガウンを着ている。

目のやり場に困っていると、受付嬢も気づいたのか頬を染めていた。


「夜はこんな感じで寝てんの。気にしないで。」


気にしないのは無理だが、触れないのが大人の対応か。


「世話になった。本当に助かったよ。」


受付嬢は軽く微笑み、肩をすくめた。


「うん、気にしないで。ほっとけなかっただけだから。ご飯作るね。座ってて」

「いや、俺は」

「いいから。」


やりとりはぎこちなくも、どこか温かかった。

お互いに、言葉にしなくてもわかる何かがあった。


ご飯が用意される。食べつつ、受付嬢は言った。


「それじゃ、この後、大通りの喫茶店に集合ね」


レヴィは戸惑いながら呟く。

「な、なぜ?」


受付嬢はにっこり微笑んで言った。

「ノアちゃんの所にかえるんでしょ。送ってあげるよ。私も今日休みだし」

「いいって。1人でいくよ。」


「遠慮しないで。脱がされたいの?」


「……なぜ、脱がすんだ。」

「なぜ断るという発想に至るのよ。」


「……」



準備が終わった。

「出てくときは、窓から出ること。バレたらギルドで働けなくなる。」


受付嬢は真剣な表情でそう告げる。


「お、おう。まじで悪いな」

「ホントよ。言っておくけど、君じゃなかったらあの夜ギルドから放り出してるからね?」

「放り出してくれても良かったのに」

「じゃあ、あの時、帰り道がわからない子犬みたいな顔すんな。」


額を指でつかれる。


レヴィは額をさすった。

カーテン越しに窓を確認する。


「屋根の方から回った方が、人目にはつかなそうだな。」

「くれぐれも気をつけるように。バレたら空き巣が入ったことにしよっと。」

「空き巣みたいなもんだけどな」

「はいはい。ちゃっちゃっと行く」


レヴィは窓の方へ向かい、そっと外の冷たい空気を感じながら身体を滑らせた。


受付嬢はその背中を見送りながら、小さく息を吐いた。


(やれやれ。全く。世話が焼ける)





王宮魔術師止まる厩舎。その演習場。


受付嬢は、少年の袖を軽く掴んだまま立ち止まる。


「……いたわよ。ノアちゃん。」


レヴィは無言で演習場を見つめた。


遠く、白いローブの少女――ノアが、魔術の練習をしている。

ノアはゼルディスの指導の元。杖の制御能力を発揮するべく訓練をしていた。



受付嬢が、ため息混じりに笑う。

「ああやってると、ホントに王宮魔術師にスカウトされたんだなって実感わくわね。ノアちゃん。行っちゃうのね。」

「王都の魔術の塔へ行くらしいな」

「すっご。上澄しか入れないとこよ」

「……」


レヴィは何も言わない。


それは奇跡のような話だった。

誰にも気づかれず、誰にも知られず、それでも密かに燃えていたノアの魔力の灯。

王都から来た魔術師は、それを見抜き、引き上げた。


「……じゃあ、私はそろそろ行くから。レヴィ。またご飯おごるように。」

「ああ。世話になったな。」


レヴィは歩きだそうとした


(……あれ?)


レヴィはうずくまった。


「れ、レヴィ、ちょっと大丈夫!?」

受付嬢がうずくまったレヴィの背中をさする。



ゴボ。


レヴィの口から、真っ黒い何かがこぼれ落ちた。


そのまま力を失い。地に伏す。


「え……ちょ、ちょっと!!」


受付嬢は倒れ伏すレヴィを見た。

白目を剥き。体が痙攣していた。


冷や汗が止まらず。呼吸が早い。


どす黒い血が地面に大きな染みを広げる。




レヴィの前には呪いの幻覚が映し出されていた。

おかしい。

剣は、静かだ。


なぜ、剣は静かなのに呪いが?


森の主、シヴェルは呪いの剣を持たずとも呪いを撒き散らしていた。


つまり、呪いの剣を持たずとも、呪いを撒き散らす。

呪いそのものの存在になる事。まさかそれが。


まずい。


背中に黒い羽を持つ、黒い騎士の姿へと、レヴィは転じた。




受付嬢は震える手で口に当てる。

「レヴィ……だめ……!戻って――!」


受付嬢の悲鳴が、朝霧に裂けて消える――。


「レヴィ、だめだよ……!ノアちゃんのところに帰るんでしょ!?!?レヴィ!!!!」


――ひときわ大きな声が響いた。


レヴィの視界は炎に揺れていた。


剣は、変わらず、切れとかき立てていた。


体だけが、まるで置物に変じたように、全く動かなかった。




──剣を握る手が震えた。


何かを持ち帰らなねばならないはずだった。

深き深淵から。


(いや、いいんだ。時間切れだ。もう。理由は失った。)


その喪失の感覚だけは確かだった。




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