28話 魔術師2
「またその量……。君、頭おかしいからね。」
「もはや、隠さなくなったなあんた。」
「あんたね、組織には報告書ってものがあるの。どこの誰が何を持ち込んで、いくら払ったか明記しなきゃなんないの。」
「へえ」
「へえじゃない。よーわからんダンジョンの深層から、すげえ貴重品ばっか持ってくるから、報告書がおわんないの。見て、この隈。」
「わかんねーや。」
「こ、殺したい。こいつ。──その辺でぶらついてなさい。すぐ終わらせるから
「悪いな。いつも感謝してるよ」
「ホントだよ。もっとねぎらいなさいよ。あんた。」
レヴィは淡々と返す。目は素材を見据えていた。
少しは足しになるのだろう。
テキパキを処理をするギルド嬢をぼんやりと眺める。
その時、冒険者ギルドがざわついた。
ギルドホールに一瞬で緊張に覆われる。
入口をくぐってきたのは、統一された深い藍色のローブをまとった魔術師たち。胸元には王家の紋章──双頭竜と聖樹を組み合わせた紋が縫い込まれている。
「……やっぱり噂は本当だったのか」
「深層の異変を調べに来たのか?」
「目をつけられるぞ、目を合わせるな……」
ざわめきが広がる。
魔術師の一団は受付前で足を止め、杖を突いた先頭の男が視線を巡らせる。
「ギルド長はいるか」
重く響く声に、新人の受付嬢が思わず背筋を伸ばしていた。
レヴィの姿に、魔術師の先頭の男が目を留める。
魔術師は冷たい視線を動かさず、少年を見据える
「そこの冒険者。すまない。それをどこで手に入れたか聞いていいか?」
いつまでも答えないレヴィに受付嬢は聞く。
「レヴィ君。聞かれてるよ?」
「俺だよな、やっぱり」
「あの、怖いからすっとぼけないでね?貴族だよ」
「はいはい」
レヴィは魔術師に向き直す。
「ダンジョンだよ」
「1人か?」
「ああ。連れが前はいたが、病気のやつがいてな。最近は俺一人だ。
「その剣、見せてもらってもいいか?」
「あいよ。」
受付嬢が袖を引っ張ってきた。
「レ、レヴィ君。いいの?見せちゃって。」
「別にいいだろう。なんなら持ってって欲しいくらいだ」
「え、私にくれるの?」
「やんねーよ」
レヴィは静かに左手を持ち上げる。
そして、背中に負っていた布をするりと外すと──
ギルド中の空気が、ひと呼吸で凍りついた。
現れたのは、黒く、禍々しい光を放つ剣。
「……っ!」
魔術師の男が即座に杖を構える。
周囲の魔術師たちも、詠唱に入ろうとするが──
レヴィは、剣を布に隠した。
「……じゃじゃ馬だろ。誰かれ構わず食いつくそうするんだ。くそうぜえ」
ギルドの冒険者たちは思わず後退る。
受付嬢は小さく悲鳴をあげ、後ろの書類棚に倒れ込みそうになる。
少ししてレヴィは素材の手続きを終えた。
「……話は終わりか?いっていい?」
「あ、ああ。」
黒い剣を肩に背負い直すと、ギルドの扉へ向かった。
ギィ……
扉が開く音だけが、異様に大きく響いた。
「……まさか……ここまでとは……」
「あ、あの……ゼルディス様」
沈黙を破ったのは、魔術師の取り巻きの一人──まだ若く、顔色も青ざめたままだ。
「そ、そんなに……やばいんですか……? あの剣……」
「……災厄だ。護符が燃え尽きている」
扉の向こうで揺れる昼の光だけが、あの少年の背を想わせるように微かに揺れていた。
後日、冒険者ギルドでギルド嬢が言ってきた。
「レヴィ。待ち人よ。」
「待ち人なんていねえ。だって知り合いいねーもん」
「いや、そこは胸を張らないで。あそこのテーブル。早く行く。」
少し受付嬢は緊張していた。
レヴィは肩をすくめると、指示されたテーブルへ向かう。
「やあ。少年。少しいいか?」
「あんたは……この前の……」
レヴィは王宮魔術師に声を掛けられていた。
「俺はゼルディス。君の名を聞いていいか?」
「レイヴァルザドル。長いからレヴィでいい。」
「一杯奢ろう。ついてきてくれ。」
「……ああ。」
レヴィは思っていた。
(……めんどくせえ。)
こいつは貴族だ。深く関わればろくな事になるまい。
呪いの剣を徴収するって事にすらなるんじゃないか?
それならそれで、いいのだが。可能ならば。
店にはすぐについた。
「ここだ。俺達はよくここで飲んでいる。おすすめがある。お前も飲め、レヴィ。」
案内された店を見てレヴィは言った。
「ま、まじか……」
連れてこられたお店は酒場だった。
胸の大きなお姉さんが、お酌をしてくれるお店だ。




