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剣の呪いで修羅となったので、最強を目指す。進化条件はセクハラ!?いいだろう。俺は胸を直視し手を伸ばす。  作者: 無印のカレー
変わるもの、変わらないもの

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27話 魔術師

病が癒えても、老シスターは仕事に復帰できるほど元気にはならなかった。


老シスターはごめんねと言い、とこに伏せる。

食欲や、日中の活動が減っていた。


ノアの負担が増える。


物資も配給だけでは足りない。

薬も、布団も、冬を越す薪も、必要なものは尽きない。


金はやはりたりない。




「よっす。レヴィ君。そろそろ決めた?」

「何が。」

「休暇の日」

「ねーよそんなもん。」


「ご飯いく約束は?」

「休暇が来たらだよ。」


「あのねレヴィ君。」

「なんだよ。」


「殴るよ?」

「……」


レヴィが冒険者ギルドの扉をくぐると、いつものざわめきが迎えた。

少年は背負った素材袋を、疲れた手でカウンターに投げる。


ギルド嬢がふと顔を上げて、処理しながら言う。


「君にアドバイスあげるよ。」

「いらねえから。」


「綺麗なお姉さんの言う事は聞きなさい。」

「誰だ?それ」

「私。」




レヴィは歩いていた。

受付嬢と。

腕を組んで。


「大丈夫。大丈夫。ノアちゃんには黙っててあげるから。」

「なんでノアの名前が出てくんだよ。」

「そりゃ、正妻だから。」


「正妻……」



「……あれは……」


受付嬢が息を呑む。

「誰?」

「王宮魔術師の一団よ」

「表向きは王都防衛の結界維持や魔導研究を担ってるけど、裏じゃ……いや、表でもか。国の権威そのもの。王の直轄で動く精鋭」


魔術師たちは無言のまま、きびきびと列を作って進む。先頭の男は高位の魔導士らしく、装飾の多い杖を持ち、その瞳は研ぎ澄まされた刃のように冷たい。


(あいつら、けっこうやるな。)


レヴィは思った。


魔術師達は、ただの肩書きや権威で威圧しているわけじゃない。

呼吸、魔力の流れ、杖の構え……どれをとっても隙がない。

体の奥底で、呪いの剣がざわめく。

戦いを望んでいるわけじゃないのに、剣は悦びを含んだ脈動を伝えてくる。


「いくよ。レヴィくん。あんま見てると目につけられる。」

「ああ。」





夜の孤児院。

窓から月明かりが静かに差し込み、古びた木の床を淡く照らしていた。


少年はくたびれた体を休めながら、ノアと話していた。

彼女は孤児院の片隅で、静かに語り始める。


「レヴィ。聞いたよ。ギルドの受付とご飯食べたんだって?」


レヴィ速攻で茶を吹き出した。


「うわ。ホントなんだ。あの綺麗な人だよね?」

「綺麗かどうかは知らんが俺らの担当だったあの受付嬢だよ。」


「……ふーん。一緒にご飯食べたんだ。」

「付き合いだよ。飯食って帰った。」


「また行くの?」

「もう行かねーだろ。知らねえけど」


「ホントかなー。」

ノアのジト目に、なんだか、いたたまれない気持ちになる。


「まあ息抜きは必要だよね。やだな。レヴィが女遊びにハマったら」

「相手がいねーだろ。昼夜問わずダンジョンだぜ?帰ってきたら大怪我ばっかで、どうやってそんな時間あるんだよ。」


「言っとくけどね、レヴィ。女遊びする人はそれでもするんだよ?」


「なるほど。」

レヴィは思った。


(すげえな。女遊びって。俺には無理だ。)



「そういえば、魔術師の一団が、孤児院ごと引き受けるって話があるの」


レヴィは眉をひそめて顔を上げた。

「引き受ける?」


ノアは少し間を置いてから、続ける。


「うん。魔術師たちは、子供たちのためにもっと安全で、ちゃんとした場所を作ろうとしてるんだって。

でも、誰もまだ詳しいことは知らないみたい。そうなったら、私たちの生活も少しは楽になるのかな。」


「さあな。」


「どうなるのかな?私たちの未来。」


ノアは夜空を見ながら考えている様子だった。


(選ぶべき未来。)


レヴィは思う。そんな事、考えた事もなかった。





別の日。

孤児院の窓辺で、ノアはレヴィに話しかけた。


「ねえ、聞いて。魔術師たちと会ってきたの」

ノアのその声は輝いていて、どこか誇らしげだった。


「おばあちゃんからせっかく教わってたし、魔術を披露してみたの」

彼女の瞳は希望で満ちていた。

「それで魔術の素質があるって言われて」


レヴィは黙ってその言葉を聞いていた。

ノアの姿は、まるで新しい未来を掴んだように見えた。


「すげえな。ノア。」

「うん。素質があるとか言われたけど、ぶっちゃけ魔術師とかはどうでもよかったんだよね。早くレヴィと冒険でたいよ。」

「そろそろノアとのコンビネーション忘れそうだ。俺」

「ひど。じゃあまた、いちからだね」


ノアはシュッシュっとファイティングポーズをする。

ノアの様子にレヴィはふっと笑う。


でも、胸の奥には冷たい感情が広がる。

なぜだろう。祝福すべき事なのに、胸が少し痛い。


(選ぶべき未来。俺にもあったんだろうか。)


考えた事がなかった。


でときっとあった。

でも、そんな事を考えていたらきっと。


(呪いに飲まれて俺は死んでいた。)




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