30話 魔術師4
目の前には、笑顔を浮かべるお姉さん。
酒の匂い、柔らかい感触、ぬくもり。
レヴィは思った。帰りてー。
ダンジョンで剣を振ってる方が楽だった。
万が一ここで呪いの幻覚に飲まれたら、幻覚の克服には相当苦労する。
幻覚の克服の方法は2つ。
切るか、欲情するか。
レヴィはお姉さんを見つめた。お姉さんはレヴィの視線に気づくと、手を振っていた。
綺麗なお姉さんだった。
呪いの制御には、強い想いが必要なのだ。それを満たせる強い情動がなければならない。
単純に女性のパイオツ見ればいけるかは、大いに不安が残る。
切る対象があるかなと周りを見渡す。ない。あるわけがない。
(やべえなここ。理由つけて帰ろ。)
レヴィは静かに決心した。
「レヴィ。楽しんでるか?」
「ああ、すまない。慣れていなくて。」
「見ればわかる。俺の目論見通りだ。」
「ガキがこんなとこに慣れてたらやべえだろ。」
「そのガキは、ダンジョンの深層から山ほどの素材を持って、帰ってくるがな。」
レヴィは思った。
(このおっさん、あーいえばこういう。)
「勘定は払うよ。帰っていい?」
「おれたちの理想についてだ。聞いてけ。」
ゼルディスは真剣な表情で続ける。
「この国を変える。魔術の力でだ。まずしい人を助け、困っている者を支え、孤児院やスラムも放っておかない。俺たち魔術師は、そんな小さな灯火を守るためにある」
彼の声には熱がこもっている。
「魔術師とは、ただの呪文使いじゃない。世界を変える力を持つ者だ。
上層階級の歪んだ既得権益、腐敗した体制、魔物による被害。それらの食い物にされている病に苦しむ子供たち、飢えに耐える村人たち、絶望の中にいる孤児たちを救う。」
澱みなくゼルディスは話す。
「魔法の力とは、弱き者たちを救い、希望の種を蒔く。皆の利益を考え、この国の闇を照らすものだ。」
レヴィは頷いた。
「なるほどな。俺はどうすればいい?帰っていい?」
「レヴィ。俺たちと来い。共に国を変えよう
レヴィは首を傾げた。
普通にわかってなかった。
「いや、意味がわからないが」
「いや、わかるだろう。レヴィ。俺は王宮魔術師だ。理由もなくこんな話をするとか思うか?」
「酔ってんのかなって。」
「レヴィ。俺たちは」
お姉さんが告げてくる。
「ゼルディスは本気よ、君に来て欲しいのよ。」
「俺に?なんで?」
「そんなの。その筋肉に惚れたからに決まってるじゃない」
レヴィは思った。
このお姉さん、いちいちなんで触ってくるんだろう。
確かめるように優しく揉み返す。
「本当にいい筋肉ねー。しなやかで。ずっと触ってたい。」
レヴィは素直に後ずさった。
お姉さんはあら、逃げられちゃったと、残念がる。
「めんどくさいからゲロっちまうが、呪いの制御方法は2つだ。」
「聞こう。」
「待って。めんどくさいってひど。」
ゼルディスはお姉さんを宥める
「がっつきすぎだよ。嫌われたな」
「そんな事ないもん。普通だもん。嫌われてないもん」
「よしよし。」
「うわーん。」
レヴィは思った。
(帰ろーかな。)
ゼルディスは、一通り宥めるとレヴィに向け、前傾になった。
「聞こう。」
「呪いの制御方法は2つ。切るか、強い想いを抱くかだ。呪いの剣が誰かと共に戦えるとは、俺には思えない。」
「なるほどな。呪いの制御方法は理解した。逆に聞くが、レヴィの強い想いとはなんだ?」
「……」
レヴィはためらった。
(言っていいのかなーこれ。ゼルディス、貴族だよな。不敬罪とかでめんどくさい事にならない?)
「聞かせてくれ。レヴィ。君の強い想いとはなんなんだ?」
レヴィは観念した。
すでに発言はタメ語だし、色々やらかしていた。
今更なのかもしれない。
(怒ったら、土下座して謝って逃げよう。本当に敵対したら、どっか山に埋めよう。)
「おっぱいだよ。おっぱいをみると、力が湧くんだ。」
「なんだ。結局おっぱい好きなんじゃない!!」
お姉さんから黄色い声が上がった。




