20話 森の主シヴェル
転移魔術──
シルフィリアは伝説に伝わるその魔術を用いて、レヴィを森の深部へ誘った。
「すんません。酔ってはきそうっす」
「我慢して。吐いたら消すから」
「はい……」
「ほらちゃっちゃと歩く。」
「うっす。」
宙を飛びながらシルフィリアは言う。
その下をレヴィは歩く
(わかってたことだけと、扱いが辛辣です。)
レヴィが乳が真実といった時から、扱いが雑だった。
シルフィリアの中でのレヴィの立ち位置が、どうしようもないやつという立ち位置に確定した。
(しかし──)
レヴィはその光景を圧倒されていた。
木々は異様にねじれ、空は薄暗く、重い霧が立ち込めている。足元には見たこともない奇怪な花や蔦が絡みつき、静寂の中に時折、不気味な囁きのような風の音が混じる。
──ここが森の深部。村の周りと、同じ森とは思えない。
「この奥ね。怖気づいた?」
「覚悟はできてる。逃げるつもりはない。」
「その意気。」
シルフィリアは微笑み、そしてレヴィは一歩、また一歩と先へ進んだ。
やがて、森の奥に巨大な石の祭壇が現れ、少年は見上げた。
見上げるほどでかい異形の鹿がいた。
レヴィは引き笑いした
森の主。シヴェル。
それがそのデカすぎる鹿の名前だった。
レヴィは思った。
(なにこれ聞いてない。)
それは、想像をはるかに超えた巨大な鹿の名だった。
その角は枝分かれして大樹のよう。身体は古代の樹木のように幹太く、背中には苔と花が生い茂っている。
目は深い緑色の輝きを放ち、まるで森そのものの魂が宿っているかのようだ。
「でけえ……」
レヴィは思わず心の中で叫んだ。
(なにこれ、聞いてねぇよ……!)
「■■■■────!!!」
シヴェルはその巨躯を揺らしながら、低くうなりを上げる。まるで、悠久の時を超えて森の秘密を知る者の嘲笑のように、腹に響く。
すでに完全に認知されている。
「剣士君、覚悟して。彼はかつてルゼフと呼ばれた人間の魂。呪いが彼を森の主に変えた。さあ、試練の時だ──!!」
シルフィリアの張り上げた声に呼応するように、シヴェルは立ち上がる。そして声。
シヴェルの咆哮が戦闘開始の合図だった。
レヴィの胸に凍りつくような戦慄が走ったその瞬間、シヴェルはゆっくりと大きな前足を振り上げた。
そして、地を揺るがすほどの轟音とともに、その巨大な前足が地面へと振り下ろされる。
爆発のような衝撃波が森全体を揺らし、周囲の木々が一斉に裂け散り、厚い霧が吹き飛ばされた。
レヴィは呪いの剣をぎゅっと握りしめ、飛び散る土埃の中で必死に身を低くした。
シルフィリアは凛とした声で叫ぶ。
「動いて!直撃したら即死だから!!」
「くそ!!!こんなでかいなんて、まじで聞いてねえよ!!!」
「言ってないからね!!!」
「ですよね!!」
森の主シヴェルの怒りが、今まさに解き放たれた。
すでに逃げ場がない。
その鹿の巨体が、まるで森そのもの。
そして少年は悟った。
(この戦い、乳の介在する余地が、まったく、ない。)
ていうか、何、乳って。
レヴィは必死に走る。シヴェルは地団太をふむように大地を踏み荒らす。
大地が陥没し、クレーターがいくつも作り上げられる。
粉塵が舞い、地響きが足をもつれさせた。
「この、くそ鹿があ……!」
「動いて!!泣き言はかない!!」
「ああああああ!!!」
「足も動かして!!!」
シルフィリアの檄が飛ぶ。
「呪いの剣の真実の力を見せて!!!」
真実の力ってなんじゃあーー!!!
レヴィは叫び声を森に響かせた。
逃げながらもレヴィは呪いの剣の権能を開放していく。
呪いの剣から黒い瘴気が渦巻き、レヴィの身体を覆い尽くす。
レヴィの視界に幻覚が揺れ、戦場の光景が鮮明に浮かび上がる。
その中心に立つ女戦士の姿。彼女の揺れる胸元が、レヴィの意識を一気に覚醒させる。
レヴィはためらわず、手を伸ばす。
「それが君の権能か!!いい感じできもち悪い!!」
脇でシルフィリア様がごちゃごちゃ言っていた。
黒い魔力が渦巻き、レヴィは彼は黒い閃光そのものとなった。
シヴェルの体を風のようにかけあげると、その頭蓋に対して全身の力を込めて一撃を振り下ろす!
その刃は呪いと誓いを帯び、森の主シヴェルの巨大な角へと真っ直ぐに突き刺さる――!
衝撃と共に、森が唸り、空気が裂ける。
シヴェルは何の通用も感じていない巨大な瞳を、レヴィに向けた。
レヴィは思った。
あ、効いてねえやこれ




